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[火熾し/序章]人類の叡智火を作る


今でこそ火はスイッチ一つで手に入るものだが、もしライターを取り上げられてしまったら、あんなに身近だった火も途端に縁遠いものとなってしまう。どんな状況でも臨機応変に対応し、それを楽しむキャンプ、適切に対処する有事にあっては、便利な道具の使い方よりも何故それが発生するのかという原理が重要だ。

01.仕組みを充分に理解して火熾しの術を身につける

 人類がいつから火を使いはじめたかは明確にわかっていない。数十万年前の北京原人が火を使っていた痕跡はあるが、それも自然の火を利用しただけなのかもしれない。ただ、石器時代のどこかで太古の人間が個々に発火方法を見つけていた可能性は高い。石と石を打ち合わせて石器を作る際、偶然にも黒曜石を叩き割る手段に鉄鉱石を使ったなら、いつもとは違う大きな火花が散ったことだろう。
 より具体的に見ると、火花には2種類ある。鉄を含まない石同士が出す火花は、急激な摩擦熱により赤くなった石の粉で極小、火熾しには使えない。先のケースでは黒曜石に削り取られた鉄鉱石の鉄が摩擦熱により酸化(燃焼)したもので、時に線香花火のような爆発も起こるのだ。もしこの火花が近くの乾ききった草に落ちたとしたら、炎を上げて燃え広がる可能性はある。これを意図的に繰り返し行なえるようになれば、立派な火熾しの完成である。
 さて、この作業を今我々が行なう場合は、鉄鉱石の代わりに炭素鋼を使う。炭素鋼が用いられる道具は様々あり、ナイフ、工具、金鋸などがそれである。一方、炭素鋼を削り取る石には、河原などに落ちているチャートを利用すればいいだろう。これは黒曜石と同様、石器にも使われていた硬い石で、放散虫や海綿動物の殻や骨片が堆積してできた岩石だ。
 そして最後に、忘れてはならないのが火花をキャッチして炎へ結びつけるための火口だ。日本では植物の茎を炭化させたものや、葉を臼で挽いたもぐさが使われていたが、ここではより扱いやすいコットン製のチャークロス(作り方は最後に解説)を使って火花を移し取り、麻紐を解いたジュートで炎を生成している。

02.火打金を用いた火熾し術に挑戦

今回編集部が訪れたのは岩石がゴロゴロ転がっている河原。原始的な火熾しに挑戦する場としては最適と踏んでチョイスした。寒さに凍えながら、自分の力で火花を熾し炎へと育てる。今までは単なる道具の一環であった火が、贅沢な遊びに変わるひと時だ。ちなみに今回はあくまで火熾しがテーマなので、焚火は最小限とした。

今回用意した物

今回は火打金と自作のチャークロス、ジュート用の麻布、現地調達となるチャートにエッジをつけるハンマーだけを持参した。

①河原で火打石を見つける

堆積した環境により色が変わるチャートは暖色系、暗色系、緑色系などがある。角ばった色付きの石に注目して探していく。世の中に多数生息する石好きホモ・サピエンスのブログなどを見れば、愛とともに具体的な見つけ方などの情報が手に入る。

②石を割ってエッジを作る

チャートが見つかったら手の平サイズに割り出す。その際、石を川で急速に冷やしてから割ると、粉が出ず良いエッジが付く。
個体により硬度にばらつきがあるため、火打ちの際にエッジが飛んでしまうものもある。1つの石から複数割り出しておきたい。

③麻ひもでジュードを作る

持参した麻紐を解きほぐし、繊維単位として鳥の巣状の形を作っておく。地味な作業だが、後々の火の点き方に差が出る。

④チャークロスに火花を当てる

火口用のチャークロスをチャートとともに持ち、火打金で打った際の火花が当たるようにする。たった1粒の火花でも着火する。

⑤火種をジュートで包む

炎を出さずにじわじわと火を蓄えるチャークロスを鳥の巣状のジュートで包む。しばらくして煙が立ち始めたら成功だ。

⑥空気を送り込み炎となる

煙が立ち上がったジュートに息を吹きかければ、途端に炎となる。これに木っ端をかぶせてしばらく待てば(何もせず待つことが重要のなのは別記事で解説)、後はいつもの焚火だ。

03.チャークロスの作り方

メタルマッチを使って火を熾す場合も同様なのだが、問題は生み出した火花を火口(いわゆる着火剤)へ移す工程だ。今回の火打金を用いた火熾しでは火口にチャークロスを使用している。このチャークロスは簡単に手作りできるので、覚えておきたい。小さな火花も逃さずキャッチでき、フィールドに携行しておけば、困った時に役に立つだろう。

今回用意した物

■ コットン100%のTシャツ
■ 茶筒
■ ユニフレーム・ネイチャーストーブ
■ ビクトリノックス・ファーマーAL
■ エンジニア・鉄腕ハサミGT

今回用意したアイテムは、どこのコンビニでも買える男性用Tシャツにコットンを炭化させる際に使う茶筒。火床は基本的に何でも良いが、極小の枝で最大限の火力を提供してくれるユニフレームのネイチャーストーブ(小)を用いた(こういった作業には最適)。

①茶筒に穴をあける

まずはコットン生地を蒸し焼きにするための器として茶筒の蓋に2 ~ 3 ㎜の穴を1箇所あける。今回はビクトリのリーマーを使ったが、釘などであけても良い。

②コットン生地を切り出す


チャークロスの素となるコットン生地を調達するため、Tシャツをナイフで解体する。切り出すコットン生地のサイズはTシャツ片面の胸から下くらい。

③茶筒に畳んで入れる

四角く切り出したコットン生地を綺麗に畳んで茶筒に入れる。あまりパンパンに入れてしまうと炭化にムラができるので、ある程度の余裕は必要だ。

④茶筒を火にかける

茶筒の蓋をしっかりと閉めたら後は火にくべるだけ。ちなみにここで蓋をしっかり閉めないと、筒内に空気が入ってコットンをただ燃やすことになる。

⑤穴から出る煙を確認

火にくべるとすぐに茶筒にあけた小さな穴から勢いよく煙が吹き出す。この状態がしばらく続くのでその間は放置しておいても良い。

⑥煙が出なくなったら回収

しばらくすると穴から煙が出なくなるので、ここで茶筒を回収。筒は大変熱いのでワークグローブの装着を忘れてはならない。

⑦穴を小枝で塞ぐ

茶筒を回収したらすぐさま最初にあけた穴を小さな枝などで塞ぐ。空気をシャットアウトして、内部のくすぶりを完全に消すための術だ。

⑧冷えたら取り出す

茶筒が完全に冷えて再燃焼の危険がなくなったら晴れて蓋を開ける。黒く炭化したコットン、つまりチャークロスを崩さないよう取り出す。

⑨小さく切り分ける

最後に火口として使いやすいサイズに切って完成。サイズの目安は火打石に載せてちょうど良い大きさだ。あとは存分に火熾しを楽しむべし!

今回作ったチャークロスの出来栄えは?

チャークロスとは、コットン=セルロースの主成分となる炭素を酸素とは結合させず、水分だけ抜いた状態の火口だ。熱を奪う要素がないので、ほんの小さな火花(熱エネルギー)でも炭素×酸素の結合を促すことができる。ちなみに今回の出来栄えは市販されているチャークロスとなんら遜色のない性能を発揮。所用時間は茶筒の製作から完成まで30分ほどだ。この技術を覚えれば、永遠に火口で困ることはないはず。

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