ジョン_ダンズモア_モンマス郡庁舎のワシントン

ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説14―Stay Alive 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

”Stay Alive”

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠

Hamilton is seated. He is writing letter.

ELIZA:

Stay alive…

「無事でいてね・・・」

ELIZA/ANGELICA/ENSEMBLE WOMEN:

Stay alive…

「無事でいてね・・・」

HAMILTON:

I have never seen the General so despondent. I have taken over writing all his correspondence. Congress writes, “George, attack the British forces.” I shoot back, we have resorted to eating our horses. Local merchants deny us equipment, assistance, They only take British money, so sing a song of sixpence.

「こんなに元気がない将軍を見たことないぞ。将軍の通信を全部、私は肩代わりしている。大陸会議は『ジョージ、イギリス軍を攻撃せよ』と書いている。我々は馬を食べようとしていると言い返そう。地元の商人は支援や物資を我々に提供しようとしない。彼らはイギリスのお金をもらってつまらない歌を歌っている」

解説:ジョージ・ワシントンは大陸軍の総司令官であったが、大陸会議の命令に服さなければならなかった。ワシントンと大陸会議の間で何度か戦略が協議されている。補給体制の不備と軍資金の不足による食料の欠乏は深刻であった。地元の商人や農民は、暴落した大陸紙幣を受け取ることを忌避して大陸軍に物資を売ろうとしなかった。その代わりに彼らは金貨や銀貨で支払ってくれるイギリス軍に物資を売った。フィラデルフィアの市民であるロバート・モートンは次のように日記に記している。 

「多くの最も尊敬すべき住民達が彼らが使うことができるすべての影響力を駆使して[大陸]紙幣を支持した一方で、公共の善を尊重しようとしないその他の多くの者達がすぐに必要な物のために正貨を使ってしまった。[正貨を使って欲しい物を]購入することによって束の間の満足を得ることで公共の善を犠牲にしたのだ。というのは、もしこの紙幣の流通が止まってしまえば、紙幣しか合法的なお金を持っておらず、金貨や銀貨を手に入れる手段を持っていない多くの者達が乞食に身を窶すしかない。そして、あらゆる名誉の感覚を失い、同胞の幸福を気に留めず、さらに自分自身の良心さえ放棄している者達が、新参者[イギリス商人]から物資を買ったり、今、本当に物資を必要としている公共の市場で正貨を使うことは、正貨を所有する者が悪しき例を促進して、他のお金の信用を破壊することになる。その結果、我々は正貨を枯渇させることになり、その他のお金は完全に無価値になってしまい、新鮮な食糧を得るための通商ができなくなり、我々の破滅は避けられない。紙幣の下落は、この街だけではなく全大陸に致命的な影響を及ぼしている」

ワシントンの本営でハミルトンは多くの業務をこなしていた。その様子について主計総監を務めたティモシー・ピカリングは次のように書いている。  

「彼[ワシントン]の署名を帯びた公的な手紙に関して、たとえ彼がハミルトンの能力と迅速さを持っていたとしても、彼自身のペンでその膨大な通信を書くことができないことは確かです。検分と署名を受けるために差し出されたあらゆる書類に、彼が時には正しい意見や訂正を加えたことは間違いないと思います。それでも私は、いったいどれだけの手紙が彼自身の起草によるものか疑っています。構成や内容の洗練だけではなく、内容自体も起草者達が考案したものではないかと信じるに足る理由があります。特に[副官の]ハミルトンや[ロバート・]ハリソンはただの書記ではありませんでした。ある日、フォージ渓谷の本営で、ハリソン大佐が将軍の部屋から降りて来て私に『将軍閣下がせめて私に書き出しか、それとも何を書かせようとしているのか教えてくれたらなあ』と眉を顰めながら言ったことを覚えています」

Washington enters. Hamilton stands at attention.

WASHINGTON:

The cavalry’s not coming.

「騎兵隊が来ない」

HAMILTON:

Sir!

「ご用は何でしょうか」

WASHINGTON:

Alex, listen. There’s only one way for us to win this. Provoke outrage, outright.

「アレックスよ、聞け。何とか我々が乗り越える方法が1つだけある。敵を挑発するんだ」

HAMILTON:

That’s right.

「その通りです」

WASHINGTON:

Don’t engage, strike by night. Remain relentless ‘til their troops take flight.

「正面から挑まず、夜襲を仕掛ける。敵が諦めて去るまでしつこく粘る」

解説:独立戦争初期に起きた戦闘の反省からワシントンはイギリス軍に正面から挑む危険を避ける戦略を採用していた。できる限り長く大陸軍を存続させてイギリス政府に戦争継続を諦めさせるという方針が採用された。

HAMILTON:

Make it impossible to justify the cost of the fight.

「それでは戦費を調達するのが難しくなります」

WASHINGTON:

Outrun.

「何とか逃げ切ろう」

HAMILTON:

Outrun.

「何とか逃げ切りましょう」

WASHINGTON:

Outlast.

「我慢比べだ」

HAMILTON:

Outlast.

「我慢比べです」

WASHINGTON:

Hit ‘em quick, get out fast.

「敵をすばやく攻撃してすばやく撤退する」

HAMILTON:

 Chick-a-plao!

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