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別れ話

社会人だった私と大学院生だった彼は一緒に暮らしていたけれど、
彼が社会人になり私たちは遠距離恋愛になった。

彼は1年目で慣れない仕事に精一杯だった。
私は異動があり業務量が増え、不眠も増えていた。
今思えば、二人共かなりストレスがあったのだと思う。

それでも月に一回は私が彼の場所まで行っていた。
友人には「なぜ、あなたばっかり会いに行って、来てくれないの?」と言われたけれど、別に私の方が有給が取りやすいし、仕事も早く終わるから。
それだけの理由。
特に不満もなく、毎月楽しんでいた。

そして、精一杯の私は彼の存在が支えだった。
大好きだった。
一緒に暮らしていた時より大好きだったと思う。

夏休みが過ぎてから、彼の仕事が忙しくなった。
仕事内容は深く知らないが、日付をまたいで仕事が終わる日が増えた。
残業時間は法律を超え、次月に残業時間をつけるまでになっていた。
「意外とタフだから大丈夫だよ。」と言われたけれど、まだ1年目でこんなに重労働で、更に頑張りすぎる彼の性格をわかっていたから心配だった。

途中で倒れていないだろうか。
不注意が多いから運転で事故にでも遭わないだろうか。
お酒が飲めないのに先輩がいると頑張って飲んでしまうから、途中で倒れたりしてないだろうか。
彼は酷いアトピー持ちで、シャワーを入らないと悪化してしまうから、帰ってちゃんとお風呂に入れているだろうか。

彼も、いい大人なのに。
とにかく私は心配しすぎだった。

彼の連絡は途切れ途切れになる。
日が跨ぐまでは起きて待っていたが、何日も連絡はない。
帰ってすぐに、寝落ちてしまうらしい。

「昨日も連絡できなかった。ごめん」という彼に
「終わってから一回も携帯見ないの?」と言ってしまったこともある。

そうして喧嘩が増えた。

会っても喧嘩するようになった。
もう理由は覚えてないけれど。些細なこと。
二人とも余裕がなかったんだ。

一緒に長く暮らしていたけれど、喧嘩なんてしたことなかったから二人とも戸惑っていた。
どうしてこんなに上手くいかないんだろう。

そうして、10月中旬
「別れた方がいいのかな」
と私は言った。
「別れたくない。変わるからさ。
1か月猶予をください。」
と彼は言った。

今思えば、別に変わる必要なんてなかったのにね。

そうして彼は、本当にすごく変わった。
私を不安にさせまいと行動をしていたし、気持ちもストレートに伝えてくれた。
3か月遅れの誕生日プレゼントもくれたし、手紙もくれた。
その手紙には、彼の素直な私への気持ちが書いてあった。
嬉しくて嬉しくて何度も読んだ。

私はもっと好きになった。
でも私は、その気持ちは照れ臭くて言えなかった。

その1か月の猶予期間を経て、私たちは「また一緒に頑張ろうね。」と言い合った。

その2週間後。
彼の誕生日があった。土曜日だった。
遠距離だったけれど、私は金曜日の夜、閉店間際のデパートに駆け込んでお祝いのためのケーキと蝋燭とライターを買って家に帰った。

サプライズでビデオ通話越しだけど、誕生日の歌を歌って、蝋燭を消そう。

金曜日の朝から、連絡はない。
まだ仕事中かな。なんて思った。

日を跨いでも待ったけれど連絡はない。
深夜2時になっても連絡がないから「まだ仕事中?」と送った。

土曜日、連絡はない。
電話をしたけれど、既読にもならない。
誕生日が終わってしまう。

日曜日、連絡がない。
電話をしたけれど、出なかった。

月曜日。ケーキは賞味期限を過ぎ、固くなっていた。

そして彼から「仕事だった」と連絡が来た。
「誕生日ケーキ買って待ってたよ」というと
「そんなの言われないとわからないよ。」「もう好きかどうかわからない」と言われた。

仲直りしたのは2週間前のことである。
どうしてそんなにすぐ心境の変化があったのか分からなかった。

2週間後には会う予定もあるのに
「次は会う。自分の気持ち確かめたいから」と言われた。

これは後の考察だが、11月は彼の仕事の大事なプロジェクトの締切だったこと。
11月に会った時に、今まで以上に頑張ってくれていたから、すでにキャパオーバーしていたし、11月が終わって達成感が大きく、ある意味、燃え尽き症候群だったのではないかと思う。


12月二人で会う。
彼が寝ている時に、泣いてしまったこともあったが楽しく過ごした。(多分気づかれていたと思う)
彼に誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを2つ渡して、笑って過ごした。
「やっぱり会うと楽しいし好き」と彼は言った。

そして年末。
彼と私はそれぞれの実家に帰った。

年末最後の電話をした。
この一年で1番楽しかったことは?
という話で

私はすぐに思い出した。
下呂温泉に行った時、宿から少し離れたところに家族風呂があるということで、行ってみた。
そこは街灯のないちょっとした山道で「トトロいそうだね」と言って山道を下った。
小さな家族風呂がある。
大きい蜘蛛がたくさんいたけど、シャワーで撃退しながら湯に浸かった。

そうして二人で山を眺めながら、お湯に浸かる。
トトロのセリフモノマネが始まる。

二人でトトロのシーンを思い浮かべながら、セリフを言い合う。
なんと微笑ましいバカップルだ。

私がサツキのお父さんのモノマネをしていると、彼は私の顔を見てクスッと笑って、後ろから抱きしめてくれた。

その時のことを言った。
「下呂温泉の家族風呂でさー、後ろから抱きしめてくれたじゃん。それが1番かな」
「え、なんで?いつもギュウするじゃん。」
彼は笑う。
「そうだけど、いちばん嬉しかったんだもん」

そして彼は
「ユニバ行った時かなー
でも、この前会った時かも。サンタの帽子とかかぶって写真撮ったり楽しかった。」
「それもいつもしてるじゃん」
と私は言った。


そうして1月1日
「喧嘩して嫌な思い出も増えちゃったけど、楽しい思い出もたくさん増えた一年だったね。
今年もお互い頑張っていこうね。」
とラインがきた。

1月3日
「今日は何するのー?」と他愛のないラインをした。
そこから2週間連絡がなかった。


1月半ば
もともと彼に会うために飛行機を取っていた。
その日は彼が取ったホテルでの集合だったはずだが、ホテルの場所もわからず、そもそも連絡がなく。
当日の朝に連絡が来た。

会えずとも、とりあえず飛行機には乗ろうと思っていた私は、泣きながら準備をしていたので、旅行バックと会社の荷物を持って出勤していたところだった。

「会って話したい。」

もう別れることが決まっているんだ。
よくわかんないや。

「俺が全部悪い」「もう好きじゃない」そう言って
彼に別れを告げられた。
彼は1月3日の「今日は何するのー?」のラインで無理だなと思った。と言っていた。

こんな流れ。
振り返りたくなんてなかったけれど振り返ってみた。

納得いかない。
この前好き同士なことを確認して頑張ろうって言ったばかりだし。
お正月の休みを何をするのか聞いてもいいじゃないか。けれどもうその時は私も精神的に限界だった。
少し反論はしたけれど、彼が頑固なのは知っていたし。

別れ話をしてから私の飛行機の日まで時間があったから、一緒に過ごすことになった。
と言っても、彼は土日も仕事だったから、私はホテルにずっといて帰ってくるのを待っていただけ。

そして別れの前の日の夜、彼は泣いていた。
私は彼の腕枕の中におさまって彼の啜り泣く声を聞いていた。
朝になり彼の出勤時間になった。

最後のお別れのとき、彼は私を抱きしめて泣いていた。
私はそれまでに泣き過ぎていて、涙が出なかった。
お揃いで買った私のブレスレットを彼の左手に握らせた。
彼の小さな後ろ姿を見送った。


もう今すぐ帰りたかったのに、着陸地の大雪のせいで彼のいる土地で空港に閉じ込められて少し泣いた。
会社に旅行先から帰れなくなったことを連絡し、空港で一夜を過ごした。
朝イチの便で帰って、会社に午後から出勤した。

会社までの電車を、人もまばらなホームで待つ。
1000曲以上は入っているであろうプレイリストを再生する。
イヤホンから尾崎豊の「oh my littlie girl」が流れてきた。

夏に湘南に遊びに行った時に江ノ電を待っていた。
その時に私の大好きな漫画「ホットロード」の舞台なんだよという話をしていた。
実写映画の主題歌だったこの曲を、江ノ電のホームで彼の耳元に口を近づけて小さく歌った。
彼はくすぐったそうな顔をして聴いていた。
繋いでいる手を彼はリズムを取るようにゆらゆらと揺らす。

湘南の眩しい風景と共に思い出が一気にフラッシュバックして、ホームで崩れ落ちるくらい泣いた。


こんな別れ話だ。
多分、ありふれてるどこにでもある別れ話だろう。

もちろん主観だけれど。
私は素直に愛情表現ができていたかというとそうではなかったし。
二人ともいっぱいいっぱいな理由が考察できていなかったし、話し合えなかった。
まだ、彼が1年目だから。負担をかけてはいけない。と思って遠距離恋愛のゴールも話し合わなかった。
彼の仕事は大変だけど彼は頑張ろうとしていたのに、私は彼の労働環境に不満を持っていた。
自分の仕事のストレスのせいで弱気になってしまい、彼の連絡を唯一の楽しみにしていた。重荷だったと思う。

理由はいくつも思い浮かぶ。

でも、今でも彼のことを引きずっているのは、
こんなに唐突な終わり方で、「俺が悪い」の一言で片付けられてしまったことだと思う。

私たちは改善の努力を何もしていない。
私は何にもできていない。
それもなく別れてしまったこと。

本当に悔やんでいる。

私にも頑張らせてほしかった。
彼は優しいから何も言わなかった。


そして、私は彼が「もう他人だから」と言っていたから、別れてスッキリしているんだろうな。と思っていた。
薄情なやつだな。と勝手に思っていた。
辛いのは自分だけだ、と。


けれど、最近改めた。
どうして彼はあんなに泣いていたんだろう。他人の私なのに。
どうして「熱が出たんだ」と別れて半年以上経って、突然電話をしてきたんだろう。

彼との思い出がいっぱいあるback numberは別れてから長い間聞けなかったのだけど、復縁を決意してから聴いた。

私の半分はあなたで
そしてあなたの半分は
私でできていたのね
それならこんなに痛いのも
涙が出るのも
きっと私だけじゃないよね

「思い出せなくなるその日まで」

そうかもしれない。
私も別れて1年苦しんだ。
でも、彼も苦しむ日がもしかしたらあったんじゃないのかな。

私が彼を思うように、彼も私を思い出す日があったんじゃないのかな。
なんて楽観的すぎるかな。

でも、半端な恋なんてしていない。
いつも私たちは真剣に向き合っていた。
一緒に暮らしていた時も、遠距離になってからも。

最後の最後、真剣に向き合えなかった。
そのやり直しをしたい。

これが復縁をしたい理由の一つだ。
もう1年以上経っているし遅いかな。
迷惑かな?



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