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「レティシア書房」with FASTNER

丸太駅から徒歩10分。閑静な住宅街にたたずむのは一風変わった本屋さん。
取り扱う商品は多岐にわたり、レコードやミニプレス、さらに個人が持ち込んだ本まで。
レティシア書房の魅力を店主の小西さんに聞いてみた。


ジャンルレスな理由とは

-本を売るだけでなくギャラリーやレコードも販売されていると思うのですが、そういった本を売るだけじゃないお店にされたのは、どういった思いがあったんですか。

音楽はね、僕はもともとレコード関係の仕事をしてました。新京極通りに詩小路ビルってあるの知ってはる?あの上の四階のところに、昔優里奈レコードっていう京都のチェーン店のレコードがあって。そこのお店の店長をしてて。オープンした頃、世の音楽界は松田聖子や中森明菜がピラミッドのトップでね。ところがこのビルはパンク少年やらメタルキッズの溜まり場になってて全然売れへんかって。で、どうしようかなと思ってる時に、インディーズバンドの人が自分たちのレコード持って来たの。こっちはもう売り上げ悪いから、藁をも掴む思いで。それが当たってインディーズのメッカになったんですよ。
そこから本の方に移って、いわゆる中型書店の店長をやってたんやけど、いっぱいドーンと本仕入れて、残ったら返本のシステムでいいの?と思うようになったの。欲しい本も、思うように入荷しないしね。その時にはミニプレスっていうのが出てきてて。これをおもろいな、とやり始めたのがこの店を始めたきっかけなんですよ。だから、まあいわばエックスジャパンに自分の方向性を見つけてもらった(笑)色々やってきたけど、もう人生の後半に差し掛かって最後の十年二十年ぐらいはやりたかった本屋さんをしようと思って始めたのがこれ。
でギャラリーをやろうと思ったのは、本にしても音楽にしても絵にしても何にしても「表現」じゃないですか。だからあの表現の出口は違っても表現してることは一緒やから、もし一緒にやったら いろんな人が集まってきて面白いんちゃうかなと思ったのが最初。


ミニプレスへの想い

-ミニプレスを多く取り扱ってるっていうことで。少数発行であるミニプレスをレティシア書房さんがその店頭に置く意味みたいなのってあるんですか?

ずっと前に、とある出版社の新しい婦人雑誌発表会があって、東京のおしゃれな編集者の人がトレンド情報は東京から出します言うねん。つまりトレンド情報とか流行は東京ですよと。それはその時から僕、違和感持ってて。だって仙台には仙台の文化があるし、函館には函館の文化があるし、そこになんかやってる人は絶対いると思ったんや。例えば盛岡には「てくり」っていうミニプレスがあって、そこは地元の情報を発信してるんだけど、それはこっちの人が見たっててすぐに役立つ情報じゃないんだけど、ここでこんな人がこういう暮らしをしている、こういうことをやってる情報を出してるから、みんなそれは喜んで見てる。つまり結局、東京にも地方都市にも全国にそれがあるから、みんなが知ってもらうのはいいこと違うかなと思って始めた。 最初の頃はそういう地方の文化発信?うちの町はこんなことがあります。こんな人がいますっていうの。ミニプレスの面白さちゃうかな。
でもそれがここ数年の間に様変わりして、趣味系のミニプレスもあれば、働き方のミニプレスもあるし。変わったところで言えば、全国の商店街だけ撮ってる写真家さんとか公衆浴場を紹介する人が出てきて。
今は、誰でも本作れるじゃないですか。だからもう種々雑多なもんが出てきて、もう戦国時代になってるわけよ。だからそこが面白いし、そこに一人出版社が乗っかってきて。日本全国津々浦々いろんな人がいるっていうことを、こういう本を置くことによって分かってもらえればありがたいかなって。 それがやっぱりミニプレスの面白さちゃうかな。



「若い人と共に成長していく」

-インタビューをしていて、ミニプレスにしろインディーズバンドにしろ、小西さんはカルチャーの波に対しての感度が高いなと思ったのですが、それは何故なんでしょうか。その感度の高さはたまたまなのか、それとも流れなのか。

流れは絶対あると思います。それに乗るかは個人の自由だけど、僕はそれにうまいこと二回乗ったということなんです。インディーズの波とミニプレスの波に乗せられたんです。そういうことしなさいってそれが神様なのかわからないけどこう、はめられた。人生ってそういうもん。だからはめられてよかった。


ーありがとうございます。それと同時に、小西さんはすごくコミカルというかエネルギッシュな印象を受けました。

やっぱりそれは若い人たちと話すときも、年配の人と話すときでも同じなんですが、上から目線になりたくない。なれるほどのことをやってないんですよ。こういうフランクさが一歩前に出たら向こうもしゃべりやすいじゃないですか、だからお客さんでもどんな世代でもそうやってしゃべってますね。前にインディーズのレコードを取り扱っているときもロリータファッションのバンドが自分のレコードを売りに来たんですけど、それはそれで楽しかった。だからそういう人たちを面白いと思って、信用してあげる。それが大事だとおもいますね。

やっぱり年配の人でも面白い人はみんなフランクで上から目線でない人たちなんです。同じ目線でミニプレスって何?って聞いて、面白いと思ってくれていっぱい買って帰る。そうやってフランクな人が増えていって、違う世代の人が交わっていったら、この日本ももうちょっと良くなると思います。どこかで自分と違うものを切り捨ててしまうと、自分と違うものを受け入れにくくなって排除するようになってしまう。

やっぱり若い人と一緒にこっちも成長していくっていうか、ジャムセッションみたいなもので一緒に色んなことやって上がっていく。そうしていかないと店はやっぱり魅力なくすし、はっきり言って、年寄り最後の仕事って若い人の役に立つことなもんだから。そういう受け口を作ってあげることやと思うんや。大学時代の一時期でもその表現に携われる、そういう人たちを応援してあげようかなとは思ってる。

地元に愛される町の書店

-結構幅広いジャンルの作品を置かれてると思うんですが、それはどうやって決めていらっしゃるんですか。

来るものを拒まず。好きにやってくださいという感じ。うんだからなんかやったはるのやったらいつでもご相談にこっちが応じるし。どうぞご自由にお使いくださいって言って。

-何回もこのギャラリーとかを毎年使ってる人いるんですか。

毎年使ってる人いる。オープンの時から。もう12回やってる人もいますね。

-それはなぜなんでしょうか。

やりやすい?使いやすいんちゃう?それとやっぱりこの辺、例えば作家さんのお友達来た時にカフェもあるし、いっぱいレストランあるじゃないですか。面白いお店もたくさんあるし、それでちゃうかな。四国の出版社の人がやった時に、この辺のパン屋さんの多さに感動しはって在廊をせんとパン屋ばっかり行ってはった。ほんでパン買って四国まで持って帰ってはった。ここのギャラリーの立ち位置、あの環境がいいんちゃうかな。烏丸御池からも来やすいし、京都御所もすぐそばにあるし。京都観光もできるしっていう。それと、例えば作家さんがいた時に誰が来て、作家さんと誰かが喋った時に違う人が来はったら普通のギャラリーってなんか時間の潰しようがないやん。でもここだと本読んでられるやん。レコード聞きたかったらCD持って視聴もできるやん。だから、そういうのもあるんちゃうかな。作家さんも楽みたい。ちょっと本を見ててとか言うてはるもん。ここ本面白いしとか言うて。まあうちはそれはもう美味しいやん。それで本を買ってもらったら。そういうのあるんちゃうかな。うん、ほんでおしゃべりしたかったら、この辺カフェもあるから、行ってもし友達来はったら、携帯に電話して帰ってきてください。言えるようなそういう場所。そこはウケてるんちゃう?

-今日実際に伺ってみて思ったのが、確かに本当に素敵なカフェとかがその道に多くて。カフェもたくさんありますよね。

この辺はもう歩けば歩くほどいっぱい出てくるし。この辺りに有名なにブックカフェもあるし。その辺になんぼでも美味しい居酒屋もあるし。で、実はこの辺にライブハウスもあんねん。クラシック専門の。一時間オンリークラシックのライブハウスで、すごくいい店で。そういうのもできてて。なんぼでも遊べんねん、そういう意味で。本屋さんは一軒二軒、もう一軒あるか。だから三軒ぐらいあるし、レコード屋もあるし、酒屋さんもあるし、古着屋さんもあるし。そういう意味では良い場所。

-地元の方も結構訪れる場所なんですね。

来はるよ。この辺の人は来はるね。例えばそこに取材が行かはったら取材からこっち帰ってきてあそこのレティシアって面白いよっていうのもあるし。そういうお互いのなんかはあるよね。


-今さっきおっしゃられてたみたいに、誰かのレビューを読んでここに来られる方は結構いらっしゃるんですか。

多いね。ノート見てあの本まだあるとかいうのはよくあります。だからノート書くときにこの本はそのお客さん、こう思い浮かべて書く。この本はこの人は読まへんけど、こっち読むやろうっていうのはどっかで見てますそれでも逆にその人が読まなかったら、違う人が買う。予想外の人が買うことはある。早くバーと書くんやけど、誤字脱字が多いから、必ず出す前に女房が全部チェックして、noteにあげてるんですよ。僕が出したら誤字脱字だらけやから。それは2人でやってます。

作品選びの極意

-Noteに書く本は、どうやって選ばれてるんですか。

それはなかなか難しい質問やね。感覚かな。これはおもろいなと思ったら書く。例えば芥川賞を取ったから書くとか、だからこれはお勧めです、ていうのは一切やってない。村上春樹も書くよ。でもあの賞を取ったからっていうのじゃない。あんまりマニアックな本をやっちゃうと、ちょっときついかな思って書かない。お店やる時にとある人に言われたんやけど、そのお客さんと同じポジションで物を見てたら、客に馬鹿にされるよと。でもお客さんの一歩前が良いと。4歩も5歩も進んじゃうと、それはオタクのお店だと。だから5歩前行っちゃうと、一部の人しか分からないやん。だからマニアな店になっちゃうねん。で、それはしたくなかったから。その一歩前にいく。その一本前とどうどうやって分かるんですか?って、そんな感覚や余計わからない。でも、それはずっと僕が一番今守ってること。うん、コミックなんかもたまに書くけど。あ、これはマニアックやな思って外す。だからそれを何ですかということは、お答えのしようがない。感覚ですというしか言いようがない。

ここでしか知れないディープな情報や、人との思いがけないつながりをお求めの方はぜひレティシア書房へ行ってみるといい。
そこには思いがけない出会いがあるかもしれない。

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