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【フィナンシェ話#5】様々な立場から子どもに伝えたい社会・環境問題

 様々なバックグラウンドの方に伺う、子どもとの買い物、お小遣い、お年玉、寄付や投資のこと。そこから自分の子どもにつながるフィナンシェなヒントを探ります。

 今回はお話を伺ったのは、CSRアジア代表を務めていらっしゃる赤羽真紀子さん。様々な企業にCSR(社会的責任)の観点からアドバイスをされる一方、小学校6年生でもうすぐ中学校に進学されるお子様のママでもあります。丸の内の美味しいフィナンシェをいただきながら、子どもへの社会・環境問題の伝え方について教えていただきました。

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◾️ 第三者の視点が、子どもの価値観にも影響

── 長年CSRに関わっていらっしゃる赤羽さんですが、お子様はお仕事のことを理解されているのでしょうか。

赤羽さん:積極的に娘に話をしている訳ではないです。ただ、私の関わっているウォーターエイドジャパンはテレビCMを放映しています。CMが流れた時に、「こことお仕事をしているんだよ」と話すと、娘の見方が変わった印象を受けました。『水汲みをするから学校にはいけない』、『危険だと分かっていてもその水を飲むしかない』、というメッセージを子どもなりに理解した様子がありました。

 社会問題や環境問題は、深刻だからこそ親から子には現実感を持って伝わりにくいのでは、と感じることがあります。特に、都会でずっと生活をしていると、豊かな生活に慣れているし、社会的課題に直面する機会も少ない。そのため、社会や環境問題は自分にとっては遠い話、と受け止められがちです。娘は小学生なので、さらにピンとこない所があるのでしょうね。

── おっしゃる通り、都会での生活で社会課題を身近に感じられないのは、大人でも同様。個人的には、幼い頃から想像することを繰り返すことで、大人になったときにそれが当たり前になるのでは、と考えています。学校生活も、社会問題を理解する上で重要な役割を担っていますが、印象に残ったことはありますか。

赤羽さん:学校の社会科学習は子どもの印象に残るし、自分の生活につながっていくようです。例えば、スーパーの社会科見学。食品トレーを無くして、お肉にラベルのみ貼るという説明をお店で受けたそうです。後日、親子でそのお店を訪れた時、「このお肉の方が環境にも良いんだって。こっちを買おうよ」と娘から提案したんです。親からよりも、CMや近所のお店という第三者から発言することで、子どもは影響を受けるのではないか、と感じましたね。

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(CSRアジアのシェアオフィスがある
丸の内で見つけたオブジェ)

◾️この商品は環境に優しい? 社会的には?

── 海外のCSRにも関わりが深い赤羽さんですが、日本と海外の子どもや生活者を見ていて、違いを感じることはありますか?

赤羽さん:海外の方が社会的な課題が目の前にあることや、教育を受けられるからこそ、解決に貢献したいという意識があると思います。東南アジアはゴミの回収ルートが不透明ということもあり、消費者はプラスチック問題に日本よりも敏感な印象です。欧米では、この商品は社会や環境問題を抱えているから買わない、というボイコットも一般的。商品の選択肢もありますが、買い物をする際に「これは環境に良いものなのか?」と考える機会は日本よりも多いのではないでしょうか。

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── 最近はお菓子のパッケージも環境に配慮した物が増えてきましたが、子どもと買い物をする時に、プラスチックを排除しようとか社会的な観点を入れよう、というのは選択肢も少なくて、ハードルが高いと感じています。

赤羽さん:日本企業は環境問題に取り組んでいるけれど、海外と比較すると包装を使いすぎと言われています。また、製造工程には社会的な問題が絡んでいる、なんて日本の生活者は想像しないですよね。幼い頃から環境問題や社会問題のことを教え、知ることができるような土台があれば、買い物のシーンでも想像できる力が付いてくるのかもしれませんが。

◾️企業はもっと社会課題に貢献してきたことを、アピールしてほしい

── 第三者から伝える、という意味では企業もその一部です。様々な企業の状況をご覧になっていると思いますが、企業側が子どもたちにCSRをアピールするような取り組みはあるのでしょうか。

赤羽さん:環境教育には各社熱心に取り組もうとしていると思いますよ。例えば、大阪いずみ市民生活協同組合では『食べることは大切』、『フードロスも減らしていこう』というメッセージを子どもたちに伝える取り組みをしています。他にも社会科見学を通して、環境教育をする企業が多いですね。

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── 工場や社会科見学ではアピールするのに、製品単位では消費者にあまり届けられていない印象です。子どもが選ぶような商品にももっと記載されていると教えやすいなと思うことがあります。

赤羽さん:そういう側面は往々にしてありますね。私は企業の創業時のミッションをもっとアピールしても良いのではと考えています。どの企業も社会的な課題を解決するために立ち上がったはず。自分たちの企業がこんな社会課題に貢献してきたんだ、ということを過去の出来事であっても良いので、もっと生活者にも伝えてほしいです。

* * * * *

 親からだけではなく、第三者からも社会や環境問題のことを子どもたちに伝えていくことが必要なのでは、と話された赤羽さん。「お店に並んだ商品がどのように社会とつながっているのか」を消費者に分かりやすく伝える工夫。この工夫があることで、「これは環境に良さそうだね」「この会社の製品は応援したくなるよね」と買い物をしながら親子で話をして、社会・環境問題をより身近に感じることができるかもしれません。そのための企業への働きかけも、フィナンシェの会として実施していきたい、という思いを今回強くさせられました。

 お忙しい中、お時間を割いて様々な角度からお話をくださった赤羽さんに、この場をお借りしてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました!

今回お話を伺ったのは…
赤羽真紀子さん
通算10年以上のさまざまな業種の多国籍企業のCSR担当としての経験がある。特に企業の環境対応と社会貢献事業に関しては、スターバックスコーヒージャパン、セールスフォースドットコム、日興アセットマネジメントの各社で関連部署の立ち上げを手がけた。 2002年にはスターバックスコーヒージャパンの社長賞、2006年には社員ボランティアの仕組みが評価され、さわやか福祉財団の「ナイスサポート賞」受賞に導く。これらの受賞は、企業のCSRプログラムを本業とうまく統合させていくことが評価されたものである。日本以外でも、シンガポール支社でのCSR部署の立ち上げや、タイ、韓国、中国でのCSRプロジェクト実施の実績がある。
早稲田大学で政治学と生物学を修め、カリフォルニア大学リバーサイド校、タフツ大学、慶應義塾の各大学院で学ぶ。環境省、国際基督教大学、慶応義塾大学、清泉女子学院大学、立教大学、明治学院大学、APABIS、ブリティッシュ・カウンシル、世界銀行をはじめ、講演多数。企業が発行するCSR報告書の第三者意見の執筆多数。東洋経済オンラインでの連載の経験もあり、NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の「NGOと企業の連携推進ネットワーク」のアドバイザー、AIDS孤児支援NGO・PLASのアドバイザー、SportForSmileの顧問、ウォーターエイド・ジャパンの理事なども務める。

(取材・文:Mari Kamei)

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