見出し画像

ユーモアにいこうぜ 

仕事中、ふふっと声が出てしまった。
20部ほどの資料を作るために、コピー機の前に立っていた時。目の前にある窓から、全力疾走をする男の人を見た。
ちなみに、窓は80センチの正方形くらいの大きさで、部屋は2階。全力疾走を見たのはほんの数秒だったと思う。
数週間前のことだけれど、今も鮮明にその姿を覚えている。彼はスーツ姿で、ジャケットを手に持ち、リュックを背負っていた。
人の本気の全力疾走を見たのはいつぶりだろうと思った。理由は分からない、知る由もない。遅刻なのか、誰かに会いに行っていたのか(いい理由も、悪い理由もあると思う)、それともただ普段から全力で走る人なのか。分からない。
でも、とにかく全力疾走だったのだ。
人の全力って、面白い。少し滑稽で、愛おしい。だからあたしはふふっと笑ってしまった。

あたしは生活にユーモアは必要だと思う。
福祉の仕事をしているから、尚更なのかもしれない。
上手く生きられない人ってこの世の中に沢山いて、それは形はそれぞれで、もちろんあたしもその1人で。そこで生まれる色んな失敗って、実は面白い。当事者はそうでなくたって、実際のところは失敗って面白かったりする。
もちろん、あたしは失敗したくない。だけど、失敗することから生まれる人の絆って確かにあることは分かっている。完璧に見えていた人のミスはホッとしたりする。とんでもない言い間違いや、とんでもない勘違いって、時に涙が出るくらい笑ったりもする。(あたしは特に勘違いが激しいタイプである。「愛娘」を子どもの頃「あいむすめ」と読んでいて、母に「あたしはあなたのあいむすめ?」と聞いたことがある。母とは未だにこの話をする。今すぐにはこんなことしか思い出せなかった。)

少し角度は違うかもしれないけれど、思い出した仕事の話がある。
高齢の方のお家に訪問して、どんな介護サービスを入れるか話し合っていた時。ご本人は布団で寝起きされていたのだけれど、起き上がりを考えるとベットに変えた方がいいという話になると、ご本人が「俺は布団がいいよ、大丈夫だよ」と言った。この方、穏やかだけどとても頑固なところがあった。そこであたしは「いや〜でも私たちって実は予言者だからなぁ〜、絶対にベットがいいですよ!」と言ったら、ご本人もその場にいた関係者もわっと笑ってくれた。そして「そうかぁ、予言が当たるかぁ」と納得してくれたのである。
これはご本人宅に何度も何度も足を運んでいて関係か築けていたこと、また関係者一同、間違いなくベットに変えた方がいいという方針だったことは大前提。あたしはウケを狙ったわけではなかったけれど、今後の話を楽しく前向きに進めたいという気持ちはあった。だから、みんなが笑ってくれた時、とても嬉しかった。ご本人の理解を得ることってとても難しいことで、「なんで分かってくれないのだろう」とやきもきしてしまうことも多い。だからこそ、みんながにこにこして今後のことを考えることが出来たのが楽しかった。
福祉の現場では、うまくいかないことも適度に笑い飛ばしながら、ユーモアを持って支えあっていくことが大切だとしみじみ思ったりするのである。


ちなみにあたしは、お笑いも大好きだ。マルチェと会う日に、お笑いの話をしない日はない。先日はキングオブコントについて語り合った。
お笑いって、まさに生活の中のうまくいかないことや、人間の全力すぎるが故の滑稽さを笑い飛ばす芸術だと思う。
特にあたしは東京03の大ファンで、中学生の頃からずっとそばには東京03のコントがあったといえる。

例えば、「美談」というネタがある。(東京03は今年20周年でYouTubeに沢山の動画を出しているのでぜひご覧ください)

これは、結婚を控えた豊本のお祝いで集まり、なれそめなどを聞いていると、「その結婚は俺のおかげなんだぞ」といかに影でキューピットとしての役割を果たしてきたのかを語る角田に対して、飯塚が「それって自分から言うことじゃないよね」と窘めるというネタだ。それに対して角田が「俺だって褒められたい!」とモンスター化して思いのを丈を叫びだす姿が、うるさいんだけど、いや分かる、あなたの気持ちもわかるよ、と言いたくなる。(名前が敬称略なのは、分かりやすさを重視しております。)

あたしたちはたちはいつだって褒められたいし、自分が頑張っていることを知ってほしい、でもそれをひけらかすのは違うのは分かっている。それでも分かってほしい。という人の決して綺麗とは言えない気持ち、見返りを求めたいというおこがましさである。それはやっぱり面白い!笑ってしまう!

次に、「あの話」。こちらは、上司である豊本が飲み会に急遽来ることになり、話がある様子だったことをいぶかしげに思う飯塚と角田のシーンから始まる。角田は過去に冒した失敗に豊本が気付き叱られるに決まっていると恐れおののく。しかし豊本はそれに気付いておらず、飲み会に来たのは全く別の理由だった。安堵する角田だったが、「失敗を黙っておくのはよくないだろう」と飯塚が素直に話すように促す。角田は「このまま言わないままでお願いしたい」と交渉するというネタである。角田の「黙っていてくれよ」という気持ちに共感しない人はこの世にいるだろうか?と思う。このネタは、本当にめちゃくちゃ面白い。

東京03のネタについて語り一押しだしたら止まらなくなるのですが、ここで、あたしの最近の一押しのネタを最後に紹介する。

「その日までに」。3人が兄弟という設定である。たぶん今のところ、その設定はこの作品だけ。長男・角田、次男・飯塚、三男・豊本の兄弟が、父親の危篤を機に病院に集まる。三男は父親との確執があり、会わせていいのか悩む兄二人。話し合うなかで、父親に誰が期待されていたのか、そうでないのか、といった話にも展開していき、悲喜こもごもの喧嘩をする。
コントにメッセージ性なんていらねえ、とウエストランドの井口が叫んだりもしていたけれど、(それもそれで面白い)あたしはこの作品はとても温かく豊かなものだと感じていて、兄弟という不思議な関係がとても活きたコントだと思っている。あたし自身が三兄弟であるということもあり、なんだかちょっと泣きそうにもなるのである。これは長男・角田が仕事は出来ないし父親からも期待はされていないのだけれど、それがイコール駄目人間かといったらそうではないことがとても分かる。ああこんな兄ちゃんいいかもなぁ、と思わせる。ていうかそんなことばっかりだと思う、出来る人に対しては素直になれないことってあるじゃん。

お笑いの話で熱くなってしまったけれど、手放しにお笑いが大好き!と思えない気持ちも実はある。というのも、日本は風刺のお笑いが少ない。正しくはテレビに流れない。隠されている実態がある。権力者、強者へのヨイショをするのではなく、弱き者の叫びを、皮肉を、笑いに変える表現は、ずっと昔から存在している。ウーマンラッシュアワーが叫びまくった時、あれは笑いなのか?という意見が出てきたけれど、日本に風刺が浸透していないからこそのリアクションだったと考えている。 

お笑いの話で熱くなったけれど、あたしは映画でもドラマでも、うまくいかない人の話が好きだ。うまくいかなくても、不器用でも、その生活のなかにある人間の愛おしさを感じられる作品が好きだ。不格好でも、生きていこうと自分を励ましていたいから。許し許され合える社会だといいな、と本当に思う。
あとユーモアって、余裕を持つことが必要不可欠なので、忙しすぎたり落ち込みすぎると消滅してしまうから、健やかでありたいな。

一度こんな風に好きなもの(こと)について、noteで思い切り話してみたかったのですが、こんな形になっていました。語りすぎたかしら。


きっとこの世界の共通言語は英語じゃなくて笑顔だと思う
子供だとか大人に関わらず
男だとか女だとかじゃなく

高橋優「福笑い」

この曲を知ったのは中学生の頃だ。
あの頃は、世界の共通言語は「笑顔」であるという言い回しに粋を感じていたけれど、今聞くと子供・大人、男・女関係なく、というこのフレーズがとても良いなと思う。笑うことって本当にみんなに共通してある人間の才能なのかもしれないな。

なんでも忘れて笑いましょう、とは言えない。
何も考えるのをやめましょう、とも思わない。
でも、学び続け、考え続け、話し合い続けていくには、絶対にユーモアは必要だから。連帯にユーモアは不可欠だから。
あたしは真面目過ぎるので、時に笑い合いながら、支え合える人になりたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?