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執筆の独り言

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取材や原稿執筆などなど、仕事にまつわるできごとで感じたことあれこれの覚え書き
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1995年と重なる落ち着かない日々[2024年1月6日]

発生から6日経ち、被害の大きさが徐々にわかってきた能登半島地震。ジャーナリストの津田大介さんのポリタスTV動画レポを見て、予想した通り、建物の崩壊と津波が重なり、阪神淡路大震災と東日本大震災が同時に起きたような被害状況になっているのだと感じた。 阪神淡路大震災、東日本大震災共に私は仕事での関わりがあり、現地取材をしたときのことをどうしても思い出してしまう。あの時も発生直後から時間の経過とともに、被害が甚大であることがわかるような状態だった。どちらの震災のときも、私が現地に入

鈴木おさむさんが次に押すスイッチへの期待と応援

ぼーっとMacに向かっていた木曜日の昼下がり。ペケッターを眺めていたら、驚くツイートが流れてきた。鈴木おさむさんが放送作家と脚本家の仕事を来年の3月末で辞めるという。若い人たちを応援する新たな挑戦のために、断筆を決断したというおさむさんの連ツイを読み、真っ先に思ったのは、「らしいなぁ」ということだった。 「週刊文春」で新しく始まったコラム「最後のテレビ論」にも断筆宣言の話が書かれているというので、すぐに手に入れて読んだ。ツイートの内容をもう少し詳しく書いたものだったが、「お

ジャニーズ会見で感じる「個人」よりも「ファミリー」を強化する話術に潜む深刻さ

前回の会見でも感じたのですが、東山紀之氏、井ノ原快彦氏、ジュリー藤島景子氏というジャニーズ事務所の方たちの話術と言葉づかいには、一貫して対峙する相手を自分側に引き込もうとするテクニックが盛り込まれています。私はそこが気になって見ていました。悪く言えば、公式の場に立っているにも関わらずに見せる幼さ、個人としての自立性に乏しい言葉づかいに、ぞわっとした気持ち悪さを感じたのです。 日本の芸能界でタレントがファンを増やす話術としては必要だろうし、そのクセが身についているのだなぁ、と

個人スキャンダルのメディアコントロールで企業リスクのマネジメントはできない

ジャニー喜多川氏の性加害問題は、複合的に絡み合っているので、被害者救済を金銭面だけでなく、心理面のサポートも含めてどのように行っていくのか、過去にメディアコントロールがいかに行われたのか、など、それぞれの問題を切り分け、小さい塊にしながら考える必要がある。大局的に見ると、解明も解決もされず、ずるずると問題を抱えたまま、現状が継続することになりかねないからだ。 それらの問題を私なりに書いていきたいのだが、今は毎日のように、新たなニュースが飛び込んでくる。10月2日の記者会見の

仕事のプロフィールを書くのが後ろめたい

草の根ネットの頃から、私はアカウントを作り続けてきた。ホームページもhtmlのタグをポチポチ打ちながら作ったし、ブログも持っていた。SNS時代に突入してからも、新しいサービスが登場すれば、いち早くアカウントを作ってきた。 そんなインターネット老人会の資格が十分にある私だが、SNSアカウントのプロフィールを書くときには、いつもどこか後ろめたい。長年、ライターはしているものの、基本が媒体からテーマや企画を与えられ、それに沿って取材し、記事をまとめていく職人ライターなので、さほど

ライターと編集者の分かれ道

ライターと編集者の仕事を突き詰めていくと、2つの職種は似ているようで違うなぁとつくづく思う。私はメインがライターで、時々、編集者なのだが、それぞれの仕事をしているときの使っている頭が違う。 ざっくり言えば、ライターは、ゴリゴリと鉱脈を見つけに地面の下に潜っていくのに対し、編集者は荒野に立って視界を広く取りながら、落ちてるものをこつこつと拾い集めていくような気分になる。 ただ、出版不況が加速してから、フリーランスの場合、どっちの仕事もやることが増えた。編集とライティングの両

原稿は書き続けないと書き方を忘れる

 ライターの仕事を始めたばかりの頃、当時のボスに「書く仕事は、年を取れば取るほど、つらい仕事だぞ」と言われたことがある。自分の原稿が雑誌に載るだけで楽しかった私は、「そういうものか」と聞いていたけれど、40歳を過ぎた頃から、ボスの言葉が身に染みるようになった。  まず、人の話を聞いたり、原稿を書くときには、集中する体力がいる。村上春樹氏が小説を書き始めてから、マラソンを始めた気持ちがよくわかる。  そして、体力の低下以上につらいのが、何年、書いても上手くなった気はしないし

君たちはどう生きるか問題に悩む日々

BBCがジャニーズ事務所をテーマにドキュメンタリーを制作しているという話を耳にしたときから注目し、3月にNetflixで公開されるとすぐにチェックした。1999年に週刊文春が特集企画で連載していたのも知っていたし、それ以前から竹中労氏やジャニーズに所属していた方たちが執筆した本の存在は知っていた。 書籍は読んでいないけれど、週刊文春のキャンペーンは大型企画であったし、当時、出版業界で働いている人間ならほとんど読んでいたと思う。では、なぜ週刊文春が取り上げ、裁判になり、しかも

Wikipediaが個人の歴史認識を左右する?

 いまや「草の根ネット」や「みかか」は死語なんだろう、と思うインターネット老人会の資格十分の人間なので、それなりにネットの歴史は見てきた。最近、近現代史を学び直していることもあって、Wikipediaによって歴史認識に個人差が生まれる時代になっていくのかもしれないと思った。 「コトバンク」によると、英語版Wikipediaが誕生したのは2001年。日本版は事典によって分かれている。「百科事典マイペディア」は2002年9月からだし、「日本大百科全書ニッポニカ」は2001年5月

外れビジネスホテルも出張の楽しみ

記憶に残るのは外れホテル 最近は経費削減のあおりでだいぶ減ったけれど、一時期はツキイチで日本のどこかに出張していた。スケジュールが詰まっているときは毎週だったり、自宅に戻ることなく、次の仕事先へ移動することもあった。プライベートでは出不精のくせに、出張は大好き。行く前まではグズグズしているくせに、旅先では誰よりもはしゃぐという面倒くさいタイプである。  出張の楽しみの一つは、ビジネスホテルだ。私が泊まるホテルの相場は、経費の関係で1万円以下。ネット予約が当たり前の今は、ホテ

リモートワークが長引いたら知っておくといいかも?しれないこと

 新型コロナウイルスでにわかに注目されるようになった「リモートワーク」こと、自宅勤務。出版界は私が入る前から、多数のフリーが働いていた。出版社や編集プロダクション、デザイン事務所に所属していなければ、ほぼ自宅が仕事場になる。私もフリーとして一人で仕事をして、気がつけば20年以上だ。そんな経験から、テレワークで必要なもの、知っておくと、もしかすると役に立つかもしれないことを書こうと思う。 声を出す環境を意識してつくる 自宅勤務が長くなってくると、案外、困るのが、会社にいたとき

フリーランスで生き残るために、たぶん大切なこと

フリーランスのこれからに思いを馳せる 川上未映子さんの後輩作家を思いやるTweetをきっかけに、ラジオ番組「ACTION」(TBSラジオ)で武田砂鉄さん、宮藤官九郎さんの放送日に、ギャラ交渉や技術の向上など、フリーランスが抱える悩みを取り上げることが続いた。川上さんのTweetが私のタイムラインにも流れてきたあと、「ACTION」の放送も聴いていた私は、フリーランスのこれからに思いをめぐらせた。  私もフリーライター・エディターとして今は決して自慢できる状態ではなく、仕事は

ギャラの交渉は仕事を受ける前から始まる

金額と振込時期をまずは確認 フリーランスの一番の悩みはギャランティ(報酬)だろう。私もいまだにギャランティの話をするのは苦手だ。1回のやりとりで納得できる額だったら問題ないのだが、額の上乗せを交渉する、あるいは仕事のボリュームを減らす交渉となると、どう言えばスムーズに受け入れてもらえるか、切り出す前にあれこれシミュレーションしてしまう。  ギャランティに関する話は金額だけでなく、仕事の範囲、請求の仕方、支払時期、支払方法など多岐に渡る。一度に全部は触れられないので、まずは交

出版物の総額表示義務化と紙媒体の衰退で引き起こされること

1989年の消費税導入時は出版社1社平均3623万円の負担 そろそろ寝るか、と思ったら、TwitterでこんなTweetを見てしまい、「ああ、そうだった」とくらくらしているところである。出版社のなかの人間ではないので、消費税が上がる=表示問題の勃発をすっかり忘れていたのだけど、消費税改正のときのドタバタを思い出すことになった。89年はまだ出版界に入っていなかったので現場は知らないのだが、それ以降の改正では、雑誌が元気でまだなんとか出版社に余裕があったときでさえ、もれ聞くなかの