一番搾り


1 先日出稽古に来られた方とスパーリングをした際の話である。

 私から引き込んで「ハーフガード」に入っていると、彼はトップから対角に私の襟を掴んできた。「ベースボールバットチョーク」かとも思ったがグリップが逆で、どうも狙いは別のところにあるらしい。こちらから潜ろうと身体を丸めると、彼は空いた方の手で私の背中を掴んで、襟を掴んだ手を引いて絞め上げて来た。
 絞めそのものは浅かったが、このままでは危ないと思って、背筋を伸ばして姿勢を元に戻したら、何とか絞めから逃れる事が出来た。スパーリング後に聞いてみると、「一番絞り」というテクニックを狙っていたそうである。

 そもそも、「絞め」技とは、相手の頸動脈を左右から内側に(→←)押す事によって、脳への血流を止めて、相手を落とす(失神させる)技である。そのためには、相手の頸動脈を正確に捉え、手で絞めるのではなく、腰を使って自重で絞めなければならない(注1)。これが「絞め」技の基本になる。

注1)手で相手の襟を引いて絞めると、頸動脈への「コネクション」が外れてしまう。また、手の力を使うと、フルパワーで絞め続けられるのはせいぜい2~3秒なので、絞めが失敗した時に疲れるから私は勧めない。

 「一番絞り」は、日本人の柔道経験者の方が編み出したテクニックだそうだが、柔道に起源を有する襟「絞め」の変化技は、周りに柔道経験者がいないと初見では喰らってしまう人が多いだろう。そこで、本稿では、柔道に起源を有する襟「絞め」の変化技について、いくつか取り上げてみたい(注2)。

注2)「袖車絞(エゼキエルチョーク)」については、下記で詳しく解説したので、本稿では割愛する。

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