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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説24―Non-Stop 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

”Non-Stop”

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠

BURR:

After the war I went back to New York.

「戦争後、私はニュー・ヨークに戻った」

HAMILTON:

A-after the war I went back to New York.

「戦争後、私はニュー・ヨークに戻った」

BURR:

I finished up my studies and I practiced law.

「私は法学の勉強を終えて弁護士を開業した」

HAMILTON:

I practiced law, Burr worked next door.

「私は弁護士を開業した。バーがお隣さんだ」

解説:ミランダの注釈

「彼らは実際に同じ頃に同じ近隣で弁護士を開業した」

BURR:

Even though we started at the very same time, Alexander Hamilton began to climb. How to account for his rise to the top? Maaaaan, the man is non-stop.

「たとえ同時に始めたとしてもアレグザンダー・ハミルトンはのし上がり始める。彼がどんどん上り詰めるのをどう説明すればいいのか。ああ、決して止まらない男だ」

ENSEMBLE: 

Non-stop!

「決して止まらない」

HAMILTON:

Gentlemen of the jury, I’m curious, bear with me. Are you aware that we’re making hist’ry? This is the first murder trial of our brand-new nation.

「陪審員のみなさん、私はわくわくしています。我々が歴史を作ろうとしているとおわかりか。我々の新しい国の最初の殺人事件です」

BURR, ENSEMBLE:

Non-stop!

「決して止まらない」

HAMILTON: 

The liberty behind deliberation— I intend to prove beyond a shadow of a doubt With my assistant counsel—

「自由が無視されようとしています。私はそれを明らかにしようと思います。私の補佐役の弁護士と・・・」

BURR:

Co-counsel. Hamilton, sit down. Our client Levi Weeks is innocent. Call your first witness. That’s all you had to say!

「相談役だ。ハミルトン、座れ。我々の依頼主リーヴァイ・ウィークスは無実だ。1人目の目撃者を呼べ。君が言うべきことはそれで全部だ」

解説:ミランダの注釈によれば、この事件が起きた時期は史実とは異なるが、「彼らの戦後の生活を紹介するのに完全な方法」である。リーヴァイ・ウィークス事件が裁判にかけられたのは1800年のことであり、ハミルトンはバーとともにウィークスの弁護団に加わって無罪を勝ち取った。

HAMILTON: 

Okay! One more thing—

「よし。さてさて」

BURR: 

Why do you assume you’re the smartest in the room? Why do you assume you’re the smartest in the room? Why do you assume you’re the smartest in the room? Soon that attitude May be your doom!

「どうして君がここで一番賢いと思えるんだ。どうして君がここで一番賢いと思えるんだ。どうして君がここで一番賢いと思えるんだ。そんな態度をしているとすぐに破滅するぞ」

ENSEMBLE:

Awwww!

「あああ」

BURR: 

Why do you write like you’re running out of time? Write day and night like you’re running out of time? Ev’ry day you fight, like you’re running out of time. Keep on fighting. In the meantime—

「なぜ君はまるで時間がないかのように一心不乱に書くのか。昼も夜もまるで時間がないかのように書くのか。毎日、まるで時間がないかのように戦うのか。戦い続けている。ところで・・・」

ENSEMBLE:

Why do you write like you’re running out of time? Ev’ry day you fight, like you’re running out of time. Non-stop!

「なぜ君はまるで時間がないかのように一心不乱に書くのか。昼も夜もまるで時間がないかのように書くのか。毎日、まるで時間がないかのように戦うのか。決して止まらない」

HAMILTON:

Corruption’s such an old song that we can sing along in harmony And nowhere is it stronger than in Albany
This colony’s economy’s increasingly stalling and Honestly, that’s why public service seems be calling me.

「腐敗は誰もがうまく歌える古い歌のようなものさ。オールバニー以上に腐敗がひどいところはどこにもない。この植民地の経済は急速に失速している」

解説:ミランダによる注釈

「これはいつも真実だ。今日、新聞を読んでみればあなたはもっとひどい腐敗を読めるはずだ。オールバニーには政治腐敗博物館もある。博物館だ」

BURR AND ENSEMBLE:

He's just Non-stop!

「彼は決して止まらない」

HAMILTON:

I practiced the law, I practic’ly perfected it I’ve seen injustice in the world and I’ve corrected it Now for a strong central democracy, If not then I’ll be Socrates

「私は弁護士業に勤しみ、うまくやっている。世界の不公正を見つけたら私が正している。今こそ強力な中央政府を伴った民主政体が必要だ。もしそれが無理なら私はソクラテスになろう」

解説:古代ギリシアの賢人ソクラテスは国家に迎合して信念を曲げることを潔しとせず毒殺刑に処せられた。ハミルトンも信念を貫く覚悟を示している。

HAMILTON:

Throwing verbal rocks at these mediocrities. 

「ぼんくらどもに言葉の塊をぶつけてやるぞ」

ENSEMBLE:

Awww!

「あああ」

BURR:

Hamilton, at the Constitutional Convention

「ハミルトン、憲法制定会議」

解説:1787年、憲法制定会議はフィラデルフィアで開催された。当時の言い方では単に「フィラデルフィア会議」である。もともとフィラデルフィア会議は、連合規約(合衆国憲法の前に存在した連邦の基本法)を改正するために召集された。しかし、連合規約の改正だけでは国事多難に対応できないと考えた代表達は新たに憲法を制定することにした。それが合衆国憲法である。

HAMILTON:

I was chosen for the Constitutional Convention.

「私は憲法制定会議の代表に選ばれた」

解説:ハミルトンは憲法制定会議の前座になったアナポリス会議で中心的な役割を果たしている。憲法制定会議を開催するという構想は、独立戦争が終結する以前からハミルトンの脳裏にあった。その証拠に、1782年7月21日、ハミルトンの働き掛けでニュー・ヨーク邦議会は、「連邦を再生させ修正する特別な権限を持った諸邦の全体会議」の開催を求める決議を採択している。そして、フィラデルフィア会議の開催が決定した後、ハミルトンはニュー・ヨーク邦の3人の代表の中の1人に選ばれた。他の代表の2人はハミルトンと異なって強力な中央政府に警戒感を持っていた。

BURR:

There as a New York junior delegate:

「ニュー・ヨークの年少の代表として出席した」

解説:憲法制定会議に参加したハミルトンについて代表の1人は次のように記録している。

「ハミルトン大佐は当然のことながら彼の才能で高名である。彼は法律家であり、完成された学者として名が通っている。彼は明晰で強靱な判断力と創造力の光彩を結び付けている。さらに彼の説得力があり魅力がある雄弁は、心身ともに彼に同調させることができる。しかし、言葉の調子に似合わず、彼の声には少し弱々しいところがある。彼は人の心を燃え立たせる雄弁家ではなく、むしろ説得力を持つ演説であるというのが私の意見である。ハミルトン大佐は、考える時間を必要とする。徹底的な調査を行うという哲学に従って、彼は問題のあらゆる部分を検討する。そして、彼が前に進み出る時、彼の頭の中は興味深い物事で満たされている。問題の表面の上っ面だけを撫でるということはなく、彼は礎を見るために底まで潜る。彼の言葉は必ずしも平静ではないが、時にボリングブルック の言葉のように教訓的であり、[ローレンス・]スターンの言葉のように軽快である。彼の弁舌は蔑ろにできる程、穏やかなものではないが、彼は注目を集めるためにのべつ幕なく喋っている。彼はおよそ33歳であり、体格は小さく痩せている。彼の作法は堅苦しいが、時に不快なくらいに虚栄心が強くなる」

HAMILTON:

Now what I’m going to say may sound indelicate…

「今、私が言おうとしていることはどうもうまくいきそうに・・・」

COMPANY:

Awwww!

「あああ」

BURR:

Goes and proposes his own form of government! His own plan for a new form of government!

「さあ行って自分が考える政体を提案しろ。新しい政体案だ」

COMPANY:

What? What?

「どんな、どんな」

BURR:

Talks for six hours! The convention is listless!

「6時間も話し続けたそうだ。憲法制定会議も大儀なことだな」

解説:1787年6月18日、ハミルトンは5時間に及ぶ演説を行った。その日のマディソンの記録には、ハミルトンに関する説明が書かれている。概ね淡々と事実を述べることを徹底しているマディソンが感想めいたことを書いているのは非常に珍しい。どうやらハミルトンの活躍に期待していたようだ。

「ハミルトン氏は、能力、年齢、そして、経験で優っている他者への敬意から彼らの考えと異なる自分の考えを示すことに躊躇していただけではなく、自邦[ニュー・ヨーク]に関する複雑な状況から同僚が示す意見に決して同意することができなかったので、これまで議事に関して会議の前で沈黙を保ってきた。しかしながら、我々に危機が差し迫るにあたって、公共の安全と幸福のために全力を尽くすというすべての人間に課される義務の真摯な遂行に躊躇することは許されなくなった。したがって、ハミルトン氏は、自分が両案を支持していないことを告げなければならなかった。ハミルトン氏は特にニュー・ジャージー案に反対して、諸邦に主権の保持を認めるような連合規約の修正は、その目的を決して実現することはできないと確信していた」

その日はまさにハミルトンの独壇場だった。ハミルトンの演説は議事妨害のための長広舌ではない。憲法の理念について真摯に語った密度の濃い演説である。質量ともにこれだけ優れた精緻な演説ができる政治家はなかなかいない。しかも、どうやらハミルトンは概要をまとめた草稿しか準備していなかったようだ。幸いにもマディソンを中心に何人かの代表達が記録を残しているのでここに再現できる。

「ヴァージニア案は、連邦的な考えから逸脱するも案だと理解されている。なぜならそれは、すなわち個人に働き掛けるからである。この緊急事態において我々は我が国の幸福に不可欠だと見なすことを何でもしなければならない義務を負っているというランドルフ氏の意見に同意する。諸邦は連邦の緊急事態を何とかするために我々を送り出した。単に我々の権限の範疇を超えるという理由で、こうした緊急事態に対応することができない案に頼ったり提案したりすることは、目的を達成するための手段を犠牲にすることである。[中略]。我が国の幸福のために我々がどのような規定を作るべきかが重要な問題である。2つの案の両方に本質的な欠陥がある。統合国家的な案にするような変更が効果的である。政府を支えるために必要となる本質的な大原理は、第1に、政府を維持できる積極的で継続的な利益である。こうした原理は、連邦政府を支えるべき諸邦には存在しない。諸邦は明らかに結託している。諸邦は絶えず全体の利益に反する内部の利益を追及する。諸邦は、連合会議の要請や計画よりも個別の負債や個別の財政計画など常に優先させている。第2に、権力欲。人間は権力を愛する。同じ見解がこの原理にも適用できる。諸邦は権限を手放そうとせず、手放した権限を連合会議に実行に移させようともせず、むしろ委ねた権限を取り戻そうとする傾向を絶えず示している。諸邦の野心的な扇動政治家は、連邦政府の統制を憎んでいることで知られている。[中略]。第3に、人民の習慣的な愛着。こうした紐帯の力はすべて邦政府に向けられている。邦主権は人民のすぐ目の前にある。人民はすぐにその庇護を享受できる。邦の手から公正が分配され、人民に政府に親しみを感じさせるあらゆる法律が施行されている。第4に、強制力は、法による強制や武力による強制だと理解される。連合会議は僅かな例を除いて法による強制を有していない。特定の諸邦では、こうした強制は辛うじて有効である。ほとんどの場合にそうした力を持つが、すべての場合に及ばない。大きな共同体において、ある程度の軍事力は絶対に必要である。今、マサチューセッツはその必要性を感じて、そのための規定を作ろうとしている。しかし、そうした武力をどのようにして諸邦に対して集団的に行使できるのか。それは不可能である。当事者間の戦争になってしまうだろう。また外国勢力は手を拱いて見ていないだろう。外国勢力が介入して混乱が広がれば、その結果は連邦の解体である。第5に、影響力。不当な政治的影響力ではなく、政府への愛着を生み出す正規の栄誉や俸給の分配を意味している。諸邦はそのほぼすべてを握っている。そして、それは諸邦が存続する限り続くだろう。強欲、野心、利害といったすべての情熱が多くの個人を支配するのを我々は見てきた。そして、すべての公人は諸邦に取り込まれてしまって、連邦政府に入って来ない。したがって、諸邦は常に連邦政府を凌駕して、どのような連合であれ本質的に不安定にしてしまう。[中略]。このようなすべての悪弊をどのようにしたら避けることができるのか。すべての強力な原理や激情を覆すことができるような権限を全体政府に与えることでのみ可能である。ニュー・ジャージー案はそのような効果をもたらすのか。いかなる実質的な救済がもたらされるのか。それどころかその機能に大きな欠陥を持っている。その規定の欠陥の中には、その他の規定の有効性を損なう欠陥さえある。直接歳入を確保する手段を連合会議に与えているが、それだけでは十分ではない。収支の均衡は諸邦の拠出金によって保たれることになるが、経験はそれに頼ることはできないことを示している。[中略]。ニュー・ジャージー案のその他の致命的な点は、小邦が強く望んでいる平等な議席配分である。人間の本質からしてそれはヴァージニアをはじめとする大邦にとって同意できないものであり、もし同意することができたとしても末永く遵守されることはないだろう。またそれは公正の理念とあらゆる人間の感情に大きな衝撃を与える。政府内部の悪い原理は、たとえその作用が緩慢であっても、徐々に政府を蝕むことになるだろう。[中略]。連合会議の権限はその設立目的を実現するために十分であるとかつて考えられていた。その間違いは今、誰の目にも明らかである。[中略]。あらゆる社会では産業が奨励され、社会は少数者と多数者に分けられる。したがって、別個の利害が生じる。債務者と債権者などが存在する。すべての権限を多数者に与えれば、多数者は少数者を抑圧するだろう。すべての権限を少数者に与えれば、少数者は多数者を抑圧するだろう。したがって、両者は、他方から互いに自身を守ることができる権限を持たなければならない。[中略]。連邦は解体しかかっているか、既に解体している。民主主義への偏愛で性急に人民を救済しようという悪弊が諸邦で蔓延している。しかし、今、人心に大きな変化が起きている。そして、人民は偏見からいずれ解放されるだろう。そして、そうなった時はいつでもヴァージニア案に満足せず、それよりさらに先に進もうとするだろう」

ハミルトンは、これまで提案されたヴァージニア案とニュー・ジャージー案に代わる第三案を提示した。いわゆるハミルトン案である。それは以下のような終身制の大統領の下での強力な連邦政府を樹立するという革新的な案である。こうしたハミルトン案は十分な賛成票を集めることはできなかったが、ヴァージニア案を穏健に見せるという副産物をもたらした。

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