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#072 スカンノへの旅 (その15) Nさんのエッセイ

 「#071 スカンノへの旅(その14)合評会での一コマ」を読まれたNさんから、ツアー帰国後に書かれたというエッセイが届いた。実名での掲載でよいとのことで、ここに掲載する。
 旅先でどのような時を選び、そして過ごすか。それに尽きるとのこと。その充実した時間は一瞬かもしれないし、少し長いものかもしれない。
 このことは日常生活においても言えることだろう。日常において、どのような時を過ごすか。それに尽きる。Nさんのエッセイを読んで、そんなことを思った。
 以下、N(西谷智子)さんのエッセイ。

イタリア・スカンノへのスケッチツアー  西谷智子
 9月にイタリア中央部アブルッツオ州の山懐に抱かれた、スカンノという村に滞在した。スカンノは、日本人が訪れることはないが、イタリア人には有名な山岳リゾート地だ。人口は約1800人。趣のある石造りの家々が、山の斜面に張り付くように立ち並ぶ。旧市街には、美しい扉口が開かれた古い住居の間に、狭い道や階段が張り巡らされている。
 一緒にこの村に来たのは、万年筆画家古山浩一先生と、スケッチされる方々。いわゆるスケッチツアーだ。滞在中天気はずっと快晴。朝晩は冷えるが昼間は暖かい。到着した翌日から皆さんは早速スケッチされていた。スケッチしない私には自由時間がたっぷり。(スケッチツアーには添乗員さんも来て下さるが、観光は一切ない。)
 その時間を利用し、階段を上り下りしながら、人ひとりがやっと通れるくらいの細くて
狭い路地裏まで足を運んだ。イタリア人とすれ違えば「Buon jiorno」(ボンジョルノ こんにちは)と、挨拶を交わし、この村のことやここでの暮らしのことなど、イタリア語の会話を楽しんだ。この村にはもちろんコンビニなどというものは無い。だが食料品から日曜雑貨まで品揃えが豊富な個人商店がいくつかある。そこでは、パンやチーズ・生ハム・ワインまで量り売りしてくれる。私も何回かトライした。そして教育・医療も心配ないという。
 そうやって歩き続け、巷でいう絶景を見なくても、名物料理を食べなくても、そこでしかない風景を眼にやきつけ、風・光を受け、胸一杯空気を吸う。そして地元の村人も食べているレストランで食事をいただく(おそらく地産地消)。それが、何よりの旅の良さだと思う。
 添乗員の方に支えられ、自分で自分の旅を編んでいく。そんな旅をこの上なく楽しんだ。そのためにイタリア語・フランス語を毎日勉強している。
 コロナが収束して、約4年ぶりの海外だった。(2019年は北スペインと南イタリアへのスケッチツアー)
 体力・気力があるうちに、これからもこうした旅を続けようと思う。



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