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interview #49 マンダリン オリエンタル 東京 シェフベーカー 中村友彦さん

January 27, 2019

食に関わる仕事をするひとに日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』49人目のインタビュイーは、マンダリン オリエンタル 東京 シェフベーカーの中村友彦さんです。

食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのか、お聞きしたいという想いがあります。ご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったNKC Radarに心からお礼申し上げます。

休日はカンパーニュとベルリーナ
中村友彦さん / マンダリン オリエンタル 東京 シェフベーカー

休日の朝はカンパーニュのトースト

毎朝、早くから出勤するので、子供たちと一緒に朝食をゆっくりとることができる休日を、いつも楽しみにしています。休日はたいてい、カンパーニュを食べます。胡桃とレーズンのカンパーニュをトーストして、シンプルにバターのせて食べることが多いですね。
仕事ではとにかく試食が多いのですが、ひと口だけでは全体のバランスがわからないと思うので、必ずひとつ全部を食べてみることにしています。ひとつのパンでもいろいろなバージョンを試作したときには、試食でお腹がいっぱいになってしまう。そんな日の夕食は、野菜たっぷりのミネストローネやサラダに、カンパーニュやシリアル入りのバゲットをちょっと添えて、軽くすませます。

ニュージーランドのフレンチベーカリーで経験したこと

新しいレシピのアイデアは、おいしい食材に出合ったときに生まれます。台湾のロブションにいたとき、すごくおいしいピーナツバターに出合って、甘さ控えめのオレンジのコンフィチュールと合わせてパルミエをつくりました。サンドイッチもおいしいですよね。ピーナツバターとオレンジの組み合わせは、ニュージーランドでホームステイしていたときに経験しました。ヘビーだけれど、なぜかおいしい。そのときのパンは日本の食パンより小さくて薄かったので、物足りずに2、3枚重ねて食べていました。
ニュージーランドはさまざまなバックグラウンドを持つ方々が多いので、たとえばインド人にカレーのつくりかたを教えてもらうなど、いろいろな食体験ができました。そのなかでも、フランス人のベーカリーで働いたことで、すごくたくさんのことを学びました。
そのフレンチベーカリーはリーンなパンを売る店で、働いていたのはみんなフランス人でしたが、今までとは大違い。計量や時間に厳格な前の職場では、きちんとしなければならなかったのですが、同じフランス人でもアバウトなパン職人が多かったんです。「何時にこれをやらなきゃダメだ」というのはなくて、フレキシブルな感じで「おいしければいいんだよ」って。実際おいしかったんです。なぜだかおいしくできるんですよ。
その店でパンの窯入れ前に「クープは何本入れますか?」と聞いたとき、「え?」という顔をされて「何本でもOK」と言われました。前の職場ではクープが上手に引けていないと怒られたことがあったので、クープというのはすごく大事なものだと考えていたのですが、そこでハッとしたんです。なぜ、クープがきれいでなくてはいけないのか。何のために入れるのか。火抜けがよければ、クープは何本入れてもよいのかもしれない。そういうことを考えるきっかけになりました。
フレンチベーカリーでは、深夜2時に仕事が始まって、朝6時頃に休憩で朝食を食べていました。いつも、クロワッサンを一人3個くらいずつ、カフェラテにドボッとつけて食べるんです。それがまたおいしくて。帰国してから同じようにやってみても、あのおいしさとは全然違う。そうやって浸すのも、パリパリした層があるリッチなクロワッサンよりも、バターが少なめのクロワッサンだったからこそ、おいしかったと思うんです。そういう経験が今の自分につながっています。

ドイツパンは日本人が好きなパンだと思う

ずっとフランス系のパンを焼いてきたこともあって、いま興味があるのは、もともと好きだったドイツのパンです。ドイツパンは絶対、日本人の好きなパンだと思いますよ。しっとりしていて柔らかく、皮も薄く、サンドイッチにしてもおいしい。どうしてドイツパンは硬いというイメージを持つ人が多いのか、不思議です。このホテル(マンダリン オリエンタル 東京)でも、朝食ブッフェのために焼いています。
休みの日によく、ドイツパンでサンドイッチをつくって公園に行きます。ベルリーナラントブロートやシュロットブロートにバターを塗って、ハムやチーズや野菜をはさむ、本当にシンプルなサンドイッチです。チーズも、近くに専門店がないので、ごく普通のチーズです。子供たちも、ドイツパンが大好きで、よく食べています。
「休みの日にまで、パンを食べたくない」というような日もありますが、夜になると食べたくなってくる。パンを一日食べないという日はないですよ。

中村友彦  / マンダリン オリエンタル 東京 シェフベーカー
静岡県出身。東京と台北の「ジョエルロブション」でトータル約12年の研鑽を積む他、ニュージーランド・ウェリントンではフレンチベーカリーのスーシェフを務め、オーストラリアのシドニーでは初の本格的な日本スタイルのベーカリーの開業に携わるなど、国際的に異なる環境で経験を培う。「マンダリン オリエンタル 東京」では2018年4月よりシェフベーカーを務め、各国の伝統的なパンやその進化形、五感に響くパンを展開。

(NKC Radar Vol.82 より転載)

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