Snow day

※上の話と同じ世界線です、よろしければ併せて読んでみてください。

2022年、東京に初雪が降った。
Twitterでは帰宅難民とか帰宅命令とかトレンドに上がっているが我が社は安定の通常営業、むしろ絶賛残業中である。
普段見慣れた風景が真っ白に染まっている中、暖房は効いているオフィスでこれまた白いキーボードを叩きながら早くうちに帰りたいと念じていた。
こんな日ぐらい…と考えつつも、ぶつくさ呟きながらも仕事を終え外を見ると、しんしんと降っていた雪はすっかり止み、ありがたいやらなんやらとまたしてもぶつくさ唱えながら家路についた。

最寄り駅まで着いて帰り道を歩いていると電話がかかってきた。
相変わらずこちらの連絡には既読すらつけないくせに、なんて思いながら電話を取ると聴き慣れた呑気な声が。

「やほ〜、元気?」
「元気だよ、新年の挨拶ぐらい返してくれよ」
「あーごめんごめん、うっかりしてまして」
「いつもじゃん」
「皆まで言うでない」
「それより、何よ突然、どうしたの」
「いやさぁ…」

なんか寂しいって今聴こえた気がしたからさ。

「…そんなことないけどね」
「あー、こりゃあ図星だね、うん、図星でしょ?」
「うるさい」
「誤魔化しちゃってさー、可愛くないぞ?」
「ほんとうるさい」
「ねぇ、今どんな気持ち?ズバリ当てられてどんな気持ち?」
「やかましい」
「あー、ひどーい…もう連絡してやらないぞ?」
「…実はちょっと嬉しい」
「正直でよろしい!可愛いぞ!」
「やっぱりうるさいわ」
「ねーーー、そんなこと言わないでよーー」

しばし寒さを忘れた帰り道。
お互い社会人になり忙しくなって会う機会は減ったけどこうやって都度、狙ったように、こうして連絡をくれる彼女に少しだけ感謝した。
この寒空の下を歩くには、1人では少し心許ない。
隣には居ないけどそばに居るような、心の近くにずいっと踏み込んでくるような強引さが、そこが好きなのかもしれない。
絶対にこれは内緒だ、想像するだけで質問攻めにされるのが目に浮かぶからだ。
マスクの下で隠れて見えないから、人目も気にならない夜だから少しだけ彼女の顔を思い浮かべて笑った。

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