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天空夢幻譚~戦士の為に鐘は鳴る

むかしむかしのこと。

この世界に、地獄の帝王と呼ばれる大魔王が現れ、人々を恐怖と絶望に陥れました。
これに対し、天空の城に住む龍族の王「マスタードラゴン」が立ち上がり、
激しい戦いの末に、地獄の帝王を打ち倒し、地の底深くに封じ込めたのでした。

それから時は流れ、その戦いは、伝説の中で語られるだけになりました。
人々は、平和が永遠に続くと信じて、幸せな時を過ごしていました。
地獄の帝王の復活が迫っていることも知らずに…

しかし、悪い事だけではありません。
どんな邪悪をも打ち倒すことができる「天空の勇者」もまた、どこかに生まれつつあったのです。

これは、その勇者を探す男たちの物語。

ここは、戦士の王国バトランド。
バトランドの王宮戦士「ライアン」は、近頃発生した、子どもが行方不明になる事件を追っていました。
その最中、井戸の底の洞くつで、ホイミスライムのホイミンと出会い、湖の塔へとやってきたのでした。
そして、塔の最深部で、ついに、子どもたちを発見しました。

しかし、子どもたちの前には、邪悪な魔物が立ちはだかっています。
魔王に仕える神官と、大きな一つ目の魔物です。

ライアン「我こそは、バトランドの王宮戦士ライアンにござる。
おとなしく子どもたちを返せば、命だけは助けてやろう。従わなくば、遠慮なく斬り捨てる!」

ピサロの手先「フン、やってみるがいい!ゆけ、おおめだまよ!」

ライアン「問答無用というわけか」
ホイミン「ライアン様!痛恨の一撃に気をつけて!」
ライアン「案ずるな、ホイミン。一撃で片をつければ問題ない。はぁぁぁ…!バトランドの一の太刀!でぇぇぇい!」

ライアン必殺の一撃を受けて、おおめだまは、どうと音を立てて崩れ落ちました。

ライアン「後はお主ひとりでござるな。子どもたちをおとなしく返す気はないか?」

ライアンもホイミンも、おおめだまを一撃で倒したことで、少し油断していました。
敵の神官がニヤリと笑ったかと思うと、おおめだまがむくりと起き上がり、全身が真っ赤に染まって行きました。
真っ赤に染まった魔物は、身の毛もよだつほどの雄叫びを上げました。

ライアン「し、しまった…!」

ピサロの手先「フッフッフ、こいつはただのおおめだまではない。油断したのが貴様の運の尽きよ。これでもくらえい!閃熱呪文・ギラ!」

ライアン「ぬわーっ!!」
ホイミン「ライアン様ーっ!」

絶体絶命のその時、鋭い太刀筋が、ギラの炎を切り裂きました。

ライアン「むっ、これは一体…?」

見ると、そこにはひとりの戦士が、剣を抜いて立っていました。
不思議なことに、体は人間のようですが、頭から上はカエルのように見えました。

ライアン「カエル…?」
ホイミン「邪教の館で、合体事故にでもあったんでしょうか?」

カエル「最後まで気を抜くな。勝利に酔いしれた時こそ、スキが生じる」
ピサロの手先「なんだ貴様は?」
カエル「貴様に名乗る名前などない」
ピサロの手先「フン、誰であろうと、ワシのジャマをするヤツは蹴散らすまでのこと!ゆけ、おおめだまよ!」

カエル「サイラス、技を借りるぜぇーっ!ニルヴァーナ・スラッシュ!」

おおめだま「鋼鉄変化呪文・アストロン!」

カエル「バカな、ニルヴァーナ・スラッシュが…!?」

ホイミン「あれは…アストロン!」
ライアン「知っているのか、ホイミン!?」
ホイミン「はい、ライアン様。アストロンとは、全身を魔法の力で固い金属に変え、あらゆる攻撃を無効化する究極の防御呪文。
それを使うということは、あれはただのおおめだまじゃない!」
ピサロの手先「クックックッ、その通り。こいつは、おおめだまにスペクテットの遺伝子を合成して作り出した変異種なのだ」
ライアン「なんと…!」
カエル「あらゆる攻撃を無効化だと…冗談じゃない。もう一度だ!」

ライアン「いかん!このままでは勝ち目は無い。ホイミン、一時撤退だ!」
ホイミン「分りました!こんなこともあろうかと、1枚だけ持って来たキメラのつばさで、カエルさんも一緒に!」

カエル「な、なにをする貴様らーっ!天井にぶつかるーっ!」
ライアン「心配ご無用!でぇぇえい!」

ライアンは塔の天井を、頭突きでぶち破りました。
こうして三人は、どうにか窮地を脱することができたのでした。

そして、やって来たのは、ホイミンが隠れていた井戸の底の洞くつ。

ライアン「手荒なマネをして、すまなかったでござる」
カエル「いや、あのままでは、どうしようもなかっただろう。感謝する」

ライアン「お主は人でござるか?それとも魔物でござるか?」
カエル「さぁな。そんなことはもう忘れてしまった」

ライアン「とは言え、名前がないのは呼びにくいでござるな。名は何と申す?」

カエル「俺に名前などない。どうしても呼びたければ『カエル』とでも、名乗っておこうか」
ライアン「…そのままでござるな」
カエル「悪いか?」
ライアン「いや、悪くはない。だが『そのまま』でござるな」
カエル「だから『悪いか?』と言っている」
ライアン「いや、悪くはない。ハッハッハッ!」
カエル「フッ…おかしなヤツだ」

ライアン「では、改めてカエル殿。拙者はバトランドの王宮戦士ライアンにござる」
ホイミン「僕はお供のホイミンです」

ライアンはカエルに、これまでのいきさつを話しました。

そしてカエルもまた、自分の身の上を話しました。
かつて親友のサイラスと共に、魔王を倒しに行ったこと。
その戦いの最中、サイラスは命を落としたこと。
そしてカエルは、命は助かったものの、このような姿に変えられてしまったこと。

カエル「このグランドリオンが、サイラスの形見だ。それと、さっき使った技『ニルヴァーナ・スラッシュ』もな」

ライアン「カエル殿。そのサイラス殿の技と拙者の一撃を重ねたら、アストロンを打ち破ることができんものかな」
カエル「俺も同じことを考えていた」
ホイミン「理論上は可能だと思いますよ。僕の記憶が確かならば、強い力をもって、アストロンを自力で打ち破った勇者がいたそうです」

ライアン「うむ。では、やってみるか」
カエル「そうだな」

こうして、三人の特訓が始まりました。

カエル「ニルヴァーナ・スラッシュ!」
ライアン「バトランドの一の太刀!」

カエル「ライアン殿、タイミングが遅いぞ!」
ライアン「すまぬ!今一度、頼む!」

カエル「ニルヴァーナ・スラッシュ!」
ライアン「バトランドの一の太刀!」

カエル「今度は早すぎる!」
ライアン「むむむ…!」

ホイミン「ライアン様、頑張って!」

カエル「ライアン殿!力を込めて、なおかつタイミングを早くできないか!」
ライアン「簡単に言ってくれる!」

ホイミン「あの、僕が後ろからライアン様を押すっていうのはどうでしょう?」
カエル「はぁ?」
ライアン「お主の細腕で押したところで、どうなるものでもあるまい」
ホイミン「違いますよ。魔法です。魔法で押すんです!」
カエル「魔法で押す?」
ホイミン「はい。マホイミって、聞いたことがありますか?
ホイミ系は回復呪文ですが、マホイミはこれを転用して攻撃を行うことができるんです。
僕の魔力なら、ちょうどライアン様の背中を押すくらいの力になると思います」

ライアン「よし、やってみるか!男は度胸。何でも試してみるでござる」
カエル「フッ…三人で力を合わせる。悪くないな」
ホイミン「では、行きますよ!」

カエル「ニルヴァーナ・スラッシュ!」
ライアン「バトランドの一の太刀!」
ホイミン「マホイミ!」

ライアン「やった!」
ホイミン「タイミングはバッチリですね!」
カエル「ああ!新必殺技、その名も『ニルヴァーナ・スラッシュ・クロス』の完成だ!」

三人は再び、塔の中へと向かいました。

赤いおおめだまは、すでにアストロンを唱えていました。

カエル「いきなりで悪いが、早速行かせてもらうぞ!ニルヴァーナ・スラッシュ!」
ライアン「バトランドの一の太刀!」
ホイミン「マホイミ!」

三つの力がひとつになって魔物に斬りつけた瞬間、
なんとグランドリオンは、真っ二つに折れてしまいました。

カエル「グ、グランドリオンが…!?」
ライアン「カエル殿の剣が…!」
カエル「特訓のやり過ぎで、グランドリオンにヒビが入っていたのか…」

ピサロの手先「バカめ!剣を折ってしまっては、手も足も出まい。潔く死ぬがいい!」

カエル「サイラス、俺はまた仲間を、友を失ってしまうのか…?」
ライアン「なんの、まだまだ!カエル殿、勝負はこれからでござる!」
ホイミン「そうですよ!サイラスさんの時と違って、こんどは三人。ひとり多いんですから!」
カエル「ライアン殿、ホイミン…そうか、俺は一人じゃない。
あの時だって、俺が勇気を持っていれば…
そうだ。諦めている場合じゃない。
グランドリオンが無くても、俺には友が…仲間がここにいる!!」

その瞬間、グランドリオンがまばゆい光を放ちました。

カエル「グ、グランドリオンが…!?」

見ると、折れたはずのグランドリオンが、
神々しいばかりに姿を変えて、カエルの手の中に納まっていました。

カエル「この…みなぎる力…これが…
これが、グランドリオンの本当の姿なのか!!
やれる…この力があれば、絶対に勝てる!」

カエル「我が名はグレン!
サイラスの願いと、こころざし、そしてこのグランドリオン…
今ここに受けつぎ、わが友ライアン、ホイミンと共に、悪を討つ!」

カエル「ライアン、ホイミン、行くぞ!」
ライアン「おう!」
ホイミン「任せてください!」

カエル「サイラス、共に戦ってくれ!いくぞ!真・ニルヴァーナ・スラッシュ!」
ライアン「うおぉ、カエル殿!ものすごいパワーじゃぁ!ぬぉぉ、バトランドの一の太刀!」

その瞬間、ホイミンは思いました。

ホイミン「間に合わない。
覚醒したグランドリオンのパワーで、カエルさんの攻撃が加速している分、マホイミ1発分の加速では足りない」

ホイミンは心を決めました。

ホイミン「ライアン様、死なないで!」
ライアン「ホイミン!お主、何を…」
ホイミン「ダブル・マホイミ!」

2発分のマホイミで加速したライアンの攻撃が、カエルの攻撃に重なり、
見事にニルヴァーナ・スラッシュ・クロスが決まりました。

アストロンを破られた魔物は、地面に倒れこみました。
いつの間にか、敵の神官も姿を消していました。

ライアンとカエルは、ホイミンに駆け寄りました。
ホイミンは、もう、息をしていませんでした。

その後、ライアンは無事に子どもたちを助け出し、バトランドに平和が戻りました。

ライアンは、魔物たちが、この世界に生まれた勇者を探すために子どもたちをさらっていた事を知り、その勇者を探す旅に出る事にしました。

カエルとの別れの時がやって来ました。

ライアン「カエル殿。もし旅の途中に、このバトランドに立ち寄ることがあれば、あの井戸の底に花を手向けてはもらえぬか?」
カエル「ああ、もちろんだ。ホイミンが…俺たちの友だちが、死んだんだ」
ライアン「そう…でござるな」

その時、バトランド王宮の鐘が鳴り響きました。
それは、戦いで散って行った戦士たちのための鎮魂の音色でした。

そして、ライアンとカエルは、それぞれの勇者を探して旅立って行ったのでした。

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