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当事者の会代表平本淳也氏の発言を検証する

ようやく日の目を見た「告発」

2023年、故・ジャニー喜多川による性的加害疑惑がいよいよ世間の注目するところとなった。5月にはこの件を調査するために第三者委員会が組成され、6月には被害当事者によって「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が立ち上げられた。

「当事者の会」代表を務めるのは元ジャニーズジュニアの平本淳也氏だ。国連の記者会見を受けて、泣き崩れる男性の姿をニュースで観た方も多いだろう。その男性こそが平本氏だ。

平本氏は「届かない矢を放ち続けて35年、やっと事態が動いた」と語っている。

平本氏は被害を受けていない?

ところで、その平本氏が今年4月頃まで「自分は被害を受けていない」というスタンスであったことは意外に知られていない。

今年3月に放送された、ジャニー喜多川の性加害疑惑に焦点を当てたBBC制作のドキュメンタリー「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」での平本氏の発言を確認したい。

取材者:ではそれは、あなた自身のこととしては、一線を越えた行為だとは思っていないですか?
平本氏:僕そこまでやられてないんで。だから被害にも何も遭っていない。ただマッサージしてもらったレベルの、ほんの少しの延長。

ここで重要なのは、「マッサージしてもらったレベルのほんの少しの延長」は、一般的に言えば十分に加害だろうということだ。それを「被害に遭っていない」と語ることは、一種の現実逃避に思える。取材者も、平本氏のこの態度を防御反応だと受け取った。

取材者:何があったのか彼はまだ整理して受け止めることができず、まだ加害者を尊敬しているんです。

取材者の見解には深く同意できる。だがそれは、このドキュメンタリーのみを観た場合に限る。これまでの平本氏の発言を鑑みると、また印象は変わってくる。

平本氏は取材者の言うように、「まだ整理して受け止めることができず」にいたのだろうか?

平本氏の「被害」と「暴露」

広く知られているとおり、平本氏はジャニーズ事務所の暴露本を3部作として出している。1996年の『ジャニーズのすべて』シリーズである。それ以前には、1989年、北公次が出した暴露本『光GENJIへ-最後の警告』『8人目の光GENJI』にも寄稿し、ジャニー喜多川の性的加害について証言している。

また、2000年、喜多川の性的加害が国会で取り上げられた際には、以下のようなコラムを執筆している。

ここはハワイと言ってもアメリカである。いくら日本人が多いからって「ジャニーズ」という名前がそうそうまかり通るものではないだろう~ と思っていたが大違い! これまで何十回も来ているが今回初めて「ジャニーズ? OH! しってまーす!」というアメリカ人がやたらに多かった。
(中略)
しかし有名なのは「ジャニーズ」という名前で確かだが、その理由こそが「ホモ」としてで、それも「子供を虐待したいる」とか「少年に対するセクハラ」や「暴力(強要)」を行っているタレント事務所として有名なのだ。

http://web.archive.org/web/20010617120342/http://www.baw.co.jp/j_kk.html

「子供を虐待」という言葉が出てくる。この後には、国会答弁の内容を書き起こしたものが続き、その中には「児童虐待」という単語もある。平本氏は、これらに対して反論していない。ジャニーズ事務所内で行われていることが児童虐待であるということには、特に異論がないということだろう。

ジャニー喜多川が所属タレントに対して行ったことは児童虐待にあたる、という認識が平本氏にはあった。しかしながら、自分に対して行われたことは児童虐待とまでは言えない、ということなのかもしれない。

では、平本氏がジャニー喜多川から受けた行為とはどのようなものだったのか?平本氏は著書でそのことに触れている。孫引きになってしまうが、いくつか抜粋する。

「腕枕をして足もからめてきた」
「耳元でささやきながら手の平や腕のマッサージを施す」
「いつの間にか体を撫で回すようになり脚を股に突っ込んできた」

平本氏はこれらの行為を、トイレに行きたいなどと言ってかわしてきたそうだ。その結果、平本氏はデビューできなかったのだという。別のコラムではこのように説明している。

ジャニーズには「掟」があったんだ。今となっては有名な話だけど、ジャニーズでは「ホモ」行為をしなければデビューに繋がらないという掟である。これを知った僕は驚きはしたが、大した心配はなかった。
(中略)
小さいころからの目標は実業家だったからデビューには拘わらなかったのだ。
 それ故に掟を拒んでは五年間も在籍させてもらい、とても可愛がられていた事には感謝しているほどである。掟を介さずして五年間も一線で活動させてもらったのは僕だけではなかろうかという自信もあるほど、ジュニアとしてはとても忙しかった少年期であった。

http://web.archive.org/web/20010627072539/http://www.baw.co.jp/gossip_97_2.html

性的被害は「恥ずかしい」こと

これらの、抱きしめられる、体を触られるといった行為を、平本氏は「被害」とは思わなかったのだろう。思っていれば、証言はしなかったのかもしれない。
2000年3月、ジャニーズ所属タレントの森田剛氏が、セクシー女優の妃今日子氏から強制わいせつ・強姦で告訴された(のちに狂言と判明)。その際の平本氏のコラムにはこうある。

妃とその友人タレント二人は所属事務所の勢いにのってか元気良くも告訴に踏み切り、週刊誌やスポーツ紙相手にペラペラ喋る。うーむ、おかしい…。
 読者の皆さんがレイプされたとしましょう。「告訴」はしたとしても、実名と顔写真を出してまでやります? しかも全国区に「レイプ女優」として有名になりたいですかね? AV女優より恥ずかしい過去でしょう? 事務所も事務所ですねー。「前途ある女優を傷物にしてくれた」という損害にお怒りのようだが、前途あるのならば、訴えもしないし、広報もしないでしょう。親心に思えば理解できることですわ。 もし、自分の娘がレイプされたとしてもこれを公にはしたくないのが心情でしょうし、なるべくして世間から守ってあげたいでしょう?

http://web.archive.org/web/20010617113642/http://www.baw.co.jp/johnnys_02.html

今であれば炎上しているであろう文面だが、不思議なのは、平本氏自身がこれ以前に実名・顔出しで性被害について証言しているということだ。だが、自分は被害に遭っていないと思っていたということであれば納得はできる。ならば、周囲の人物が「被害」について語っているのをどのような気持ちで見ていたのだろう。

北公次との思い出

ジャニー喜多川を初めて告発した元ジャニーズタレントとして、北公次氏がたびたび取り上げられている。平本氏が暴露本を出したきっかけは北氏との活動にあったはずだが、平本氏は北氏に対しても辛辣である。

70万部超「光GENJIへ」の北公次が「ジャニーのバカヤロー」と叫んでいても一部のマスコミ相手にしかならず、結局それは「ホモ」をされまくったことを言い触らした自分が恥ずかしいということに止まっていた。しかし元スーパーアイドルとしてはそれで終わるのは不本意だったらしく、「ジャニーズを潰す」とまで言い切って活動を続けてたんだけど、本心はただ芸能人として復活したかっただけのことだった。
(中略)
「ジャニーズがなんたらかんたら…」というのはみんな嘘というか建前で、結局アイドルとしての自分に大きな未練がありこの機会になんとか復活したいという願いが大きかっただけ。

http://web.archive.org/web/20010303121304/http://www.baw.co.jp/gossip_97_9.html

そしてまた、こうも書いている。

そんで下について活動しているオレらはというと「ジャニーズ出身者で作られたグループ」というだけで、ナニもジャニーズを潰そうとか光GENJIをやっつけようとか考えてもいなかったわけ。北公次が「バカヤロー」だとか「ジャニーズを潰せ!」と言っているのを後輩として恥ずかしながらも「北さんガンバッテ!」という姿勢をとるしかなかった。ちょっと離れれば裏では「北のアホ」とか悪口の嵐だったけどね。

http://web.archive.org/web/20010303121304/http://www.baw.co.jp/gossip_97_9.html

現在のトーンとはずいぶん差がある。だが、「ジャニーズを潰そうとか考えてもいなかった」というのは現在のスタンスとも共通している。平本氏だけではなく当事者の会の総意のようだが、ジュリー社長の辞任は望まない、事務所の解散も望まないというのが彼らの希望するところだった。

ジャニーズ事務所への想い

平本氏はむしろ、ジャニーズ事務所を盛り上げたいとすら思っていたのではないだろうか?

というのも、平本氏はこれまで、ジャニーズタレントのファンに向けた書籍を多数出版しているのだ。『ジャニーズおっかけマップ』『ジャニーズアイドル攻略法』『ジャニーズFanノート』など、その数は30冊をゆうに超える。
また、過去には非公式のジャニーズファンクラブを運営していたこともある。

加えて、平本氏はジャニーズ事務所に入りたいという少年たちにオーディションの指南をしていた。

https://web.archive.org/web/20230424042202/https://jmty.jp/kanagawa/ser-oth/article-lls7d

また、事務所に家族・友人を入れたいという女性たちに向けてアドバイスを送ることもあった。長くなるが、引用したい。

「自分に身近な人」がそのスゴイ事務所のスゴイタレントだったらちょっとオモシロイでしょう! ちょっと挑戦してみませんか? ボクが必勝法を伝授しますよ! てゆーか、読者が女性であることにまた具合がイイんですねぇ~
(中略)
どうせ学習させるならば、「芸能文化」と「美少年」を!! 今こそ不況の感じない芸能界へ進ませましょう!
 という事で読者諸君の関係者、つまり「兄」「弟」「従兄弟」あるいは「隣のカワイイ男の子」でもイイでしょう!? キミの周りにいるジャニーズっぽい男の子をモノホンのジャニーズにしちゃいましょうヨ! という作戦を掲げたい!

http://web.archive.org/web/20010603021717/http://www.baw.co.jp/Johnnys_in.html

なんたって芸能界だし芸能人を目指すワケだから「デフォルメ」は大切なコトなのよ。んで、トッテオキなのが「家族構成」だ。あまり知られていないが芸能界は「片親優先」される業界なんだ。
(中略)
コレを利用させてもらうと「家族構成欄」には「片親」に記そう。父か母のどちらかに旅に出てもらって「ボクんちは片親」になる。
 読者が母親で息子をジュニアにしたいなら、母一人、子一人はサイコーです!
(中略)
あと、読者である女性が「推薦」すると合格する確立が高くなるんだ。よく聞く「お母さん、お姉さん、あるいは親戚や近所の○○さんが勝手に履歴書送った、いつのまにか芸能界にいた」っていうのは実に多く、反対にお兄さんやお父さんは登場してこないんだ。
 だったら女性であるアナタたちがここぞとばかりに登場しまくって「息子や弟」をジャニーズにしないでどーするのって感じよ。とりあえず挑戦権は誰にでもあるし、門は広く開かれているんだからやっとかないと損でしょう! 21世紀のタッキーはアナタに近い子かもしれないよ!

http://web.archive.org/web/20010603023023/http://www.baw.co.jp/Johnnys_in2.html

こんな粗探しをしておいて、と思われるかもしれないが、私はここまで努めて感情的にならないように書いてきた。だが、もう限界だ。

吐き気がする。平本氏はBBCの取材に対して、ジャニーズタレントの親たちはみんな性的加害のことを知っている、むしろそれぐらいしろと我が子に発破をかけている、という趣旨のことを答えている。
そうと知りながら、何だろうこの文章は?一体何を勧めているのか?

現役のジュニアからメールを受け取ったという際には、こんなことも書いていた。

現役ジュニアからの悲痛(?)な叫び・・・。あの話っていうのは当然にホモの事でしょう~。文章の全体は明るく元気だったのが救いか、びっくりした程度に治め再びアイドルを目指して頑張るということでしたわ。ジャニーズでは当然なのでそのくらいの根性がないといけませんわ。

http://web.archive.org/web/20010617120610/http://www.baw.co.jp/johnnys1201.html

今、「被害者の救済」を口にしている人物が書いたとは思えない文章だ。なぜ?と思ってしまう。その疑問に対するアンサーなのかは分からないが、平本氏は今年6月、週刊女性プライムの取材に対し、こう話している。

ただ問題提起をするだけでは多くの方に興味を持っていただけないがゆえ、あらゆる方向から差し込んで話題になるように、情報を発信したり記事を書き続けてきたんです

https://www.jprime.jp/articles/-/28162?page=2

だとしても、私には理解できない。当事者の会副代表の石丸志門氏も、長年、ジャニーズを応援するブログを運営してきた。しかし石丸氏は、それは「洗脳されていた」からだと述べている。一方で平本氏は、これまで一貫して告発を続けてきたというスタンスでいるように見える。

まとめ

言動が矛盾しているからといって、嘘をついているとは言えない。また、一人が嘘をついていたとしても、他の全員も嘘をついているとは当然言えない。
ただ、当事者の会の代表を平本氏が務めているということが、私にはどうしても奇妙に思えてならない。

率直に言えば、怖い。

ジャニー喜多川の加害行為に比べれば、こんなことはどうでもいいことかもしれない。糾弾活動に対してこんなふうに水を指したりするのはとても残酷なことなのかもしれない。
しかし、平本氏がこれまでのメディアの「加担」を非難している以上、私は言いたい。

どうか、ご自身のやってきたことも省みてください。