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海が大好きな癌末期の患者さんの海を見に行く1泊2日の旅行同行⑥

今回は2日目
11/22を記します。

朝食はブッフェ
 夜間はAさんは痛みが強くなり少し不穏になられましたが、奥さんが痛み止めを頓服させて対応されました。いつものことだから平気だと教えてくださいました。奥さんも熟睡はしていないようできた。
 朝食はブッフェスタイルです。Aさんは食事会場まで行けません。奥さんがホテルに頼んでブッフェの料理をお部屋に持って帰ってAさんに食べさせることになっていました。Aさんは好みの食べ物を食べて終始ご機嫌で「みんなも食べんさい」と勧めて下さいました。痛み止めが効いているのだと思いました。癌末期の人にとって疼痛コントロールは大切です。

奥さんと仲良く朝食


朝食後は奥さんが口腔ケアをされ、内服薬も飲まれ、濡らしたタオルで顔を拭き、電動髭剃りで髭を剃るなど奥さんの献身性に私は目を見張りました。ことあるごとに「コレがええから、コレがええからワシは幸せ」と奥さんを指差してAさんが私に教えてくれるのも納得ができました。私は病院勤務時代に、たくさんの家族と関わってきましたが、Aさんの年齢の方で奥さんに感謝の気持ちを言葉で本人に伝えるのは人はなかなかいなかったです。「やって当たり前」のような気持ちの男性が多く、また恥ずかしくて素直に感謝の気持ちや愛情表現ができない男性も多いです。奥さん曰くAさんは若い頃から奥さんを大切にしてきた方だそうです。奥さんを大切にし子供達を大切にしてきたから皆がこの旅行に協力的だったのだと思います。
寂しがり屋のAさんを1人にしなきために、ご家族も交代で朝食を食べに行かれました。その間に念のため私はAさんのバイタル測定をしました。酸素濃縮器の酸素も適宜調整して使い呼吸苦もなく過ごされたようです。
 チェックアウト時間は11時で介護タクシーの迎えも同じ時間なので、10:30頃には車椅子に乗ってホテルとその周辺を散策する予定にしていました。
10:30になり私はAさんのお部屋に行きベッドから車椅子へ移乗しました。お気に入りのハットを頭に被り、名残り惜しそうに窓から海を見ている姿が忘れられません。
その後ご家族と一緒にエレベーターで1階まで行きました。奥さんと一緒に1階ロビーやG7サミットの円卓などを観てまわりました。

G7サミットの円卓前でツーショット

前日に下見をしていたので、スムーズに移動ができました。ホテルの裏の出口がスロープになっているので、そこから海側に出ました。本日も快晴で穏やかな瀬戸内海です。外に出るとG7広島サミットで首脳達が集合写真を撮った場所がありました。

サミット記念撮影

奥さんに車椅子を押してもらいながらAさんは「最高!最高!」と言われていました。
みんなで移動していると娘さんが「父さん母さん、ここで結婚式したら良いじゃん」と言いました。奥さんが「ほうじゃねぇ
父さん、私ら結婚した時にお金が無くて結婚式しとらんのよねぇ」と言われました。
そこはホテルの結婚式をする屋外セットがある場所でした。グランドプリンスホテル広島にはブライダル会場があり、海をバックにした屋外にも新郎新婦が鐘を鳴らすセットなどがありました。
娘さんが「パパパパーン、パパパパーン」と結婚式の入場の曲を口ずさみなが、Aさんと奥さんが入場しました。

新郎新婦

お孫さんが結婚式を挙げた場所でもあり
約50数年前に出来なかった自分達の結婚式が出来てお二人とも感慨深そうでした。
Aさん奥さん、娘さん達、皆笑顔で快晴の結婚式セットを歩きました。
「結婚した時は無一文で、それから2人で一生懸命に働いたよね。お父さんは仕事が趣味のような人じゃった。苦労させた?お父さんは苦労した思うとるんね?私は一つも苦労したとは思うとらんよ」Aさんの車椅子を押しながら奥さんが明るく話されました。
奥さんの話から少しずつ私はAさんの人柄が分かった気がしました。
 その後、ホテルから一番海が近い防波堤まで来ました。ホテルの部屋からは風景が見えますが、海に来たなら潮風に当たってもらいたいと思い下見通りにこのルートにしました。防波堤から数メートル先には魚釣りをしている男性がいました。Aさんは魚釣りが大好きだったそうで、その男性に「何が釣れますか?」と大きな声で聞いていました。男性は「何も釣れんのですよ」と苦笑いをしながら頭を掻いていました。その返答にAさんと奥さんは笑顔で頷いていました。
Aさんは長らく在宅療養をしているので、全く知らない釣り人と話しをすること自体が久しぶりで嬉しそうでした。
その後、少し移動して海がしっかり見える場所でお二人は海を眺めていました。

快晴の瀬戸内海の潮の香り

11時が近くなったので皆でホテルの玄関方面にゆっくり移動しました。移動の最中もAさんは「最高じゃ最高!こんなことは滅多に無い、母さん、みんなありがとう」と言っていました。

海辺を皆んなで歩く


ありがとうありがとう

なるべく家族で過ごしてもらいたいので移動は奥さんが車椅子を押すのが難しいところは私が交代して移動しました。私はAさんとご家族を見守りながら歩いている。私の目に映るこの光景はAさんとご家族の人生の歩みのような気がしてきました。

ホテル周辺の散策を終えてホテルの玄関まで移動しました。予定通り介護タクシーは迎えに来ていました。介護タクシーのスタッフに声をかけてAさんをお連れしました。ホテルの玄関の乗降場所で介護タクシーのリクライニング車椅子へ移乗する準備をしていると、ホテルの制服を着た女性スタッフが私達を見送りに来ていました。その女性は私が早朝に自分の家族へのお土産を買いにホテル1階の売店へ行く時に乗ったエレベーターで偶然一緒になった方でした。私はだいたいどこに行っても良い対応をしてもらったら「良かったです」「美味しかったです」など一言感謝の念を伝えることにしています。今回もグランドプリンスホテル広島のスタッフの皆さんが素晴らしい対応をして下さいました。ですので、そのその女性に少し事情を話し「すごく良い対応をしてもらって嬉しかったです。他のスタッフさん達にも伝えておいてください」と声をかけていました。話しながら名札を見ると支配人と書いてありました。偶然話しかけた、その女性はホテルの支配人の方でした。
 ホテル玄関まで支配人は見送りに来ていました。奥さんも「すごく親切にしてくれてありがとうございました」と支配人と話していました。
奥さんと支配人が色々と話していると支配人が「そうですよね、今日はいい夫婦の日ですもんね」と言うのが私に聞こえてきました。
なんと今日は11月22日
良い夫婦の日
だったのです。

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