見出し画像

三石巌の分子栄養学講座−3

この文章は三石巌が1984年に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。


個体差はタンパク質の違い

皮膚の移植手術は、やけどや、皮膚の手術のあとでは、よくおこなわれます。そのとき、移植する皮膚は、本人のものに限ります。もし、一卵性双生児の兄弟がいるのなら、その人のものを使うことができます。

私たちの身体は、いうまでもなく、自分のものです。自分の皮膚がどうにかなったのなら、修復のためには自分の皮膚をもってこなければなりません。 自分のものを「自己」というなら、ひとのものは「非自己」です。私たちの身体は、自己だけでかためるのが原則です。それはつまり、同じDNAをもった細胞でかためるのが原則、ということです。

自分の皮膚の細胞は、自分のDNAをもっています。ひとの皮膚の細胞は、その人のDNAをもっています。それはつまり非自己です。自分の身体は自分のものでかためるのが原則だとすれば、非自己はあくまでも排除しなければなりますまい。

このとき、植えつけられた皮膚が、自己であるか、それとも非自己であるかの判別が必要なわけでしょう。この判別は、DNAの違いをみるのではなく、タンパク質の違いをみるのです。人が違えば、皮膚のタンパク質も違います。そのタンパク質の違いによって、自己と非自己との区別がつくのです。非自己タンパクのことを「異種タンパク」といいます。私どもの身体は、異種タンパクを見分けて、それを排除するのです。

もうひとつの例をあげましょう。 腎臓が悪くなると、人工透析という方法で、血液の浄化をはかることは、ごぞんじのことと思います。人工透析がやっかいだといって、腎臓移植にふみきる人もいます。

腎臓の形はどうか、機能はどうか、などということは、教科書を見れば、すぐわかることです。それを見ると、腎臓は誰のものでも同じなことがわかります。しかしそれは、形や機能のことであって、その実質であるタンパク質は、人それぞれに違います。よその人の腎臓は異種のタンパクなのです。皮膚の移植と同じわけで、腎臓の移植も、有効な対策ぬきでは、失敗にきまっています。

ところで、非自己を排除する現象を「免疫」といいます。この免疫をおさえこまないことには、どんな移植も成功しないにきまっています。腎臓移植・心臓移植などでは、免疫抑制剤を使って、免疫能力を殺さなければなりません。そのために、抵抗力がダウンしてしまうので、風邪も命とりになりかねない身体ができあがります。

個体差の問題は、このように、身体のすみずみにおよんでいます。おたがいは、人間である点に違いはないのですが、身体の素材であるタンパク質は、どこからどこまでも違うのです。

栄養条件もひとそれぞれ

私たち一人びとりの人間は、顔かたちが十人十色であるばかりでなく、身体の内部のすみずみまでが十人十色だということが、もうおわかりのことと思います。私たちの身体は、親子であっても、兄弟であっても、その素材であるタンパク質に着目すれば、決して同じではありません。個体差は、頭のてっぺんから足の先まで、ついてまわるのです。そしてそれは、一人びとりのもっている遺伝子DNAの個体差からきているのです。

むろん、私たちはお互いに人間です。先祖はサルでも、いまはサルではなくて人間です。それは、私たちが、人類に特有なDNAをもっているからにほかなりません。私たちのDNAは、人類を特徴づけるDNAなのです。しかし、そのDNA分子の組成が一人びとり、少しずつ違っているのです。それが、タンパク質の違いとしてあらわれているということは、もうご存じのはずです。

タンパク質の分子は、20種のアミノ酸が鎖のようにつながった構造のものです。タンパク質の違いは、そのアミノ酸の配列や数の違いを意味します。誰の皮膚も、タンパク質でできていることに違いはありませんが、そのアミノ酸配列が、人ごとに違うのです。腎臓でも、目玉でも、みんなそれと同じことなのです。そしてそれは、DNAが人ごとに違うところからきています。

このあたりで私のいっていることは、分子栄養学の話ではありません。分子生物学の話なのです。しかしこのあたりから、話は分子栄養学につながってくるのです。

私たちの身体の素材であるタンパク質は、一人びとり違っています。そしてそれがフルに活動しなければ健康レベルがさがるとすると、事柄が単純でないことがわかります。生命の担い手がタンパク質であることが確かだとすると、そのタンパク質を活動させる条件に的をしぼる必要がでてきます。

タンパク質が、私たちの身体をつくる素材であることに間違いはないのですが、その重要なものは酵素の役目をもっています。名前でいえば、「酵素タンパク」というものです。その酵素タンパクのアミノ酸組成に個体差があることを、ここでは注意したいのです。

ここに、Aさんと、Bさんとがいます。この二人は、体重も、身長も、年も同じだとしましょう。それならば、同じ献立の食事を、同じ量だけ食べたら、二人の栄養条件は同じになるかというとそうではないはずです。 高い健康レベルを保つためには、酵素タンパクがフルに活動しなければなりません。栄養の補給は、そのためにあるわけですが、酵素タンパクが、AさんとBさんとで違うとすると、栄養物質の要求量が同じでよいはずがないではありませんか。


三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?