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92歳 三石巌のどうぞお先に 18

三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)


続・活性酸素

普通より強い力で相手を酸化

 われわれの味方とばかりおもっている酸素が活性酸素となまえを変えてドロボーをはたらくとは、いったいどういうことなんだ。
 しばらく、しんぼうして読んでもらいたい。
 すべてのものは分子のあつまりなんだが、ひとつひとつの分子をみると、いくつかの原子核のまわりをかこんで電子がうごめいている。その電子の数は偶数でないとおちつかないってことがあるんだ。これはミクロの世界のおきてだから文句はつけられないさ。
 ところでおなじみの酸素分子をみると、電子の数は十六だ。偶数だ。それでおちついていればなにごともないんだが、酸素分子には電子を一個とりこむ悪いくせがあるんだな。そうすれば十七個になる。
 十七個は奇数だ。これはおきて破りだ。そこでもう一個の電子をあわててとりこまなきゃならなくなる。そばにぼんやりものの分子がいれば、そこから電子をもぎとってしまう。これがつまり電子ドロボーってことだな。これが活性酸素だってことは、察しがつくだろう。
 活性酸素っていうことばを聞くと、なにかありがたいものって感じがするんじゃないかな。でも、これがこまるんだ。
 キミは鉄がさびることを知っているだろう。ステンレスのことじゃないよ。ステンレスはさびないって意味なんだから。鉄はさびるとき酸素と化合している。酸化ってことだ。酸素には酸化力があるんだな。これがつまり酸素の活性ってものだ。酸素の活性は酸化力としてあらわれるってことだ。
 活性酸素っていえば、わざわざ活性をくっつけたんだから、活性がつよいことを意味している。ふつうの酸素より酸化力がつよいってことなんだ。
ミクロの世界のことがわかってくると、酸化の意味がひろくなっちゃった。酸化とは電子をぬきとられることを意味する。だから、おなじみの電子ドロボーってやつは、相手を酸化することになる。学校でならったくせにわすれているんじゃないかな。
 ここまで話がわかると電子ドロボーは酸化剤ってことになる。
 電子ドロボーがDNA分子から電子をひっこぬくって話がまえにあった。
 DNA分子は酸化されるとまずいって話から、いよいよ電子ドロボーよけの話がはじまる。

三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


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