柔術を武術的に再生する-その3-「送り襟締め」を例に

1 今回は後ろからの「送り襟締め」について考察する。BJJや柔道では誰でも知っているが、意外に使いこなせている人は少ないし、苦手意識をお持ちの方もおられるのではないだろうか。そういう方の参考になれば幸いである。
 そもそも「送り襟締め」とは何ぞや?という方のために。まずは、白木先生の動画を見て頂こう(冒頭から~4:56までで充分である)。
 https://www.youtube.com/watch?v=7M-iiCknNqs
 ここまで完成度の高い締め方を見ると、本稿を書く意味がないのではないかと正直不安になるが、白木先生の締め方を理解する上でも次の点を指摘しておく事は有益かと思う。
 送り襟締めに限らず、締めは「腕で絞める」モノだと思っている人が多いが、そうではない。締めは「腰で絞める」。「裸締」のように例外はあるが、「送り襟締め」だけでなく、「ギロチンチョーク」も「アームトライアングルチョーク」(注1)等も同様である。
 「送り襟締め」は、後ろから両手で相手の襟を握り、左右から相手の頸動脈を圧迫して失神させる技である。頸動脈を左右から圧迫するために(白木先生のように腰ではなく)、4本指で掴んだ両襟を下に送って腕の力で絞めようとすると、ほぼ確実に親指が頸動脈から外れて、締めが入らない。もちろん、親指が下にズレたスペースに相手の襟が入って、結果的に襟が頸動脈に当たって締めが入る場合もあるが、それは「送り襟締め」の理合としては正しくないと私は思う。
 以前「十字締め」を例に書いた際、B・ファリアが「締めはアームバー等の極め技と違って一瞬でタップが取れるモノではない。100%の力で絞められるのはほんの1~2秒だけだ。だから、相手がタップするまで20秒でも30秒でも締め続けられるように握りを正確にして、10%の力で締め続けられるようになろう」と語っていた話を引用した。
 「送り襟締め」でも事情は同じである。フルパワーで締め続けられるのは1~2秒がせいぜいである。それで自分が疲れてしまって、手がパンパンになり、締める余力がなくなる、もっと悪い場合はバックポジションを失ってしまうというのでは頂けない。「腕で絞める」事はせっかく取ったバックポジションをキープするという観点からも止めた方がいいだろう。

2 以上の話を踏まえた上で、「送り襟締め」に改良の余地はないだろうか。「腰で絞める」事さえ分かっていれば、スパーや試合でタップを取るには充分かも知れないが、次の動画を見て頂きたい。
 https://www.youtube.com/watch?v=DhAona29x2M
 ヘンリー・エイキンスの「送り襟締め」の特徴は、自分の上の手で相手の袖を掴む際の握りが一般的な「送り襟締め」のように4本指ではなく、人差し指と中指の2本指である点にある(厳密には親指を相手の襟の内側に入れて握っているので3本指だが)。
 その利点について、「4本指グリップより2本指グリップの方が相手に切られにくい」という話もしているが、それ以外に彼がこの動画では語っていないポイントがある。2本指で相手の襟を掴んだ後、手首を相手の頸動脈に向けて内側に角度を付けるようにして捻っている所である。これによって、(実際に試して頂けば分かる)自分の中指骨からナックルの辺りが確実に頸動脈に当たる。
 そして、ヘンリーが締める時には(上の動画をご覧頂ければ分かるように)締める際に両腕を全く動かさず、腰の力だけで絞めている。これならば、一度相手の頸動脈を捉えた手が締めに際して外れる事も、締め続けて疲れたりポジションを失う事もない。30秒でも1分でも締め続ける事が出来る。
 話をまとめると、「送り襟締め」のポイントは、①相手の頸動脈に自分の指を確実に当てる②腕で絞めずに腰で締める③(これは必須ではないが)4本指グリップより2本指グリップの方が頸動脈を捉える上でも、相手からグリップを切られにくくなる面でも有利だ、という点にある。
 「送り襟締め」はどうせ掛からないと諦めて、「ボウ&アロー」に行く前に、まずは「送り襟締め」で「頸動脈を捉える」「腰で締める」という感覚を養う事を勧める。「送り襟締め」が出来ればその応用として「片羽締め」も「ボウ&アロー」も簡単に出来るようになる。これを機会に一度自分の「送り襟締め」を見直してみては如何だろうか。
 
注1)日本では「肩固め」と言う人が多いが、BJJでは固め技ではなく締め技なので、海外での用語法に倣ってここでは「アームトライアングルチョーク」と記す(「ヘッド&アームチョーク」という呼称もある)。
参考:https://www.youtube.com/watch?v=_0p90C3-62A

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