僕らの節分

仕事帰りにコンビニに寄ると恵方巻きの宣伝が目に入った。
いつからだろう、節分の日には豆を投げる習慣よりも恵方巻きを黙って頬張る文化が強くなっている気がする。
そもそも、恵方巻きの種類増え過ぎだと思う。
恵方ロールとかもう米じゃなくてパンだったりケーキだったりするし、果たしてそれで一年の健康を祈れるのだろうか。
なんて、うだうだ考えているといつの間にか買い物カゴに2本の恵方巻きを入れてレジに並んでいた。

「おかえり、早かったね。」

ガサガサとビニール袋の音を響かせながらリビングに向かうとちょうど晩御飯の準備が整った頃だった。
今夜は肉じゃが、大好物だ。
恵方巻きを買ってきたことを伝えると、じゃあ少しご飯控えめにね、といつものお茶碗に少し少なめのご飯が盛られた。
必ずいただきますは揃えるのがうちの流儀だ。

晩御飯を食べ終わると休む間もなく彼女が恵方巻きを食べる準備をし出した。
ソファの上でなぜか飛び跳ねている。

「少しでもさ、胃を空けないとさ、ふっふっ」

真剣な顔してそういうもんだから、おふざけ半分で僕もソファの上でほっほっと飛び跳ねた。
幾分か少し、お腹にスペースができた気がした。

今年の方角はこっちと2人揃って同じ方を向き、せーので恵方巻きを頬張った。
一度食べ始めたら基本は無言、もぐもぐと食べ続ける。
おもむろに隣をチラッと見る。
口をパンパンにして恵方巻きを一生懸命頬張っている彼女の顔が、可愛らしく面白く、吹き出しそうになりそうだったから直ぐに前に視線を戻した。
さっきから少し視線を感じるから多分彼女も同じことしてるんだろうなと思った。
お互いに隙を見てはお互いのパンパンな顔を見る。
そんなシーソーゲームを繰り返せばいずれやってくる視線が交わる時、半分を食べ終えた頃にとうとう僕らは目が合ってしまった。

「…っぷふっ!」

堪えきれずお互いに少し吹き出して、口に残った分を飲み込んでお互いに笑い合った。
お陰様で今年の健康祈願も失敗に終わった、というか毎年こんな感じだけどお互いに風邪一つ引かないんだから、来年からは日本中で恵方巻きを食べるよりも笑い合った方がよっぽど健康に良いと思う。

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