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小川洋子「からだの美」を読みました

 小川洋子の文章、特に小説を読んでいると不思議とこういうイメージが浮かぶ。
―真っ白な、不要なものはなにもない、そういう清潔な部屋で、しかしどこかしらに緊張感を保ちながら、座り心地の良い椅子に座って、そうして読書している―
現実はもちろんそんなことはない。ちゃぶ台のそばでお菓子をかじりながらだったり廊下に座りこんでだったりしながら(大変お行儀が悪い)、しかし心のなかは静謐な空気に包まれる。どことなく呼吸の音もいつもより密やかな気がする。不思議だ。
 「からだの美」は、そのままヒトや動物たちの「からだ」の「美」について彼女がスポーツ観戦などの記憶を交えながら語った随筆だ。動物たちへの慈愛と敬意に満ちた視線、様々な場面(主にはスポーツ)での人体の動きへの正確で詩的なまなざし。私だったら同じものを同じように見たとて「凄かった」「かっこよかった」せいぜい「力強くて見惚れた」くらいしか表現できないだろうことを、彼女はこんなにも的確に文字だけで描き出す。たくさん読んで勉強させてもらおう。そう思いました。
 ちなみになかでも「力士のふくらはぎ」は、当時の小さい女の子だった小川洋子さんの悔しい気持ちが、小川洋子の落ち着いた筆致越しでもありありと浮かんできて、ちょっとくすっとしました。

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