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92歳 三石巌のどうぞお先に 10

三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)


ビタミンCの必要量

状況、個体差に応じて不足補う

 キミは、イヌやウシにビタミンCをやることを知っているだろうか。かれらがビタミンCをじぶんでつくれるのに、だよ。これは、自前の生産力にリミットがあるってことだ。
 赤ちゃんだってカゼをひいたときなんかには、ビタミンCをほしがるかもしれないとおもうよ。
 われわれにんげんも、ビタミンと似たはたらきのものをいくつもつくっている。ニコチン酸・パントテン酸・ユビキノンなどなどだ。こういうものがふそくすることがあるんだ。 
 ところで、病気や栄養の研究にはよくネズミがつかわれる。だが、人間とネズミとはおおちがいだ。ネズミはビタミンCをじぶんでつくれるんだから。
 われわれ人間にビタミンCがどれほどいるかはだいじな問題だ。これはネズミが一日にどれほどのビタミンCをつくっているかをしらべればいいわけだ。
 じっさいのデータをみると、ふつうの生活だと一日に二グラム、ストレスがあると十七グラムってことだ。これだけのものをネズミはつっくているわけだ。むろん人間の体重に換算してある。人間の必要量はここからだすのが合理的ってことになるが、二グラムのビタミンCはレモンでいえば四キログラムだ。がっくりくるね。
 この数字をきいてキミはどうするか。きょうからは毎日レモン四キログラムをたべようと思うか。とにかく野菜や果物をもりもり食おうとするか。サルは森をはなれずに手あたりしだいにビタミンCをふくむえさにありついているんだが。
 ここまで読んできたら、この連載のタイトル「どうぞ、お先に」の意味がわかったんじゃないかな。必要な栄養素をいるだけとりもしないでおいて栄養に気をつけています、なんていう人がいるけれど、そういう人にむかって、どうぞお先に、とボクはいいたいんだな。まさかそれを口にだすほどの無神経じゃないがね。
 ここで心にとめてもらいたいことがふたつある。ひとつはビタミンCの必要量が状況によってちがうってことだ。ネズミのストレスのことがあったじゃないか。
 もうひとつは必要量に個体差があるってことだ。それは一対百といわれている。キミは一日四十ミリグラムで、ボクは一日四グラムっていうようなぐあいだ。

三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。

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