反省だけならサルでも出来る?

1 VTuberに触れた記事に対して、読者の方からコメントを頂いたので、それに対する私の応答を。

 「私は多忙な仕事に追われるVTuberの努力を知っているつもりであるため、『代替可能性のある(=代わりはいくらでもいる)存在に対して、市場価値が1億円も付いている』という記述には真っ向から反論していきます。
VTuberとして活動を行うには総合的な非常に高い能力が必要であり、それに値する社会的価値が、リアルで誰も文句を言えない指標である、投げ銭での1億円という金額に表れているのではないでしょうか。 」

 この反論は正しいと私も思う。
 VTuberを取り巻く環境に市場価値(社会的価値)が生まれるには、VTuberには一般人とは異なる魅力がなければならない。
 
 私の失策は、一億円プレイヤーの動画をわずか20分見ただけで、彼女の全てを分かったかのような書き方をしてしまったことだろう。
 VTuberの市場規模が数千億円もあるからには、VTuberとして活躍している人々は、生き残りを賭けて他者との差別化を図り、自らのブランディングのために相当な努力や創意工夫をしているはずである。
 
 もし私が「一億円プレイヤーたるゆえん」を本当に知りたいと思っていたのであれば、彼女の動画をもっと数多く見るだけでなく、他のVTuberの人々の動画と見比べて、彼女の「売り」や「強み」を理解する努力をすべきだった。
 
 私自身がVTuberになろうと思って成功の秘訣を知ろうとしたわけではないが、「見ずして語る」という愚を犯した事については率直に反省しなければならない。

2 法的な意味での、表現の自由に対する考え方は次のようになる。

 「他者の人権を侵害しない限り、基本的にどのような発言も個々人の自由である」

 発言内容が他者の人権を侵害した場合には、(刑法上は)名誉棄損罪や脅迫罪等に問われるので、「何を言おうと私の勝手」という意味と同義では全くないが、それでも表現の自由の正当な行使として認められる言論の範囲はかなり広い。

 これに対して、自分の言論に対して知的に誠実であろうとするならば、「自分が知っている(分かっている)事以外は黙して語るべきではない」という態度もあり得る。
 ただし、少なくとも私の場合、自分自身についてすら分かっているとは言い難い状況を踏まえると、この態度を厳格に貫こうとすれば、私にはいかなる事象についても語る資格はないという結果になりかねない(「表現の自由」が「沈黙の自由」に矮小化されてしまう)。

 表現者は、この二つの間でバランスを取りながら言論活動をしているハズだが、コメントを頂いた記事に関する限り、私には知的な誠実さが足りなかったというべきだろう。

3 誤解のないように付言しておくと、私はVTuberの方々やそれを応援している人々を非難する気は毛頭ない。  

 柔術を稽古している人々が一般的にVTuberに対してどのような感情を抱いているかは知る由もないが、VTuberの方々やそれを応援している人々のほとんどは、柔術の「存在すら知らない」だろうと思う。
 だから、客観的価値の側面において、柔術の方がVTuberより上か下か?という愚問を発する気にすらならない(その上下を決める客観的な尺度がそもそも存在しないのだから当然である)。

 ただ、今回頂いたコメントを読んで、「無知の知」という言葉の重みを再認識する事が出来た。

 私が子供の頃は、宮崎勤事件の余波でアニメやゲームといったサブカルに対する世間の風当たりは非常に冷たかったように記憶している。
 「オタク」という言葉が生まれたのはそれよりも前らしいが、当時は明らかに差別用語だった。

 私の場合、田舎で育ったせいもあって、子供の頃は漫画やアニメに触れる機会はほとんどなかったが、大学入学を機に上京して以降はそれなりに漫画やアニメに触れるようになった。
 それに対する親世代の厳しい見方に対して、「見ずして語るな」という反発を抱いた事を記憶している。
 
 今アニメを見たり、ゲームをプレイする人々に「オタク」というレッテルを貼って差別する人はほとんどいないだろう。
 「オタク」という言葉の持つ意味がネガからポジに変化したというより、ゲームやアニメを始めとするサブカルが広く認知されて、それを楽しむ人々がマスになったという事かもしれない。

 今回VTuberというこれまで自分が知らなかった存在に触れる事で、私も親世代と同じく「見ずして語る」(「読まずして語る」)という愚を繰り返していた事に気が付いた。
 「(自分が)知らないという事実を知る」事が、知恵を獲得する第一歩だとしたら、今回の件を「無知の知」体験として活かしていきたいと思う。
 コメントを下さった方に対しても、改めて感謝の意を表したい。
 

 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?