見出し画像

古墳


冬枯れの季節の晴れた日に
少年は古墳を訪ねる
すっかり裸になった柿の木々の小径を行く
こんもりとした墳丘には
枯れ葉が重なりあい
どんぐりの実が転がっている
パキンカサッと踏み鳴らし
太陽の方へぽっかりと開いた口をくぐり抜ける
もし人影があれば
すぐさま外に出て辺りをぶらつく
猫や小鳥なら一緒にいてもいい

石室の内部には
ひんやりした空気が詰まっている
低い高度から真冬の陽が射し込み
ずっしり重量感のある石組みを奥まで照らし出す
古墳内にずっぷり身を浸して馴染んでくると
この静寂と静止を揺さぶってみたくなる
気分がだんだん高ぶってくる

少年はとっておきのセレモニーを始める
奥の壁に向かって立つ
シルエットがぼんやり浮かび上がる
次に思うがままに手足を動かす
跳びはねる
でたらめに踊りつつ
うごめくシルエットを眺めて
ホウッと叫ぶ
セレモニーとは言ってもただそれだけのことだ

この岩の壁に自分の姿を映していると
とてつもなく長い流れに呑まれて
どこまでも漂い行くような
錯覚にいざなわれ
束の間の解放感に満たされた





   撮影地  愛知県豊橋市石巻本町
          馬越長火塚古墳


この記事が参加している募集

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?