雑記16 細田守小考(中)

 原作ファンからは評判のよくない「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」だが、大人への不信や小社会の瓦解といった細田守の特質が詰め込まれている点で、重要な作品と言えよう。麦わら海賊団が敵の策略で少しずつ仲違いし、最終的に海賊団が崩壊するプロットは原作のテーマから逸れており、ファンが気に入らないのはもっともである。ただ、どれだけ仲が良かろうと、小さなきっかけで絶縁するのが人間なのであり、人間関係の流動さや脆弱さを描いている点には文学的趣がある。普段は仲の良い麦わら海賊団を扱うことで、強固に見える人的繋がりの脆さが強調される。
 賛否の入り乱れた「竜とそばかす姫」だが、個人的にもそれほど面白かったわけではない。ただ、ストーリーに無駄が少なく、登場キャラクターを手際よく動かした点は評価に値する。絵と歌のリンクも群を抜いてレベルが高く、ライブシーンは圧巻のクオリティである。その一方、すずから母へのトラウマやコンプレックスに折り合いがついていない点や全体的にすずの動機が不明瞭な点、児童虐待に関連した点はあまり良いとは言えない。後述するが、本作のオチは大人に不信感を抱く細田の価値観に起因していると想像される。それにしても新海誠と違って細田の作品は毎回議論が紛糾しており、作家としての評価が安定しない。細田作品は通俗に振り切れておらず、どこか文学を志向している。観客を不愉快にしてでもトラウマを描こうとする点があまり受け入れられないのだろうか。
 ここまで紹介した五作品は観ても損はないと思うが、残る二作品はあまり薦められない。とはいえ、ONE PIECEは原作ファンが楽しめるものではないため、ファンには推薦できないが。「未来のミライ」はなんだかダラッとした作品で、山も谷もなく話が進んだ感じがある。全体的に起伏の少ない作品といえば「チェンソーマン」もそうだが、時間経過によって人格的に成長するデンジに対して、本作の場合は訓の変化がイマイチよく分からず、それが退屈さの原因なのだろう。エンディングで未来を受け入れ、兄としての自覚らしきものに目覚める節はあるが、幼児は気まぐれなため、観ている側としては、ああそうですか、となってしまう。訓の年齢がもう少し高ければ話は違ったかもしれないが、そうなると幼児の甘え行動という題材は使えない。何にせよ、難しい題材を選んだことは確かである。尺の長いテレビアニメの方が行きつ戻りつしながら成長する姿を描けて良かったのではないか。映画なら、「不思議の国のアリス」的作品の方が良かったと思うが、どうだろうか。また、本作は訓が主人公の短編を組み合わせた作品だが、いずれの挿話もいいオチがつかない上、筋に面白みがなく、凡庸な印象が拭えない。全体的に良い作品ではないが、作画は高品質である。
 最後は「バケモノの子」である。この作品はオチが微妙で、ラストで熊徹が刀になる必要はなく、脚本に要請された感じが強い。主人公側のドラマが弱く、九太と熊徹の履歴もあまり明かされないため心理的展開に乏しい。最初仲の悪かった二人が段々、絆を深めていく流れもありきたりで新味に薄く、関係の進展がPV演出で雑に処理されるため、仲良くなった理由がよく分からない。具体的なエピソード欲しい。時間が飛んで青年になる点も一郎彦のネタを考えると、芳しくない。一郎彦は薄々自身が人間だと勘付いており、そのような人間が数年間も心のバランスを保てるかは怪しいのではないか。彼の成長過程をカットせず、幼子から青年にかけての葛藤を描くべきだった。描写不足ゆえ後半の暴走が唐突なものになっている。本作は九太と一郎彦両者のストーリーを、時間の跳躍なしに展開した方が良かったと感じる。青年編も描きたいなら前後編にでもするか、主人公を最初から青年にした方がいい。「バケモノの子」の作画と音楽はよくできているが、逆に言えばそれくらいしか褒める点がない。駄作に近い凡作といったところ。
(細田守小考(下)に続く)

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