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舞台裏好き

パンでも本でも、舞台裏が好きだ。
舞台裏では、つくられたものにかけられた時間や想いがよくみえる。もちろんまず先に、純粋に作品を味わったら舞台裏に行ってみたくなって、行ってみる、という流れがいい。

出張の時に新幹線で読もうと思ったのに、つめたい雨の週末だったので一気読みしてしまった、大好きな白水社EXLIBRISの本、『アイダホ』(エミリー・ラスコヴィッチ)。3時間くらいの映画を2本続けて観たくらいの、旅をしてきた感をともなう小説。

『アイダホ』をクライムサスペンスと思う人は、なぜ、とか、どこへ、とか、すべてをクリアに明るみに出さないとストレスに感じるに違いないけれど、これはうまくまとまった小説より奇妙でリアルな感じがする小説だった。

読み終えて、作家のサイトを訪れてみる。そこではこの小説のなかを流れている歌を聴くことができる。それは作家エミリー・ラスコヴィッチの父親の作品で、本人がギターを弾き歌っている。


それは彼がアルコールや薬に依存する親を持ち苦労をした若い頃、19歳のとき、父親を亡くしたあとでつくった歌でありながら、温かい。それはエミリーが小さい時から聴いてきた大切な歌だった。

彼は国語の先生で、詩や小説を山のように書いてきたが、作家にはならなかったようだ。そして娘の小説の編集者を務めたが、この詩が使われている箇所だけは最後まで彼女によって差し替えられ、隠されていたという。

小説のストーリーとは異なる、もう一つの家族のストーリーに見入ってしまう。

彼が唯一、間違っていたのは詩や小説でお金を稼げると思ったところだけで、と、エミリーは書いている。それでも彼は書き続け、ひどい生活を脱出してしあわせな家庭を築いたのだ。そのことに心を動かされる。


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