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まるい環からヒゲのように放射状にのびる私鉄のレール。猪瀬直樹著『土地の神話』

比喩ジャックマンvol.25 『土地の神話』と五島慶太

現代日本人のライフスタイルはどのようにしてできあがっていったのか。『土地の神話(猪瀬直樹/1988年刊)』、NewsPicksアカデミア 猪瀬ゼミを経てのまとめです。

NewsPicksアカデミア猪瀬ゼミ第3回


人口増と鉄道網の充実

ざっと歴史を振り返ります。

明治維新頃の東京の人口は80万人程度、それが明治の終わり頃には三倍強の270万人、大正14年には450万人、さらに太平洋戦争の時期には700万人強に膨れ上がる。その後、戦争の影響で一時急激に人口減に転じるものの、高度経済成長期にはついに1000万人に達する。

東京の人口が増えるにつれ、居住エリアは東側から西南(現在の大田区、世田谷区、多摩エリアなど)に広がる。それにつれ皇居は心象だけでなく地理的にも東京の中心に移っていく。

「まーるい緑の山手線」が環状運転を始めたのは大正14年。人口増加を後押ししたのは山手線で繋がった新宿、渋谷、池袋などのターミナル駅で結節する私鉄の発達にあった。私鉄の延長と沿線の宅地開発により通勤可能エリアは拡大し、郊外から通勤電車で都心の職場に通勤するという日本独特のライフスタイルが生まれていくことになる。

サラリーマンという言葉が生まれたのも大正時代の中ごろ。東京の人口増はサラリーマン人口増とも符合する。

そしてこのころ鉄道敷設と宅地開発を熱心に推進したのが五島慶太という人物だった。


Who is 五島慶太

この時期の鉄道界の主役は大東急の五島慶太。「日本資本主義の父」実業家 渋沢栄一が描いた理想である田園都市構想を飲み込み、田園調布という街をフックに猛烈に鉄道建設と宅地開発を進める。

元は鉄道院の官僚。総務課長として、鉄道行政を取り仕切っていた。その大いなる野望を果たすため、民に下り鉄道事業を推進する。

東横線渋谷-横浜間を開通させただけでなく、私鉄を次々と乗っ取り帝国を拡大していく強引なやり口を揶揄して、強盗慶太とも呼ばれた(シャレててカッコいい)。小田急、京急、京王線を次々と傘下にし、五島慶太の支配力はどんどん高まっていく。東京高速鉄道を発足させ地下鉄建設も行った。

太平洋戦争期には東條英機内閣の運輸通信大臣も務めている。

五島慶太の行なった事業は幅広い。鉄道建設と宅地開発の一体経営はもちろん、渋谷駅への関東初のターミナルデパートの建設(東横百貨店)、沿線への学校誘致(慶應義塾大学、日本医科大学など)、電力事業、教育事業、バス事業、多摩川園等のレジャーランドなどなど、とても一代で成し遂げたものとは思えない。

芸術作品の収集にも執念を燃やした。五島慶太のコレクションには、国宝『源氏物語絵巻』や『紫式部日記絵詞』をはじめとする数々の逸品が含まれている。

東急大井町線上野毛駅そばの五島美術館


盗んだのは?

ルパン三世なら「盗んだのはあなたの心です」と銭形警部あたりがカッコよくキメてくれますが、強盗慶太の場合は盗んだものはなんだったのか。

次々と私鉄各社や関連会社を飲み込んでいった剛腕っぷりはもちろんですが、個人的には、阪急電鉄 小林一三の事業モデルを次々パクっていったことこそが五島慶太の真骨頂だと思います。

堀江貴文さんのメルマガのQAコーナーを読んでいると、「どうすれば飲食店の客が増えますか?」、「youtuberやってるけどどうすれば視聴者増えますか?」という質問が多数ある。そのときの堀江さんの回答は決まって

流行っている店や、youtuberの実施していることを徹底的に模倣する(パクる)こと

です。

「パクる」というと聞こえは悪いが、今も昔もうまくいってるモデルを徹底的に研究して取り入れて試行錯誤するというのがビジネスの鉄則。そして、そこから生まれるオリジナル。

五島慶太のオリジナルは学校誘致。

小林一三氏からはいろいろの知恵や指針を受けた。しかし、学校を誘致するということだけは、私自身の発案であり、いささか自慢のできることである。/『事業をいかす人』(昭和33年刊)

阪急電鉄の行なったターミナル駅デパート、レジャーランドの建設を東京で取り入れ、アレンジした末に、学校誘致で学生客の輸送を取り込むというオリジナルにたどり着いています。

ちなみに、芸術作品は決して強奪したものではないが、その入手の過程もおもしろい。

五島慶太は、コカコーラボトリングの立ち上げ資金に苦しんでいた高梨仁三郎に多額の資金を提供する代わりに、『源氏物語絵巻』などの名品を手にしている。お互いの利害が一致しただけといえばそれまでだが、悪評に包まれながらも理念を曲げない高梨仁三郎のような実業家にシンパシーを感じていたのでは、という論評もある。


郊外に住み、通勤電車で都心の会社に通勤をする。帰り道にはターミナル駅のデパートで買い物をしたり、休日は反対側の終点にあるレジャーランドで余暇を過ごす。そして、その日常の中に普通にあるコカコーラ。

美術館を巡りながら、現代の日本人のライフスタイルに多大な影響を与えた五島慶太に思いを馳せる週末でした。


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