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閑話休題「天才落語家の思い出」

かれこれ40年近く前の話になります。

かつて関西に独りの天才落語家がいました。

関西以外の方はあまりご存じないと思いますが、桂枝雀さんと言って、桂米朝さんの一番弟子にあたる方でした。

その芸風はユニークで、落語という動きの少ないジャンルにあっても、体をいっぱいに使うと同時に明快でメリハリのある語り口調が会場全体をとりこにし爆笑につぐ爆笑を生む、まさに天才的な落語家さんでした。

ただ、若い頃からうつ病に悩まされ、結局60歳になる頃に自ら死を選びこの世を去りました。1999年の事です。

私は特に落語好きという訳ではありませんでしたが、高校生の頃に深夜帯で放送していた「枝雀寄席」というテレビ番組を毎週楽しみに見ていまして、枝雀ファンでした。

そんな私が、実は一度だけ大阪の街で枝雀さんと遭遇したことがあります。

あるとき高校時代の友人と大阪梅田で会うことになり、私も友人もお酒が大好きでしたので、とりあえず飲みに行くことになりました。

当時私はまだ22〜23歳くらいだったと思います。

近松門左衛門の「曽根崎心中」で有名な「お初天神」という神社が梅田にあるのですが、その参道がお初天神通りという繁華街になっています。

その通りを友人と二人でぶらぶらして、ちょっと路地を入った場所にたまたま見つけた「呉春(ごしゅん)」という名前の居酒屋に入ることにしました。

この「呉春」というのは、大阪池田の地酒の名前で、地元では銘酒として有名なお酒です。

入ってみたらカウンターだけの落ち着いた雰囲気のお店で、私たちのような若造が来るのにはちょっと場違いだったかもと思ったのですが、そのままカウンターの一番奥の席に陣取り飲み始めました。

まだ時間が早かったせいもあり、客は私と友人の二人だけでした。

それで30分程も経った頃でしょうか、ガラガラっと玄関の引き戸を開けて独りの小柄な男性が入ってこられたのですが、それが桂枝雀さんでした。

枝雀さんは店主に目配せだけしたら、慣れた感じで私たちと反対側のカウンターの一番端の席に陣取りました。

店主も枝雀さんも一言も発しませんでしたが、店主は何も聞かずに枝雀さんの目の前に大きなワイングラスを置き、そこに呉春の冷やをなみなみとつぎました。

枝雀さんは、それをまるで落語を演じているかのように少し時間を掛けながらも一気に飲み干してしまいました。

フーッと息を吐き出しながら空になったワイングラスを枝雀さんがカウンターに置くと、再び何も言わずに店主が同じ酒をグラスになみなみとつぎました。

枝雀さんは今度も同じ様に一気にそのお酒を飲み干します。

そうして三回目のお酒をグラスに満たしたところで初めて店主が枝雀さんに話しかけたのですが、私たちが目撃した駆けつけ三杯的な飲みっぷりは恐らく枝雀さんと店主とのいつもの儀式だったのでしょうね。

私も友人も、有名人のプライベートを邪魔するほど無粋ではありませんでしたので、それから程なくしてお店を出たのですが、あの時の枝雀さんの飲み方のかっこよさは何と表現すればいいのでしょうか。

あれから40年近く経った今でも、あんなにかっこいい飲み方を私は知りません。

時は流れ、枝雀さんが亡くなってから何年か経った頃、お初天神通りの「呉春」を記憶を頼りに探してみたことがあります。

しかしもう、何処にも「呉春」を見つけることは出来ませんでした。

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