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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説21―What Comes Next 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

”What Comes Next”

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠

We see King George, glum.

KING GEORGE:

 They say, The price of my war's not a price that they're willing to pay. Insane. You cheat with the French, now I'm fighting with France and with Spain. I'm so blue, I thought that we'd made an arrangement when you went away, You were mine to subdue. Well, even despite our estrangement, I've got a small query for you: What comes next? You've been freed. Do you know how hard it is to lead? You're on your own. Awesome. Wow. Do you have a clue what happens now? Oceans rise. Empires fall. It's much harder when it's all your call. All alone, across the sea. When your people say they hate you, don't come crawling back to me. Da da da dat da dat da da da Da yada Da da dat Da da ya da...You're on your own...

「彼らは言う。朕の戦争による代償は、彼らが喜んで払える代償ではないと。 まともじゃないね。君達がフランスをたぶらかしたせいで朕は今、フランスとスペインと戦うはめになっている。朕はとても憂鬱だ。そなたらが行ってしまおうとするから何かと便宜を図ってやったのに。そなたらは私のものだから従うべきだったんだ。まあ我々は別離することになったが、そなたらにちょっと聞きたいことがある。さあ次はどうする。そなたらは解放された。それがどれだけ大変なことになるのかわかっているか。そなたらはそなたらの道を進もうとしている。驚くばかり。すごいね。今、何が起きているかちょっとでもわかっているかな。海が盛り上がり諸帝国が滅びる。そなたらに試練が降り掛かればもっと大変になるぞ。ずっと独りで海を渡ることになる。人民がそなたらを嫌いだと言うようになったら、平伏しても朕のもとに戻れるとは思うなよ。そなたらはそなたらの道を進むのだ」

史実ではアメリカの独立を認める時にジョージ3世はどのようなことを言ったのか。『アメリカ人の物語3 革命の剣 ジョージ・ワシントン(下)』(予定稿)から抜粋する。

1782年12月5日、イギリスに渡っていたエルケイナ・ワトソンは、フェラーズ伯爵ロバート・シャーリーの紹介でイギリス議会を傍聴する機会を得た。その日、ジョージ3世がアメリカの独立を認める演説をおこなうと聞きつけたからだ。

議場の入り口でフェラーズは、「できる限り国王の近くに行きなさい。恐れることは何もありません」とワトソンに囁いた。そこでワトソンは遠慮なく国王の正面に席を占めた。隣を見ると、ハウ提督が座っていた。

その日は暗く厚い霧に覆われた日であった。菱形に切った硝子が鉛製の窓枠に嵌まっていて重厚な雰囲気を醸し出している。壁には、イギリス海軍がスペインの無敵艦隊を撃破する様子が描かれたタペストリーが掛けられている。

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