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汁無しうどんvs麺抜きうどん

 日本三大うどんは諸説ありますが、だいたい次の五つが上がります。
①讃岐うどん(香川県) 
②水沢うどん(群馬県渋川市)
③稲庭うどん(秋田県稲川町)
④きしめん(愛知県名古屋市)
⑤五島うどん(長崎県五島列島)
 なぜ博多うどんがないんだ! 伊勢うどんを知らないのか! と、お怒りの方もいらっしゃるかもしれません。分かります。分かりますとも! 筆者もそう思います…大坂うどんの旨さを知らないのか?! 

讃岐うどん

讃岐うどん

 現在のようなうどんは室町時代に生まれ、元禄のころに江戸、京、大坂、そして琴平にうどん屋ができたと記録にあります。この、「琴平」とは「こんぴらさん」こと金比羅神宮で有名な、現在の香川県琴平町で、すなわち「讃岐」なのです。江戸、京、大坂は、当時から大都会だったのでうどん屋ができたのは当然だとしても、その大都会と同時期に讃岐の琴平にうどん屋が開店したということから、その当時からすでに讃岐はうどんの本場だったと言えそうです。
 ではなぜ、讃岐はうどんの本場だったのでしょうか? それは讃岐の温暖で雨が少ない気候や、土質が小麦の栽培に適していたからです。その品質は、江戸時代に出版された『和漢三才図絵』(1713年)にも、「小麦は讃州丸亀の産を上とす」と書いてあるほど上質でした。

大坂うどん

大坂うどん

 「讃岐うどん」だけではなく、「伊勢うどん」「水沢うどん」など、うどんが有名な所の多くは小麦の産地です。質の良い小麦を栽培しているから「○○うどん」なのですが、大坂はちがいました。小麦の栽培とは違う、うどんに適した特別な環境だったのです。

 江戸時代の大坂は物流の拠点で、全国からあらゆる物が集まりました。当然、食品も良質の物が揃いました。そうなれば、北前船で蝦夷から運ばれた昆布を始め、鰹節、鯖節や鰯節、煮干しなどを使って最高のだし汁を取り、紀州の最高の醤油、全国各地の最高の小麦を使った「大坂うどん」ができあがるのも当然だと言えるでしょう。元々食い道楽の大坂の人たちは、「うどん」でもその不屈の食事魂(食い意地)をいかんなく発揮したのです。


「手打ちうどん」と「手もみうどん」

 讃岐うどんは「コシがある」「シコシコしている」と言われるほどの弾力と歯ごたえ、喉ごしの良さが命です。だから讃岐うどん派に言わせると「大阪のうどんはコシがない」となります。しかし、大阪のうどんはコシがないのではなく、麺が出汁によくなじむように、もっちりと仕上げてあるのです。「讃岐の手打ちうどん」に対して、「大坂の手もみうどん」という言葉が両方のうどんの性格をよく表しています。つまり、同じ小麦粉からできた麺でも、讃岐の麺と大坂の麺は作り方も目指すところも違う麺なのです。

醤油うどん

究極のうどん

 麺のコシが命の讃岐うどんには、茹でたての麺に醤油をかけて食べる「醤油うどん」というものがあります。これは麺のコシを味わうために出汁を省いてしまった、讃岐うどんの究極の形です。

千とせの肉吸い(千とせのHPより)


 一方、大阪・難波千日前の「千とせ」という店には「肉吸い」という料理があります。吉本新喜劇の俳優だった花紀京さんが、二日酔いだったのでオーダーした「肉うどんのうどん抜き」が「肉吸い」です。大坂うどんは出汁を味わう料理なので、これが大坂うどんの究極の形なのです。余談ですが、千とせの肉吸いはセブンイレブンでも販売しています。


剛と柔

 讃岐うどんは見た目もシンプルで、麺のコシこそ命の気合いが伝わる「剛」です。一方、大坂うどんは食べるとホッとする「柔」なのです。好みはあってもどちらが優れているというものではありません。
    筆者は讃岐うどんが大好きですが、きつねうどんを食べると大阪に生まれた幸せを感じます。
  


     
 

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