見出し画像

勝敗を越えた夏〜ドキュメント日本高校ダンス部選手権〜

●はじめに
「勝敗を越えた夏〜ドキュメント日本高校ダンス部選手権〜」とはNHK BS-1で、2018年から毎年9月の終わりに放送されているドキュメンタリー番組のことだ。
大阪府立登美丘高校の「バブリーダンス」や夏の甲子園大会のコマーシャルで有名になった、高校生たちによる「部活ダンス」。ダンスに打ち込む思春期の少女たちの姿を通して、みずみずしい青春とそこに芽吹く新しい価値観を描き出すことを目指している。北海道から沖縄まで部活動の中心となる2・3年生、つまり17歳から18歳の若者が主な被写体である。
ドキュメンタリーの副題に入っている「日本高校ダンス部選手権」とは国内最大級の高校ダンス部の大会「ダンススタジアム」のこと。このプロジェクトの撮影は例年、新チームが結成される春から大会本番が行われる夏まで続く。
 私は企画、ディレクターとして初回から全ての学校取材を担当させてもらっている。これまでにも様々なテレビ局の番組やBlu-ray作品でいわゆる密着ドキュメンタリーを企画してミュージシャンやデザイナー、アスリート、経営者、映画監督などの活躍の舞台裏と知られざる素顔を撮影させてもらってきた。被写体はその時代を象徴するプロフェッショナルばかりだった。
 一般の高校生を描く「勝敗を越えた夏」の撮影が動き出した2018年春、私はカメラマンやアシスタントを含めて4人ほどのクルーを組んで学校に通い始めた。カメラマンには音楽のプロモーションビデオなどで用いられるタイプの大型カメラを使ってもらった。一般の高校生を主役にするためには彼女たちをきれいに写した方が良いだろうと考えたのだ。しかしこの撮影プランはまるでうまくいかなかった。編集室で映像素材を見返してもサッパリ面白くない。多感な彼女たちは、大きなカメラを構えた撮影クルーを前にすっかり「よそ行き」の顔になってしまっていた。大人数でやってくる私たちに対して露骨に嫌な顔をする拒否反応さえあった。端的に言って、部活の邪魔だったのだ。
 反省した私は、1人で各地のダンス部にうかがうことにした。家庭用に近い小型カメラを持って。しばらくすると彼女たちの表情や発言は「ありのまま」
になった。その「ありのまま」で十分に素晴らしい映像が撮影できた。彼女たちのダンス練習はいつ見ても面白かったし、下校中に話してくれた言葉には深く考えさせられる本音が詰まっていた。それらは社会人になってから良いチーム・良いコンテンツを作りたいと、もがいてきた自分にとって学びとなる内容ばかりだった。私はダンス部の高校生に尊敬の念を持つようになり、自然と敬語で話すようになった。こうした発見や驚きをみなさんにお伝えしたくてこの本を書くに至った。
 
 毎年完成したドキュメンタリーにはダンスを愛する人たち、部活ダンスファンはもとより、ビジネスマンの方々からも大きな反響をいただく。その多くが高校生が見せる優れたチームワークについての声だ。そこに日々の仕事をより良くするヒントが含まれていると考えた人もいた。
その1人が星海社の編集者である、築地教介氏だ。氏は高校ダンス部のチームワークを本にまとめることは星海社新書の幅広い読者に大きな意味があると考えた。
 
今後どんな会社や組織でも働き方が多様化し、仕事への向き合い方の熱量と時間のかけ方は人それぞれになっていく。これを家庭に置き換えても同じことだと思う。その時、最前列で活躍するエースだけでなく、全員が自分の役割を実感しながらチームに参加できたらどんなにいいだろう。
 
彼女たちの姿を通して、日本の未来のチームを考えてみたい。 
 
「勝敗を越えた夏」は毎年99分の放送だがその撮影素材は200時間を越える。この本ではドキュメンタリーを編集していく過程で惜しくもカットした部分も含めてお伝えしたい。


★「勝敗を越えた夏」シリーズは百人一首かるたに青春をかける若者を追った「勝敗が決まる瞬間〜ドキュメント小倉百人一首競技かるた高校選手権〜」と姉妹ドキュメンタリーの形にあたる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?