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映画『さがす』、さがしものはなんですか?

 袋小路に迷い込んだ末、行く手を壁に阻まれるも、突如地面が割れて地獄への地下階段が開ける、そんな映画だ。
 『チェイサー』、『パラサイト』『母なる証明』『オールドボーイ』『ヒメアノ〜ル』『冷たい熱帯魚』といった作品を次々と想起させるシーン、予測不能なストーリー展開、そもそもジャンル不明なこの傑作の片山慎三監督は以前、ポン・ジュノ監督のもとで助監督をしていた事もうなずける。
 求める者と与える者、違法ビジネスに群がる人間模様を前作『岬の兄妹』では売春、本作では自殺幇助を通して冷徹に描写した。連続殺人犯・山内と出会い「生きるために人を殺す」ことを選択する父・智の底知れぬ闇、「人を殺すために生きる」山内の狂気、父親を失った娘・楓の喪失感や怒りを「さがす」という視点で重層的に描き、我々を地獄へと誘う。
 俳優陣が素晴らしい。佐藤二郎、伊藤蒼、清水尋也、森田望智はハードな世界観においても、こころが共鳴する美しい瞬間や束の間の休息を我々に与えてくれた。
 しかしながら時間がたっても取れないしこりが残る作品だ。人を殺す日常を選択した智の本心、楓と母親との関係、楓の見た母の最期は何を意味するのか、こうした取れないしこりが蓄積してくる。それがこの映画タイトルに込められたら意味なのかも知れない。劇中で多くは語られないパズルのピースは我々がさがし出すしかないのだろう。
 売春や自殺幇助が限定的ではあるが法律で認められている国もあるという。合法、非合法といった線引きはこの映画の前では無力だ。最後の親子の卓球ラリーは、そうした記号が存在する我々の世界がどこまても不明瞭である事を見事に表現している。










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