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愛らしい

はじめてのおつかいは、なんとなく見ているとそわそわしてしまって苦手だ。
だってあんなに小さい子に電車に乗っておつかい…良いじゃん近所の八百屋でにんじん買って来てもらうぐらいで。
僕は小さい頃みりんを買って来てと言われて本みりんとみりん風調味料を見つけてどっちを買えば良いのかわからなくて小一時間ぐらいスーパーを彷徨ったことがあるというのに…

なんて昔のことを思い出している僕を尻目に横でズビズビと涙を流している彼女に無言でティッシュ箱を差し出す。
甥っ子に重ねてしまってどうにもこういうのに弱いらしい。
音も気にせず鼻をかむと無言で僕にティッシュを渡して来た、僕も無言で受け取ってゴミ箱へシュート、惜しくもポストを捉えただけでゴミ箱の横に落ちたティッシュをこれまた無言で拾って中へ入れた。

にしても、こんな小さな子にスイカ一玉買いに行かせるなんて…
夏休み前に育てた朝顔の鉢植えを持って帰るのでも大変だったのに…スイカなんてしんどいに決まってるじゃないか、と相変わらずそわそわしていると肩に柔らかな重みを感じた。
まさかの泣き疲れてスースーと寝息を立てた彼女の頭が肩にもたれかかっていた。
綺麗な横顔、鼻筋が通っていて、頭なんて鷲掴みできるぐらいに小さい。
見惚れながら、起こさないように。
そーっと彼女の頭を抱えながら体を抜くと、無言でソファに横たわらせてブランケットを掛ける。
ソファから降りて相変わらず小さな子にはハードすぎるおつかいを、彼女の寝息をBGMに結局最後まで見てしまった。
ふと横を見ると子供みたいな顔で眠る彼女が居て、起こさないように頭を撫でた。
猫みたいだな、柔らかな髪の毛の感触がなんだか愛おしかった。

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