タニサという名の少女
彼女はそう遠くない町からバウレスにやってきた。
ある日マリアとエルマンは、息子さんが住むサンタ・デル・ヤクマという街に出かけたが、
数日後ホテルに帰ってきた時には、同行する息子さんと別にひとりの女の子の姿があった。
一見したところ親や兄弟の姿はない。
小学校低学年くらいだろうか、10歳はいかないだろうな。
シャイなのか、大人に囲まれて緊張しているのか、大人しくしているので様子を見ることにした。
昼食中マリアに彼女は何者かと尋ねると、少し考えた後「妹だ」と言った。
妹??笑
どういう意味だ。笑
この子も今日からしばらく一緒に同居するってことか?
マリアは相変わらずマシンガントークで話していたため、代わりにホテルのお手伝いさんに聞いてみることにした。
すると、なんでも親が出稼ぎに行っている間マリアとエルマンが預かるという話らしい。
なるほど。
アントニオさんが本業(宅地開発)でアルゼンチンに戻ってしまい、カカオの収穫期までバウレスでひたすら待機している間に、ホームステイのようになってしまっている僕も似た境遇というわけね。
それでマリアはあんたの妹だと言ったのか。
ある日、マリアと仲良しのヴィヴィアン(市長の奥さん)の息子ロベルトが遊びに来ていた。
するとタニサもホテル内を一緒に走り回って、キャッキャしている。
やはり同年代の子と一緒にいるときは様子は違うな。
普段は真顔ばかりのタニサが、このとき初めて笑顔を見せた。年相応に子供らしい一面を見たおかげで少し安心した。
特に突っ込んだ会話をしたわけでもないが、
二週間も寝食を共にしていると本当に家族のような気分になってくるから、人間の感覚とは不思議なものだ。
さて、今日は一緒にタマリンドの皮むきだ。
さやえんどうのような形をしているのだが、種だけ取り外し熟した皮の部分を使いジュースを作るそうだ。
終わりが見えないくらいの、かなり根気のいる地味な作業だが、タニサは黙々とやっていた。
凄いな。
僕は開始早々5分としない内に、既に飽きてきた。。
かつて親の手伝いも嫁の手伝いも、まったくやった記憶のない男は、
親子以上に歳の離れたこのボリビアの妹に、ただただ感心するばかりであった。
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