シンチャオ

文学、旅、アート まずは、少しずつ大学の課題で書いた批評やエッセイ、旅での感興などを少…

シンチャオ

文学、旅、アート まずは、少しずつ大学の課題で書いた批評やエッセイ、旅での感興などを少しずつ少しずつ投稿していきたいと思っております。

最近の記事

『仮面の告白』と仮面の三島由紀夫

 三島由紀夫の『仮面の告白』は、作家本人をモデルとして想起させる「私」の幼少期の記憶をたどるところから物語は始まる。糞尿汲取人の若者にはじまり、行進する兵士たちに性的な快感に結びつくことなく、その職業の悲劇性、その死に官能的欲求を目覚めさせ、と同時に女奇術師に自らを擬する扮装欲の芽生えを経て、おとぎ話の「殺される王子」、聖セバスチャンの殉教図などに自己を投影してマゾヒスティックな空想の中で欲情するのだった。 中学に進学した「私」は同級生である粗放で精悍な近江に魅かれ、肉欲を覚

    • ミニアチュールの中の安逸 澁澤龍彦「胡桃の中の世界」に寄せて

      プラハのストラホフ修道院に入ると、世界でもっとも美しい図書館とも称される神学の間、哲学の間ばかりに注目が向かいがちではあるが、それほど広くもない廊下を所狭しと埋め尽くす陳列棚にくぎ付になった。  澁澤龍彦好みの空間だなと思った。  後になってわかったのだが、澁澤もこの修道院のコレクションを見て、同じ神聖ローマ帝国統治下のプラハにあったというルドルフ二世が作らせた驚異の部屋のひな型だと、ヨーロッパ滞在時の覚書に記している。  驚異の部屋とは、権力者らがその博物趣味の求めるに任

    『仮面の告白』と仮面の三島由紀夫