見出し画像

国家総合職専門区分 憲法人権(事例問題)答案の書き方(総論)

 国家総合職専門区分では多くの区分で専門科目を2題選択することになります。令和6年度から、総合職試験(院卒者試験)「行政区分」並びに総合職試験(大卒程度試験) 「政治・国際・人文区分」、「法律区分」及び「経済区分」の専門試験(記述式)についても、解答題数を3題から2題に削減されました。そのため、これらの区分での試験対策の負担感が減り、その分1科目の重要性が大きくなっています。専門科目の記述式は全体の3分の1の配点を占め(すなわち1科目あたり6分の1)るため、ここの出来が結果に大きな影響を及ぼすことになります。
 記述式の問題は一般に対策に時間がかかりますが、その中で圧倒的に対策がしやすいのが憲法(特に人権分野)です。なぜなら答案の書き方(パターン)がある程度決まっていて、非常に対策が容易であるからです。記述式憲法が選択可能なのは、国家総合職 「行政区分」「政治・国際・人文区分」「法律区分」です。その他の国家試験でも、憲法の事例問題を出す試験種があります。法学部の定期試験でも即効性があるでしょう。
 では、本題に入ります。答案の書き方とは、いわゆる三段階審査と呼ばれるものです。手短に言えば、

①問題となっている利益が憲法上保障されているか、
②その利益は制約を受けているか
③その制約は許されるか

という順序で検討していくというものです。

ここでは、一つの事例を取り上げて、3段階審査の検討手順を確認してみたいと思います。

事例:とある海水浴場の酒類販売を全面的に禁止する憲法上許されるか論じなさい(平成30年度一部抜粋改変)

実際の問題では、この海水浴場の特徴、利用状況、周囲への影響、周辺住民の意見、その海水浴場の酒類販売を全面的に禁止することに対する専門家の意見等がある程度詳細に示されています。原題は、権利の問題があるので、興味のある方は人事院に請求して見てみてください。ただ、今回の記事の目的は、思考方法とその手順を確認することにあるので、手元に原題がなくとも、それほど支障はないかと思います。

①まず、海水浴場の酒類販売するというのは、憲法上保障されているのでしょうか。商売をする自由を直接を定めた規定はありませんが、商売=職業と考えれば、22条1項の職業選択の自由を想起していただきたいところです。では、職業選択の自由に商売をする自由(営業の自由)は含まれるのでしょうか。この点、営業が自由に行えないとなれば、その職業は事実上選択できないことになります。そうだとすれば、営業の自由は当然に22条1項で保障されると考えるべきでしょう。判例(最判昭和44年11月22日、最判昭和50年4月30日など)も同様に解しています。

②では、憲法上の保障を受ける営業の自由について、制約はあるでしょうか。事例では、「酒類販売を全面的に禁止する」とあり、(ここでは挙げていませんが、もとの問題の資料によれば)酒類の販売が海の家の売り上げの3分の1を占めるということですから、ここでは簡単にあると結論づけてしまってよいでしょう。

③問題はこのパートです。①②で憲法上保障されるべき権利が制約されているわけですから、本来は違憲となってしかるべきです。しかし、誰かの憲法上の権利が他者の憲法上の権利とバッティングする(あちらを立てればこちらが立たない)状況というものが、どうしても生じてしまうわけです。そのため、両者の利益の調整をする必要があります。このように書くと、問題となる両者の利益を単純に比較して、大きい方を勝たせればよいと思うかもしれません。しかし、ここで考えていただきたいのが、憲法が登場するのは通常、国家(自治体)vs私人の場面です。この場面で国(自治体)は通常多くの国民の利益(公益)を背負っています。そうすると、単純に私人の利益と公益を比較すると、よほど酷い法律(ルール)でない限り、違憲にはならないことになるでしょう。それで構わないのだ、というのも1つの考え方ですが、専門家の多くはこれに反対しています。このような場面でこそ、少数者の人権を守るために憲法はあるのだ、という考え方が根底にあるのだと思います。そうはいっても一定の基準がなければ検討のしようがありません。
 そこで、①権利の重要性と、②制約の重大性、③(経済的自由の場合には立法裁量の有無・広狭)によって、4つの審査基準を選択することになります。

ここから先は

3,930字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?