『仮面の告白』と仮面の三島由紀夫
三島由紀夫の『仮面の告白』は、作家本人をモデルとして想起させる「私」の幼少期の記憶をたどるところから物語は始まる。糞尿汲取人の若者にはじまり、行進する兵士たちに性的な快感に結びつくことなく、その職業の悲劇性、その死に官能的欲求を目覚めさせ、と同時に女奇術師に自らを擬する扮装欲の芽生えを経て、おとぎ話の「殺される王子」、聖セバスチャンの殉教図などに自己を投影してマゾヒスティックな空想の中で欲情するのだった。
中学に進学した「私」は同級生である粗放で精悍な近江に魅かれ、肉欲を覚