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俺の前世は、おじいちゃん(4)


おはよう。4月1日の月曜日、スタートって感じの日だね。朝ドラ「虎に翼」を見始める。桜が一気にほころんで、そのうち一気に開きそうだ。

さて、前回の話の続きから。初めから読みたい方はこちらから↓↓↓。話の流れをより詳細に知りたい方は、初投稿からどうぞ(話繋がってます)


俺は、前世でじーちゃんだったとき、ばーちゃんを置いて他に女を作って蒸発した理由を思い出した。ついでに、記憶が「妄想」なのかガチで「前世の記憶」なのかを事実確認すべく、母に電話してみると、どうも事実であることが見えてきた。

ちなみに、俺はもちろん、じーちゃんが曽祖母(祖母の母)にシカトされてた事実を、親戚や祖母、母からこれまでに聞いたことはない。それどころか、母に言わせれば「それが当たり前の空気だった」らしく、じーちゃんが家を出た原因が曽祖母との関係にあったことなど、いまだに誰も気がついていない様子。

そこで俺は、まず曽祖母と祖父が和解する必要があると考え、俺と二人の霊との三者面談を開くことにした。ちょっとややこしいんだが、ここでは「今の俺」と「前世の俺(祖父)」の人格はあくまで別人として区別する。今の俺はあくまでタケルであって、前世の俺である祖父は、ここではあくまで「祖父」だ。

大体の会話の流れは、実際にやったことをざらっと書いてみる。

俺=タケル
祖父=じーちゃん
曽祖母=大ばあちゃん でいこう。

タケル「大ばあちゃん、じーちゃん、ちょっと三人で話したいから、出てきてくれますか」
祖父「はい、います」
曽祖母「私も」

曽祖母の気配を左側に、祖父の気配を右側に感じる。

タケル「二人とも、いつも俺や子孫たちを見守ってくれてて、ありがとう。ところで俺、じーちゃんだった時のことを思い出したんだ。じーちゃんはかつて、ばーちゃんを置いて蒸発しちゃったよね。その時のことを思い出していたら、大ばーちゃんに嫌われてたこと、そのことで家に居場所がなくて、しんどかったことを思い出した。じーちゃん、俺の話を聞いて、どう感じる?」

祖父「その通り。辛かった。俺は自分が男である実感を持てなくて、あの家で居場所がなかった。義母(曽祖母)は俺が土を触るのも嫌がってた(畑の土のことかな?)」

タケル「なるほどね。確かに、婿に入った先で義母である大ばーちゃんに嫌われたら、すごく辛いと思う。今のを聞いて、大ばーちゃんはどう?」

曽祖母「お前(タケル)はいつも墓参りにきてくれるね。いつもありがとうね」

曽祖母、孫の孫である「タケル」に対して、穏やかな愛情を向ける。あたたかなものが胸に流れ込む感じ。きつい人と聞いていたが、孫には優しい人なんだなと感じる。

タケル「大ばーちゃんちのお墓は、田んぼの中にあって素敵だよね。あの土地はとてもいいところだ。で、じーちゃんの話だけど、大ばーちゃんが聞いてみてどう感じる?」

曽祖母「……」

曽祖母の気が、ずんと重たくなる。どうも、可愛い孫の孫のタケル(俺)とは話したいけど、祖父のことはみて見ぬふりをしているようだ。

タケル「…大ばーちゃん。あのね、俺は子孫として、ご先祖様たちには仲良くしていてほしいんだ。ご先祖様同士がゴタゴタしていると、その状態が巡り巡って生きている子孫たちに影響してしまうから。大ばーちゃんは、自分たちが仲違いしたままのせいで、子孫が苦しんでいたら、嬉しい?」

曽祖母「そんなの嫌さね。だけど、それはみんな彼(祖父)が悪いよ」

タケル「なぜ?」

曽祖母「彼はね、うちの大事な娘に2度も恥をかかせたんだ。一度めは貧乏な家との結婚。もう一つは、女を作って蒸発。信じられないね」

タケル「大ばーちゃん、俺が思い出した限り、じーちゃんが出て行った原因の一つに、大ばーちゃんがずっとシカトしていたことがあるみたいだよ」

曽祖母「それは彼との結婚さえなければ、初めからこんなことにはならなかったんだよ。私にはね、家の血を守る大事な役目があったんだ。私は、家を、家の名誉を守ろうとしただけだよ。それは子孫への愛情でもあるんだ。それがお前にはわからないの?」

曽祖母の生きた時代は、今よりもずっと、家の尊厳を大事にし、「恥」を嫌う時代だったはずだ。

ただ、彼女の時代に対する理解が、俺の教養では及び切らないので、ひとまず曽祖母の感情をじっと感じてみる。…正義感、使命感、何より、家を守るものの強い責任感。祖父の記憶をたどっていった時に見えた(前回の記事参照)居間の柱の前でじっと座る曽祖母のビジョン。曽祖母からすれば、彼女の精神はあの居間の柱……一家の精神的柱、そのものだったのかもしれない。その裏にあるのは、プレッシャーだ。広大な土地を代々受け継ぎ、護る者としての。

タケル「いま、大ばーちゃんの抱えていた責任とプレッシャーを感じたよ。とても重くて、背中が痛くなった。大ばーちゃんには、家を守るという大事な役割と、使命感があった。それは今も続いてる。そのことに、心から感謝します。あなたが守ったものは、今も子孫が受け継いでるよ(現に、土地は今も本家によって守られている)」

心からの感謝を胸にたたえて、ありがとう、と手を合わせる。すると、曽祖母のピリついた気が俄かに和らぐ。少し、溜飲が下がったのだろうか。

タケル「大ばーちゃんが守ってきたのは、土地だけではなく、一族の誇りや精神でもあるんだね。確かに、そんな大ばーちゃんから見たら、祖父は好ましくなかったのかもしれない。じーちゃんは、今の話を聞いていてどう思った?」

祖父の気配が、アリンコみたいに小さくなっている。生前から、よほど曽祖母が怖かったんだな…(そして少し気が小さい人なのかな)。

祖父「申し訳ないと、思ってる。一族に恥をかかせてしまったこと、悪かったと思っています」

タケル「じーちゃんは、出て行ったこと自体は、悪かったと思ってるんだね?」

祖父「はい。子供達や◯子さん(祖母)にも、辛い思いをさせたと思っています。もちろん、お母さん(曽祖母)にも」

タケル「じいちゃんは、どうしたいの?」

祖父「俺は、義母(曽祖母)に俺のことを、認めてほしいです」

曽祖母に婿として認めてもらえなかった祖父の痛切な思いが、俺の全身に広がる。喉が締め付けられて痛い。じーちゃんが自分の存在を認めてもらえなかった苦しさ。

タケル「大ばーちゃん。じーちゃんは反省しているよ。だからもう、許してあげたら? 大ばーちゃんが一族を守ろうとするあまり、じーちゃんの存在を許せなかった気持ちは、少しだけど俺にもわかったよ。だけど、子孫からしてみれば、どちらも大切なご先祖様だよ。なのにじーちゃんが一族の中でなかったことにされてるのは、俺にとっても、自分を否定されたみたいに悲しく感じるよ

曽祖母は黙ったまま。あたりはまだ、重苦しい空気のままだ。俺はどうしたら大ばーちゃんの気持ちが変わるのかを考え、あることを思いついた。


続きます。

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