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私が出会った女性管理職~パワー系Aさん

30年ほど働いてきて、何度かの転職を経験し、たくさんの女性管理職に出会った。

一番お世話になったのは、生きていれば80歳くらいのAさん。
私の母より年上のAさんは、とても優しくて暖かい方だった。
直属の私達には。
生涯独身で、部下の子どもたちを本当の孫のように可愛がった。
いつも笑顔で、少しわがままな振る舞いも愛してしまいたくなるキャラクターだった。
私が大学院に進学してからも、お目にかかるたびに食事をご馳走してくれて、そっと現金を包んで渡してくれた。
でも外には厳しかった。

よく他部署の方々と、議論とはいえない、ケンカ腰の罵詈雑言が飛び交う状況になり、当時会議の末席に座っていた私や同僚は、会議が終わると胃が痛いし体力を消耗してしまって、みんな無言で机に伏して立ち上がれなくなるほどだった。

別の日。
私がAさんとエレベーターに乗り込んだら、ある方が走って滑り込んできて「あの件、なんとか通してもらえないでしょうか、お願いします!」と泣きながら頭を下げた。
Aさんは「何度言われてもだめです」と冷たく言い放った後、エレベーターが目的階に着くまで、すがりつく相手を完全に無視した。
若かった私は、このエレベーターから飛び降りてしまいたいと思ったことを覚えている。
今なら完全にパワハラだ。

Aさんは定年退職した後、好きな旅行に明け暮れて悠々自適に過ごしていたけれど、思わぬ病気が見つかってから最期までの暮らし方は、とても臆病で繊細だった。
「本当は弱くて、幼い少女のような方だったのかもね」と葬儀に参列した仲間たちと話したのは、もう7年も前のことだ。

その方は、当時勤めていた会社のなかでは、正式な「幹部(管理職)」の役職には就かなかったように記憶している。
女性管理職がほぼ存在しなかった時代だった。
でも私にとっては直属上司であり、社内の誰もが知るパワー系バリキャリ女性だった。

同じ独身女性として、Aさんは私に

結婚するかしないかはどうでもいい。
タイミングや相手や自分のキャリアプランにあわせて、時がきたら考えればいい。
私は結婚しなかったことを後悔したことはない。
でも、子どもは生んでおけばよかったと思うことがある。

と話してくれたことがある。

海がみえる共同墓地を選んだのはAさんらしかった。
私も家族とは関係なく、永代供養をしてくれるお墓に入ろうと決めている。


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