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お盆のこと

8/13~8/15の3日間、母方の従兄弟の家に帰省した。
特に行きたいところがあった訳では無いが、母と弟が帰省し静かな自宅で父と二人きりの生活を送るのは何よりの苦痛なので、少し慌ただしくとも家から出たいという動機で急ぎ列車の予約を取った。

皆考えることは同じなようで、台風のピークが来る前に帰省、もしくはUターンする人で座席はほぼ埋まっていた。
二列とも空いている席が無かったので、渋々通路側の一席に座る。行く前のウキウキ気分は何処へやら、たまには夏らしくと思い履いたミニスカートも、身軽に荷物をまとめられそうだと思い選んだ大きめのトートバッグも、雨の中では全てが悪手に思えて死にたくなった。横の人にもすごく気を遣わせてしまっている気がしてきて、それを紛らわせるために音楽を聴こうと取り出したワイヤレスイヤホンが音を立てて転げ落ち、また死にたくなった。

台風が直撃し、少し遅延したものの、夜には新宿に降り立った。相変わらず眩しくて人が多い。でももう迷わず西口まで進める。ほんの少しの成長。イカつい車で迎えに来てくれる陽気な従姉妹一家。途中で買って帰ったすき家の高菜明太牛丼がバイト終わりの空きっ腹のおかげでいつもの倍美味しく感じた。

従兄弟の自宅は下町にある。自宅が密集しているけどちょっとした公園があったり、少し歩いた先にある土手には緑が広がっている。田舎者の私にはちょうど良く心地よい町である。


8/13
私より先に帰省していた母が外出先でコロナをもらったらしく、着いてすぐ自宅に軟禁生活を強いられていた。不憫に思った叔母が手作りもんじゃを振舞ったという。本当は行きつけの店で食べたかっただろうが、こればかりは仕方がない。私に出来ることといえば近所のコンビニで買ったポカリを手袋をつけて手渡すか、アマプラでおすすめの作品を紹介することくらいだった。従兄弟や弟、私は何故か陰性なのがまた居た堪れなかった。

せっかく来たのに何処も行かないのは退屈だろうと、バイク馬鹿の従兄弟が毎晩ドライブするというコースに車で連れて行ってもらった。叔母はこの台風の中行くのはアホの所業だと全力で止めにかかったが、それで大人しく止めるほど彼に分別は無かった。
渋々叔母が従兄弟のバイクの後ろから車で追いかける形でドライブは始まった。前半はパラパラとした小雨がうっすらと続いていたが、ディズニーを外周しようと舞浜へ向かうと一気に雨足が強まり、前を走る従兄弟のインカム(として使ってるiPhone)から「雨痛えっ!!」という叫びが聞こえてきて面白かった。
肝心の景色はというと、真夜中な上に雨でガラスには水滴と曇りが広がりほとんど何も見えなかった。ただ一つ、ホテルミラコスタの外壁を飾るイルミネーションははっきりと見えて、とても綺麗だった。

帰りに寄ったコンビニでアイスとコーヒーを買い食いした瞬間は、少し夏な感じがした。

8/14
生活リズムが見事昼夜逆転し、起きたのは昼過ぎの13時くらいだった。
母は相変わらず高熱と関節痛に悩まされており、私が紹介した作品も見終わってしまったようで、ついに韓国ドラマに手を出し始めた。
母に何かお土産でも買っていくか聞くと、自分のは良いから職場に渡す菓子折りを買ってきて欲しいと言うので、買い物にでも行こうかという話になった。

とはいえ、夜には泣く泣く母抜きでもんじゃを食べに行くことになっていたのと、既に昼過ぎであまり遠出は出来なかったため、お台場のショッピングモールに行くことになった。

道中も雨がしとしと降っていたため、これは屋内レジャー目当てで人が凄いことになっていそうだと身構えていたが、思ったより人は多くなかった。屋外でイベントをやっていたらしく、その方にに人が集まっていたのかもしれない。

一行の中で最年少の弟はさっそくゲーセンに行きたがった。私も遊びたくはあったが、あまり大金は持ち合わせていなかったのでレトロゲーのあるコーナーで海物語とかをやったりした。パチカスの父の血を引いてはいるものの、流れてくる鉄球の音が心地よいくらいでそんなに面白くはなかった。流れてくる海の幸は可愛かった。

すごいカラフル。

ひとしきり遊んだ後、駄菓子屋横丁に行ってもんじゃせんべいを買った。これを母に渡そうか迷ったが、多分母が求めているのは本物のもんじゃだろうと思ったのでバイト先に回すことにした。
パッケージがレトロな看板だったりお菓子の昔のデザインだったりするチョコ菓子があったのでそれも買った。使いもしないのに可愛いパッケージの袋がまた増えた。まあいいか。
あとは一時期どハマりして文房具一式を集めていたフエキのステッカーがあったので買った。PCに貼り付けて満足した。

横丁を出ると、洋服が見たいという従兄弟のリクエストでファッションフロアに繰り出した。私も以前訪れた時にデザインにときめいて衝動買いしてしまったアクセサリー屋さんに行った。相変わらず可愛いデザインのピアス、イヤリング、イヤーカフ、ブレスレット…etc.。
買おうかと何度か手を伸ばした。でも最近あまりつけてないし、前に買ったのを大切に使わないともったいなくない??と脳内の誰かがそう言った。それで結局買わなかった。つまらない人間になったものだ。

恐らく原因は、以前にも増して、私の見た目に対する嫌悪が強まっていたからだろう。そのくせオシャレなものが好きで、買ってはそれをつけて外に出ることは出来ずにいた。
帰省前のgoin' my way精神が都会のキラキラに当てられて消え失せたんだろう。この時私はそう思った。と同時にどうして生乾きでも良かったのにミニスカ以外のボトムスを持っていかなかったのだろうと酷く後悔した。脚だし出来るのなんて今しかないじゃん!?とちゃおの主人公ばりに張り切っていた帰省前の私を殴りたくなった。

そんなことを考えながら店をうろうろしているとだいぶ夜も深まってきたので、行きつけのもんじゃ居酒屋が終わらないうちにと洋服屋から出てこない従兄弟をひっぺがし、急いで店に向かった。

居酒屋はまだ開いていた。ただ、ラストオーダー30分くらい前だったので怒涛の早さで注文をし、急いで鉄板を温めてもらった。非常に申し訳ない。
もんじゃマスターを自称する叔母も焦っていたのか、土手が決壊してぐじゅぐじゅになったカレーもんじゃを掻き集め、まだ激熱のヘラを口に運んではアチアチ言った。楽しかった。
本当はまだあと数ヶ月待たなきゃいけないビールを飲んだ。クソ不味い。こんな液体を私は必死にバイトで運んでいたのかと少し悲しくなった。

酒が入ると私は饒舌になるようで、日々の辛みからその場に居ない母の小言など色々と話してしまった。普段は無口()で通っている私の汚言を浴びせてしまってごめんなさい。

帰りの道中、母に頼まれていた菓子折りを買うのを忘れていたことに気づき、明日帰る前デパートに寄ることになった。東京ばななが何年も続いていたのでさすがに違うものを買った方がいいだろうという考えからだった。別にいいと思うけどなあ、有名だし、バナナ味以外もあるし、見た目も可愛いし。

自宅に帰ると、母は熱が下がっておりだいぶ落ち着いたようだった。まだ軟禁部屋からは出ない方が良さそうだったが、ドアの隙間から駄菓子屋で買った石チョコを差し入れした。石チョコは母の好物である。

昼夜逆転生活のおかげで、真夜中になっても一向に誰も風呂に入らないので、弟がやりたがったババ抜き&ジジ抜きで負けた人から入ることとなった。
結果、弟が3連敗。言い出しっぺの法則を舐めてはいけない。
負けん気の強い弟は悔し泣きしていじけモードに入った。風呂どころでは無い。叔母が悔しい気持ちがあるほど次勝てるための力になるとフォローを入れるも、残念ながらこの手のゲームはほとんどが運勝負である。しかし弟は鼻をすすりながら再戦を申し込んだ。
途中、ジジを抜き忘れるというハプニングにより全員がカードを引いて上がるという謎儀式が完成した。それに叔母のツボスイッチが入り、周りにも伝染した。弟が笑いながら鼻水を垂らしていてそれがさらに面白かった。夜中だぞと叔父がガチギレして静まり返った。

結局弟が勝つまでやる羽目になり、私が風呂に入ったのは夜更けの3時頃となった。

8/15
起きたら14時を過ぎていた。ポケスリのカビゴンが痩せ細っている。

今日は元々電車で帰るつもりであったが、母のこともあり叔父に車で送って行ってもらうこととなった。車好きが高じて、以前まで乗っていた大型車を売り払い、イカつい四駆を買ってしまったので、乗れるのは5人までとなり、叔母は留守番ということになった。

帰る前に急いで叔母の車で松阪屋に行った。正直デパートの菓子折りより東京駅のプリンケーキとかの方が喜ばれそうだと思ったが、そんな時間は無いのでさっと買って帰った。

思ったより道が混んでいなかったため、帰るまで少し時間が出来た。
当初は近所の銭湯にも行きたいと思っていた私を見かねて、せっかくならと銭湯好きの従兄弟も行ったことがないという銭湯に連れて行ってもらった。
そこは私が思っていたような閑静な下町風呂ではなく、インスタで穴場銭湯特集に載っていそうな感じの綺麗な銭湯だった。
案の定、モデルのような人間しか居ない空間だった。でもお湯はちょうど良い湯加減で温まった。多分もう来ないけど。

荷物をまとめ、都心を離れる。叔母はまた年末に、と手を振り送ってくれた。あと何回会えるだろうか。
途中通過した浅草の大門と秋葉原の売り子を写真に収めるのを忘れた。隣に座る従兄弟がロリータの外国人に向かってまたね‼️と言うので知り合いか聞くと、初見だという。ここはヴァーチャルドリームなのだと思うことにした。

母に配慮して、窓を全開にして高速を走った。運転は嫌いだけど人の運転でするドライブは好きだ。私の命はケサランパサランよりも軽いのでたとえ初心者の運転でも気兼ねなく乗れる。

途中叔父が森なんかを通過するたび、そこにまつわる怪談を披露してくれた。直接行くのははばかれるものの、近くを通るという行為でゾッとする感覚を味わえるのは楽しい。

首都圏を抜けて山道に入ると本当に真っ暗になって、窓から入る湿った山の空気と、たまにパラつく雨が顔に当たって、こういうアトラクションがあったらいいなと思った。たまに背後から現れる真っ黒なミニバンも中々怖い。

そうこうしているうちに自宅に着いた。
また年末に、とはしゃいでいる弟とハイタッチをして、叔父のイカつい四駆は消えていった。


今年のお盆は、私にとっての逃避行にはならなかった。ただ、相変わらず従兄弟は陽気で、もんじゃは美味しくて、トランプは楽しかった。

次からは、ミニスカートを履く時は希死念慮の無い時にしようと思う。



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