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⚠️パナマのデモに関する報道が、現地の報道と全く違う文脈になっていてギョッとしたので、居住者として見聞きしていることを書き留めました🇵🇦

2023.11.09

パナマで大規模なデモ活動が始まって3週間。

全土での幹線道路封鎖の影響などにより、物流や交通手段、医療の混乱、燃料不足等、生活に様々な支障が出つつも、活動の規模は全国で拡大中。

デモ活動が抗議手段として根付いているパナマでは、これまで幾度も全国的なデモは行われていたそうですが、1980年代のノリエガ政権に対する最大規模のデモ以上に拡大しつつある今の状況は、「歴史的」という言葉で表現されるに至っています。

今回のデモ活動は、中南米最大規模と言われる鉱山の不当な新規契約に対する抗議が掲げられています。

デモ隊の中心は鉱山労働組合、教員組合、市民グループではあるものの、この鉱山は、国民が政府に抱く不満や怒りの背景を集約しているような根深さ、複雑さを伴っており、問題を放置したまま新規契約をした大統領の選択は、国民全体が怒りを爆発させる「最後の一滴」となりました。

実際、私のパナマ人の友人は、全員がそれぞれの場所でデモに参加しています。

首都パナマシティ中心街。
デモ中の友人からの画像。
10万人以上が参加したとの報道も。


こうした中、今週7日(火)にはデモ参加者が2名射殺されるという痛ましい事件が起きました。

そして、この件は日本語でも報道されていたのですが、文脈が全く違うものになっていることに、一瞬息が止まるほど驚きました。

被害者の方は、デモに参加していた教育関係者、及び、教育関係者のご家族なのですが、日本語の報道では「環境活動家」となっていたのです。

最近は、美術品の破壊などにより過激な行動を取る「環境活動家」のイメージが流布していることもあり、この一言の誤解によって、SNSでは、デモとは無関係な反応が拡散し、あまりに心無いコメントも見かけましたし、中には、射殺者を讃えそうなコメントまでありました。

ちゃんと確かめたくて、この件に関する記事は、テレビ(TVN)、大手新聞社(La prensa、Estrella de Panam、Panama America、Meteo Libre他)、SNSで読めるもの(Mi diario、Trafico Panama、Praxis他)など、できうる限り目を通してみましたが、やはり、被害者について、「環境活動家」「環境抗議者」を示す文言はどこにも見当たりません。

(La prensa紙 2023.11.07)

しかし、日本語の記事でソースとして上がっていたイギリスの記事では「environmental protester」と見出しに書かれており、これが日本語に翻訳されたものと思われます。



この射殺事件が、パナマの人たちにとって、大変ショッキングな事件であることは疑いようがなく、犠牲者2名の方の追悼集会が各所で行われています。

追悼集会の様子を伝える記事
(パナマ放送局TVN)

本来なら、追悼の意を含む慎重な取材が必要であろう報道が、たった一つの文言を差し込むことによって、別の文脈で拡散していく様には怖気が立ちました。目の前で起きていることが、日本にまで、文脈がズレまま瞬時に拡散していくのを目撃して、胸が苦しくなります。

デモの抗議対象である鉱山は、水源汚染などによる環境破壊も大きな問題になっており、抗議項目には環境問題の改善も含まれていますので、その点を極端な解釈に繋げた可能性はありますが、

事実ではない「環境活動家」という言葉が差し込まれることにより、犠牲者への心ない言葉を招くと同時に、パナマ現政府と鉱山の癒着、パナマの暮らしの現状、デモに乗じて発生している犯罪や破壊行為への非難、平和的なデモ活動への呼び掛けや、デモの方法について改善を求める声など、国民の間で実際に交わされている様々な議論には目が届かない記事となっています。

さらに、もう一つ恐しいと感じたのは、この記事が、もし自分にとって全く縁のない国、遠い国のことであった場合、私も気に留めることはなかったのではないか、という可能性です。

記事の内容を信じるか、信じないか、という思考の手前の話。自分にとっては興味関心が低いことに対して、感情や先入観のみでリフレクションが起きる怖さ。

見出しの強い言葉に驚き、本文はさほど精読もせず、犠牲者への哀悼の意を感じることもなく、「そういうこともあるんだろうなぁ」と、軽く理解したつもりになることが、いかに暴力となり得るのか。

この自戒の意味も込めて、だからこそ。

普段は政治的な内容は触れない(というか、一生懸命考えているうちに、答えを出すタイミングがなくなってしまう)のですが、今回は、住んでいる者として、周りで直接見聞きしていることを、ちゃんと日本語で書き留めておきます。



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