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【活動報告】家族志向のケアの面接技術@静岡家庭医養成プログラム

8月10日に静岡家庭医養成プログラム(SFM)にてワークショップを行いました。

SFMは静岡県内の総合診療専門医/家庭医療専門医の養成を行っている、全国でも勢いあるプログラムの1つです。

https://www.shizuoka-fm.org/index.php

研修できるクリニックが菊川・森町・御前崎市に3ヶ所あり、それぞれが基幹病院と提携しながら独立してプログラムを運営しています(すごい!)。

プログラムとして「子宮の中から天国まで」というユニークなキャッチフレーズを掲げ、地域の方すべてのニーズに応えています。特に、女性診療に力を入れており、家庭医療専門医と産婦人科専門医のダブルボードの医師が複数名在籍しているの特徴(!!!)。女性診療の充実した教育を受けることができます。

浜松医科大学や米国ミシガン大学地域家庭医療学講座とも連携してプログラム運営を行っており、研究にも注力しています。臨床・教育・研究の三本柱が充実した何とも羨ましいプログラムです。

ワークショップ内容

「家族志向のケアの面接技術」をテーマにレクチャーに加えてグループワークも取り入れた約2時間のセッションを行いました。

いつも総論や家族アセスメントに焦点を当てることが多いですがが、今回は具体的な関わり方について知りたいという要望をいただき(レベルが高い!)、面接技術のみにスポットを当ててお話しして来ました。

前半は河田より個人面接編、後半は宮本より家族カンファレンス編と題して、レクチャーとグループワークを行いました。

ワークショップの様子

①個人面接編

家族志向のケアの面接では、問題とその原因を患者・家族に帰結させるのではなく、関係性やコミュニケーション・相互作用のパターンが問題を生み出し、維持し、悪化させていないかに着目します。

例えば、学校に行けなくなったお子さんがいたとします。学校に行けなくなった原因はわからず、原因探しをしても良くならないことが多いです。それよりも、どのように学校や家族が関わるかが大切で、それに着目し支援していくのが家族志向のケアの面接となります。

また、家族志向のケアの面接といっても、家族の同伴が必須というわけではありません。個人が変化すると家族との関係性やコミュニケーションも変化するため(さざなみ効果)、患者個人であっても家族志向の面接を行うこともできます。

個人面接の中で、過去や未来を悲観的に捉え、身動きが取れなくなっている患者に対して、治療者と患者の対話を通じた語り直しにより、今まで気づけなかった出来事の新たな側面や肯定的な意味を見出すことができるように支援します。

ファミラボでは個人面接の技術として、「感情面へのアプローチ」と「認知面へのアプローチ」を紹介しています。

ワークショップではそれぞれの技法の解説とグループワークで理解を深めていただきました。

②家族カンファレンス編

家族カンファレンスは個人面接に比べて困難を伴います。個人面談であれば患者中心の姿勢を一貫して行いやすいですが、家族カンファレンスでは家族それぞれの動機・主張・思いが異なることも多いです。例えば、一方だけに耳を傾けることは、他方へ「取り残された感」を意図せず与えてしまうこともあり、様々な要素に配慮する必要があります。

一方、家族カンファレンスには治療者・本人・家族と肯定的な関係を築きやすくなる、家族間葛藤を減少させることができる、精神疾患、子ども・青年の行動障害といった家族の影響が強い場合に有効とされます。

家族カンファレンスの実施には以下の四つの場面があります。

①入院・入所・終末期の病気の場合
②重大な家族問題/葛藤、家族機能不全が想定される場合
③臨床家が「身動きが取れない」と感じた場合
④退院前カンファレンス、サービス調整会議、関係者会議

家族カンファレンスには、家族を理解する、家族と信頼関係を築く、話し合いを促進する目的があり、医療者には医療の専門家だけでなく、ファシリテーターとしての役割も含まれます。

家族カンファレンスは開催前の準備・実践・その後の整理に分けられ、以下のような全体像となります。

ワークショップではそれぞれの詳細を述べ、事例のロールプレイを通して実践を学んでいきました。

参加者からの質問

当日はいくつかの質問をいただきました。回答含め紹介いたします。

Q)家族内葛藤が大きい場合、家族カンファの効果が乏しいとのことですが、その葛藤の大きさを評価する、あるいは家族カンファ開催可否を判断する指標はあるのでしょうか。また経験上でのご助言はあるでしょうか。

A)家族の関係性を測定する評価尺度は存在する(FACES、FADなど)のですが、項目が多くて煩雑なため、臨床上利用しにくいと思います。

経験上のことをお伝えすると、家族間の葛藤が深い場合は、問題をなんとかしたいという動機も乏しいことも多く、家族カンファレンスを提案しても抵抗が強いことが多いように思います。その際は無理に開かないようにし、個人面接でできる範囲のことをするようにしています。

Q)関係者が集う会議を家族カンファのような双方向性のものにしたいと思っても、その他の職種が全く意識していない場合、難しいことがあります。特にかかりつけ医として参加する退院前カンファレンスでは難しさを感じ、家族カンファレンスとして捉えない方が私自身の葛藤が少ないとさえ思ってしまいます。カンファレンス開催の際に、他職種に対して事前に実践されていることはあるのでしょうか?あるいはどのような工夫が必要でしょうか?

A)いろんなカンファレンスの形があり、特に退院前カンファレンスは情報共有の側面が強くなりがちに思います。また、他の方の主導のカンファレンスの場合、こちらが双方向性を意識したいと思っても難しいですよね。「家族カンファレンスではない」と割り切ってしまうのは良いと思いました。

ただ、他の方主導のカンファレンスや、情報共有が主なカンファレンスだったとしても私自身実践していることとして、発言が弱い人、困っていそうな人など議論で蔑ろにされている方を見つけて「どう思いますか?」とその方にあえて意見を聞くようにしています。

これは家族療法の方法でもあり、家族療法ではセラピスト二人で面接を行うこともあります。主セラピストが全体のファシリテーションをし、副セラピストは全体を俯瞰し、一人ひとりの表情を見て適宜発言を促すと良いと言われています。

Q)家族へのアプローチを考えるとたくさんあるように思え、すべて行うわけにはいかないと思います。どのようにしたら良いでしょうか。

A)すべてに対して介入するのは難しいと思いますので、レバレッジ・ポイント(小さな力で大きく持続的な成果を生み出す要点)を探すと良いです。

特に、家族へのアプローチの際には、変化への動機づけが高い家族メンバー(必ずしも患者とも限らない)が鍵になることが多く、そのメンバーに変化への行動を促すと良いと思います。全ての家族メンバーは影響しあっているため、一人でも変われば、家族全体も必ず変化が起きます(さざなみ効果)。

逆に、一気に色々とアプローチすると家族システムのホメオスタシス(恒常性)から逆に抵抗にあい変化が難しい場合があります。一つ一つ小さくアプローチしては、その変化がどうだったのかを検証しながら関わると良いと思います。

参加者からの感想

参加者の皆様からお寄せいただいた感想を一部紹介させていただきます。

・声かけか家族カンファレンスの注意事項など参考になりました。
・具体的なテクニックを勉強できました。
・症例ベースに落とし込んで、具体例が書かれていてわかりやすかったです。
・実践している先生から教わり、具体的な例やシナリオを通して学ぶことが出来て良かったです。
・グループワークがあり、参加型であったためよく理解できました。
・具体的な事例の分析がとても面白かった。普段何気なくやっていることも意識して分析すると色んな技法が含まれているのだとわかった。

静岡家庭医養成プログラムのみなさまと

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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執筆:宮本侑達(ひまわりクリニック)
編集:河田祥吾(亀田ファミリークリニック館山)・田中道徳(岡山家庭医療センター)

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