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【3度目の正直で実ったプレス】プレミアリーグ第12節延期分 アーセナル×マンチェスター・シティ |マッチレビュー

プレミアリーグ首位攻防戦。首位のアーセナルと2位につけるマンチェスター・シティの天王山。両者の勝点差は3。アーセナルが1試合未消化の状況ではあるが、この試合に勝てばシティは首位に立つことが出来る。反対に負ければ一気に勝点差が開く。そんなエキサイティングな試合が今節行われた。

敵地に乗り込んだペップシティはどんな戦いぶりを見せたのか。それでは試合を振り返っていきたいと思います!

▪️似たもの同士だからこそ

アーセナルもシティも試行するフットボールのスタイルは似たものがあると思っている。

ボールを圧倒的に保持し、ボールを奪われれば即時奪還。ボール非保持では最初から自陣に下がることはせずに、前からアグレッシブにリスクをかけてプレスを仕掛ける。

その為に両チームがどのようにハイプレスを掻い潜りどう前進するのか。反対にプレス耐性がプレミアトップレベルの相手にどうプレスをかけるのか。こういったポイントに注目して試合を観戦してみた。

前半はシティのプレスをひらりと交わしたアーセナルのゲームに。後半はシティがプレッシングから決定打を打ち込む展開となった。

そんな似たもの同士だからこそなのか、この日のマンチェスター・シティは自分達がやられたら嫌なことを首位アーセナルにぶつけていたような印象を受けた。

そんな観点で見てもこの試合は面白いかなという独り言でした。

▪️両チームのスタメン

まずは両チームのスタメンの並びから。

アーセナルはトーマスの負傷に伴い、移籍後初先発となったジョルジーニョが中盤の底に。そして右SBには冨安がこのビックゲームのスタメンに。プレミアリーグ首位のチームに。こういった重要な試合に日本人選手が試合に出るのは純粋に嬉しいし誇らし。

ロンドンに乗り込んだシティは、前節のアストン・ヴィラ戦同様にボール保持の陣形は後方[3-2]。ボール非保持の局面になるとCHのベルナルドが左SBに入り4バックを形成する守備局面での可変システムを採用した。

シティのこの並びからして。このメンバーを見た時シティはこの試合ボールを握り倒すんだろうな!と予想したサッカーファンも多かったかもしれないが、そんな予想をペップはことごとく裏切った。

▪️シティの4-3-2-1中央切りプレス

試合が始まると同時に両チームのエンジンは全開。そんな中初めに目についたのはシティのプレッシングだった。目についたと言うんのだからそこには違和感や見慣れない光景があると言うことだ。そう、シティのプレッシングは今までいたことのない陣形だった。

アーセナルはボールを保持すると、ペップのかつての教え子である左SBジンチェンコが偽SBを発動。中央に入ってボールに関わってくる。また状況に応じて幅をとったり、逆サイドまでボールに関わることも。敵となったかつての教え子がビルドアップ局面では一番厄介な存在となっていた。

そんなアーセナルの特徴的なビルドアップに対応するために、この日特別に用意したシティのプレッシングが[4-3-2-1]の中央を封鎖したプレッシングだった。

頂点のハーランドはプレスの方向付けを担い、その下に両WGのグリーリッシュとマフレズが絞ってアンカーのジョルジーニョと中央に入ってくる左SBジンチェンコをマーク。IHのデ・ブライネとギュンドアンはアンカーロドリのラインまで下がって、アーセナルのIHにそれぞれマークについた。

アンカーのロドリは明確なマークはなく、前線と後方の中央のスペースを遮断。前線が前に出た際は、前に出た選手がマークについていたアーセナル選手を捕まえる役割も担った。

そしてもう一人の中盤ベルナルドは左SBの位置に下がり最終ラインを4バックに可変していった。

[4-3-2-1]の陣形になり、アーセナルの偽SBを用いたビルドアップをシャットアウトしようと試みた。しかしこの準備した守備陣形も開始20分で見納めとなった。

決して機能していなかった訳ではないが、ペップが陣形を変えたくなる気持ちも分からなくなかった。

ペップは[4-3-2-1]の陣形から[4-3-3]の陣形へシフトしていった。しかしそのシフトチェンジは機能しなかった。その理由はアーセナルの対応力の早さとそれを実行できる選手の質だった。

▪️早すぎるアーセナルの対応力

▽シティ一つ目の失敗

シティの準備した[4-3-2-1] 中央封鎖プレスでは、プレスが届きにくいアーセナルの選手が出てしまう。それが2CBの一方の選手と右SBの冨安だった。

アーセナルの2CBに対してハーランド一人が対応。数的不利な状態でハーランドはプレスに出なければいけない構造に。

機を見ては中央に絞ったWGの一方が縦のスライドでハーランドがプレスに行った反対のCBへプレスに出る。そして自分の持ち場を離れたところにマークのいないロドリがスライドするプランも準備されていた。

しかし中央に絞ったWGの第一優先はジンチェンことジョルジーニョの監視だった。アーセナルはGKもビルドアップに当たり前のようにビルドアップに参加するので、アーセナルのCBにはなかなかプレスは届かなかった。

そしてもう一人は右SBの冨安だ。右SBの冨安は少し驚くくらいフリーになっていた。彼のボール保持時のスキルも踏まえてシティはそういう選択を選んだのかもしれない。

それでも冨安を宙ぶらりんという訳ではない。彼にボールが入ると中央のグリーリッシュかギュンドアンが横へスライドして対応していった。

これによりアーセナルのビルドアップ局面での中盤を経由した前進をシャットアウトすることの出来たシティ。しかしここからアーセナルがシティを上回り対応力を発揮していった。

中央を最大限に警戒されたアーセナルは前述した、シティの[4-2-3-1]守備陣形ではプレスが届きにくいエリアを中心にボールを保持していった。

CBから→右SB冨安→WGサカへ。といった感じに外回りでボールを前線へ送り込んでいった。右SBの冨安もゲームの中でシティのプレスを伺いながら、より高い位置に上がったり、サイドに広がったり工夫も見せてCBからボールを引き受けても、シティのグリーリッシュやギュンドアンの横スライドが間に合わない状況を作り出していった。

そしてボールを受けた右SBの冨安はWGサカへボールを届けていった(冨安は前向きになった状態のボール保持の局面でのパフォーマンスは正直改善の余地はあったと思う。ボールを捨ててしまう場面もいくつかあった。そういったことも見据えてシティも冨安をフリーにしたのかもしれない。それでもサカにボールを届けるという最低限の仕事はこなしたはずだ)。

外循環でWGがボールを受けるとどうしてもフリーになりにくい。シティのボール非保持は4バックなので、WGのサカにはシティのSBががっちりマークにつく。

しかしサカは相手SBがマークについてもボールをキープするのが非常に上手い。逆足WGの利点を最大限に活かしながら、相手を背負って利き足の左足でボールを受ける。ボールを自分のテリトリーに収めてしまえば今のサカからボールを奪うことは容易ではない。

そしてこの試合のサカとマッチアップすることになったのはベルナルド。非常に粘り強い守備力もベルナルドの強みではあるが、サカがファールを誘発するシーンが増えていき、何度もビルドアップの出口の起点になっていった。

お次はアーセナルの左サイド。左IHのジャカにはデ・ブライネが監視担当。デ・ブライネはジャカをマンマーク気味でマークしていた。ジャカも非常に賢い選手。このデ・ブライネの出方を逆手に、ビルドアップの出口を作り出していった。

アーセナルが後方でボールを持つとジャカはサイドへ流れる。その動きにデ・ブライネもサイドに釣り出される。これによってアーセナルの中盤、左ハーフレーンにスペースが生まれる。それに合わせて左WGマルティネッリが中へウェーブして後方から縦パスを受けて前進するシーンも見られた。

そしてシティは前半20分を過ぎると次の一手を講じた。

▽シティ2つ目の失敗

シティは守備陣形を[4-4-2]、[4-3-3]へチェンジ。デ・ブライネを一列前に上げて、WGをサイドに戻した[4-4-2]、[4-3-3]を形成した。

アーセナルはシティの[4-3-2-1]守備陣形に対してジャカが左サイドに流れることで、[2-4-4]の陣形となっていた。よってその陣形により噛み合うように[4-4-2]にシティは陣形を変えたのかなとも感じ取れた。

フリーになりやすかったCBと右SB冨安にもより圧力がかかる配置となったが、ここでもアーセナルの対応力の早さが際立った。

シティの変化にいち早く気付いたのがジャカとジョルジーニョだった。

サイドに流れていたIHのジャカはそのアクションを中止。より中でプレーするように。中に位置取ることで4-4-2になったシティの2CHをピン留めして、偽SBジンチェンコをフリーにさせたり。右ワイドのマフレズを中へ意識を誘い、大外のマルティネッリへのパスルートを作り出した。

左SBのジンチェンコはよりサイドでのプレーを増やしていった。それに合わせて左WGマルティネッリがインサイドに。左IHのジャカを加えたトライアングルをどんどん旋回させて、シティのプレスをかき回していった。前半終盤奪った同点弾となるPK誘発も左サイド旋回から生まれたゴールだった。

アンカーのジョルジーニョはより最終ラインに下がるアクションを見せるように。

2トップで2CBがプレスを喰らう構図をしっかり把握したジョルジーニョが最終ラインに落ちることでそれを解消。可変3バックにすることでシティの2トップに数的不利の状況を作り出しボール保持を安定。

ジョルジーニョは右斜めに落ちるアクションを見せると同時に、右SB冨安に高い位置を取れ!とアクションを促すシーンも。それによりシティのグリーリッシュがサイドに釣り出され開いたギャップ(ギュンドアンとグリーリッシュの間のスペース)に、中にウェーブした右WGサカへ縦パスを刺したシーンは痺れた。

アーセナルの2人のピッチ状の指揮官により、シティの2度目の守備プランも見事に破壊されていった。

▪️最近の課題を覆い隠した前進

シティはボール保持局面でも、アーセナルに自由を奪われていった。

シティが後方でボールを持つと、アーセナルはマンマーク気味のハイプレスをお見舞いした。明確に自分のマークを決めてボールに出ていく。

しっかり設計されているなと思ったのは、デ・ブライネとマフレイズへの対応局面。

シティの中盤がベルナルドがいることで4人に。アーセナルの中盤は3人なので誰かが余ってしまう構造に。それを見据えたシティ[3-2]ビルドアップの狙い。

ジャカがロドリに。ウーデゴールがベルナルド。ジョルジーニョがギュンドアン。そうなると余ってしまうのがデ・ブライネ。フリーとなるデ・ブライネにはどのように対応していったのか?

デ・ブライネは定在適所その持ち場を変える。それは相手にとっては捕まえづらい選手と言えるだろう。そんなデ・ブライネをアーセナルは彼の立ち位置に合わせて最大限の警戒心を持ちながら対応していった。

デ・ブライネがハーランド近く、高い位置どりをすると基本はCBのガブリエルが対応。デ・ブライネが高い位置から下がった時にはついていくアクションも。しかし、どこまでもCBのガブリエルがついていき、自分の持ち場を離れると最終ラインがどうしても手薄に。そんな時登場したのが左SBのジンチェンコだった。

左SBジンチェンコは自分のマーカーであるマフレズをCBのガブリエルに渡してデ・ブライネについていくシーンも。CBのガブリエルが右WGのマフレズにマークすることで、デ・ブライネについていくよりも最終ライン付近でプレーが可能に。また前線への長いボールに対してもジンチェンコよりもガブリエルの方が勝率も当然上がる。

この日シティの一つのビルドアップの出口となったGKエデルソンからのWGへのロングボールは左はガブリエル、右は冨安が完全にシャットアウトしてみせた。

組織化されたアーセナルのハイプレッシャーの前に、シティは持ち前の後方からのショートパスを用いたビルドアップを遮断された。しかし、この日のシティが良かったのは、自分達の武器にあまりこだわりを持っていなかったことだ。

ここ最近のシティの失点の多くは自陣でのビルドアップを引っ掛けられてのショートカウンターだ。前節のヴィラ戦でも見られ課題。

ベルナルドが入ったことで中盤の厚みや、後方からのレパートリーも増えた陣形となっていたが、そこはこだわりすぎずに、前線への長いボールをいつも以上に多用していった。

アーセナルのハイプレスによってボールを蹴らされて、ボールを捨ててしまう場面も多かったが、自陣でショートパスを引っ掛けてショートカウンターを喰らうシーンは見られなかった。

先ほども触れたが、GKからエデルソンからのワイドに張るWGへの長いボールは一つの出口として用意していたが、そこは冨安とガブリエルにシャットアウトされた。特に冨安はグリーリッシュに空中戦でほとんど勝利。その奥にGKエデルソンがなぜボールを蹴らなかったのは一つの疑問だった。

グリーリッシュが下がったアクションに加えて、ハーランドがサイドに流れてボールを引き受けるシーンもあったら、もっとビルドアップをひっくり返せたのではないかと思っていたが、そんなシーンも徐々に後半見られるようになった。

普段これだけロングボールを多用するチームではないので、これからロングボールに対しての連動性が増していけば新たなチームの武器になるはずだ。

そしてそんな長いボールからアーセナルのミスを誘発させて、前半アウェイのシティが先制点を奪い去った。

▪️シティ3度目の正直

前半それぞれ1点を加えて同点でロッカールームへ。先制点を奪ったシティだったが、自分達の思い通りにゲームは進んでいなかった。どちらかというとアーセナル優勢といった展開で後半へ。

後半に入るとややアーセナルの入りは前半見せたギアを少し下げた印象。そんな中、56分ハーランドが一気に背後に抜け出しCBガブリエルとの肉弾戦を制して身体を前に捩じ込むと、溜まらずファール。これがPK判定になったが、VARチェックによりオフサイド判定で取り消しに。

シティにとっては絶好の追加点のチャンスを逃した形となったが、ペップが動き出す。左WGに変えてCBのアカンジを投入。これに伴いベルナルドが左WGに入ると、これを合図にこの日3度目の守備プランの変更のチャレンジを試みた。

これを合図により前のめりにプレスをかけにいったシティ。アカンジの投入により、後方の守備力は強固に。右からウォーカー、アカンジ、ルベン・ディアス、アケの4バックは対人強さ抜群の4バックに。そんな鉄壁が後方に並ぶことで、前線の選手たちはメンタル的にも思いっきりプレッシングに出れたはずだ。

また右WGに移ったベルナルドの相手のパスコースを切りながらのプレッシングが巧みだ。彼一人でアーセナルの選手2人にプレスに出れるようになりよりプレス強度がアップ。そしてシティのこの3度目のプレス変更が実り追加点を重ねていった。

▪️おわり

プレミアリーグ天王山はアウェイに乗り込んだマンチェスター・シティに軍配が上がった。この結果アーセナルが1試合未消化がある状況ではあるが、シティが首位に立った。

敗戦となったアーセナルだったが、試合内容は素晴らしかった。特に前半の対応力は素晴らしかったし、本当に痺れた。そんな戦術的やり合いが非常に楽しかった。

情報によりとペップの監督キャリアで最低のボール保持率だったようだ。それほどアーセナルのボール保持を捕まえられず、アーセナルのプレスが激しくボール保持もままならなかったと言えるだろう。しかしまた違った見方もできる。

ボールを持たれてもゴールを奪える。ハイプレスの掻い潜り方のオプションの一つにもロングボールもあるよ。といっているような試合でもあったはずだ。

やっぱりいろんな手札を持つチームは強い。新たな強さを手に入れるチャレンジの成果の一つがこの試合に詰まっていたのかもしれない。それでも次のアーセナル戦では、このスタッツをひっくり返して、また違ったやり方で勝利を奪って欲しい。そして次もこのカードがプレミア天王山、首位攻防戦となるよう、シティは勝点を積み重ねていってほしい。


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