チョウザメを知りに浜松へ

北イタリアのアルプスの山の中で



北イタリアの山の中にあるレストランで働いている時、蝶鮫(チョウザメ)を料理していた。その蝶鮫はレストランからさらに山深い所にある養鱒場から届いていたのだが、とても美味しかった。

日本に帰って来て店を開き、日本でも蝶鮫が手に入ることを知り意気揚々と取り寄せて調理したそれは臭い…
他のも試したがやはり臭い…
諦めというかその存在からずっと離れていた。

しかし昨年末にとあるご縁から勧められた今取り扱っている蝶鮫は臭みなど無く、とても美味しかった。

これは現地でいろいろ見て聞きたいと静岡の春野という山の中へ向かった。
この日はブリアンツァグループの社長の奥野シェフと、蝶鮫をご紹介下さった株式会社メメントの伊藤さんと大人の日帰り遠足。

浜松駅に着くと、そこはピアノと車のSUZUKIの街であった。

奥野シェフ。
この車とセレブシェフで大柄な彼とのアンバランスなコントラストが楽しめた。



改札口を出て待っていると、なんだか豪華な車が俺たちを迎えに来ていた。聞くところによると、なかなかの企業が他に何か事業をやりたいということで始めたらしい。それはもちろん蝶鮫の肉ではなくキャビア産業である。

この会社の蝶鮫事業の全てを担っている担当の中村さんの運転の下、浜松から山の中へ走ること2時間、その養殖書に到着した。

結論から言う。俺は蝶鮫のことを何も知らなかった。

綺麗なゲストハウスのようなところに通され、先ずは中村さんから蝶鮫のレクチャーを授かる。

正直、ここが一番重要で面白い。
箇条書きに並べてみる。


蝶鮫について


  • 蝶鮫は鮫ではない

今回、先ずはこれからお伝えしたい。
キャビアで知られる蝶鮫は、あのシャークこと鮫とは一切関係ない魚だ。
そもそ歯も無く、自身のツノで土の中の生き物を食べたりしている魚で、大きな生き物を襲ったりすることは無い。というか有り得ない。

  • 蝶鮫とは

蝶鮫(チョウザメ)は2億5000年前からいる生き物で、あまり進化してこなかった魚類。
非常に長生きで150年生きる。
鮫とは全く別物だが似ているから日本では鮫と云われる。海外では鮫とは呼ばない。
チョウザメの蝶は、背中の鱗が蝶の形をしているからだそう。

その鱗。

現在はワシントン条約により保護品種の為、食用としては養殖の個体のみである。


  • 生態

天然のチョウザメは鮭と同じで、川で産まれ海で生きて、また産まれた川に遡上して産卵する魚類。鮭と同じ。
その生態は面白く、近くに雄がいないと卵を産まない。そうすると卵がドロドロになっ行くそうで、ちょうど良いタイミングを見るために画像の針のような道具で卵をチェックするそう。

卵をチェックする道具

卵を産まない場合、それはドロドロになっていくわけだが、何故かというと蝶鮫の雌は溶けてきた卵を自身の栄養として吸収していくそうで、最後は無くなってしまう。
(因みに卵を持つのに2年かかるという。)

そうしたことや非常に筋肉質、そして低い水温でも高い水温でも生きれる特殊な淡水魚であり、進化せず生き延びた魚類。

  • キャビアについて

    キャビアの歴史は最初はカスピ海で蝶鮫を塩漬けにしてイタリアに運んでいたが、ある時その卵を食べたら非常に美味しく、卵も食すようになったらしい。最初にキャビアが食べられるようになったのは実はイタリア。
    とにかく肉がとても重宝されていてイギリスの皇室やローマ教会などにも愛されていたよう。ロイヤルフィッシュである。

品種はオシェトラ、セブルーガなどの他にも実は色々いて、どれも普通にキャビアを生産できる。

これは昔ロシアがブランドした3種だけが有名になったそう。
画像は現存するチョウザメの種類

通常キャビアはフレッシュと加熱処理されたパスチャライズの2タイプがあるようで塩分濃度は通常6%で10%と非常に濃いものまであるそう。
この浜松の春野のキャビアは3%に抑えていて賞味期限が短い。




  • 春野養蝶鮫場について

この養殖場では、綺麗な軟水の井戸水を常に流している水の綺麗な素晴らしい養殖場だ。
餌も育てる餌と仕上げの餌と分けたりして臭みが無いようにしているとのこと。

また養殖ではチョウザメに認められている薬品はゼロ。

しかし輸入キャビアは日本では認められていないホウ酸がら使われているのに、スルーで販売されているのが実情だそうで、春野キャビアはホウ酸もは入っていないので賞味期限が短い。

また4月から10月は卵を持たないらしく、春野キャビアの出荷はこの時期は無いのもこちらの拘り。

レクチャーの後に実際の蝶鮫に会いに養殖場へ向かったが、ここでは技術的なことが詰まっているので撮影は禁止。
中に入ると臭みは一切ない清潔な養殖場で、各生簀の中で蝶鮫達がゆったりと泳いでいた。

同行したブリアンツァグループ社長の奥野シェフと、今回ご紹介頂いた伊藤さんと記念写真。

以上が蝶鮫についてである。


蝶鮫の食事

さてさて、お腹もすっかり空いたところで、蝶鮫含めた豪華な昼食が始まった。

まずはこちらのキャビアを。通常のキャビアの2/3から半分の塩分濃度のキャビアは文句なく美味しく、塩によっての味の影響がかなり大きいことも実感できた。



蝶鮫のカマの部分の塩釜焼き。それに付ける魚醤が運ばれて来た。
色が黒い。
そう。
キャビアの魚醤だ。

美味い…

最後は漬け蝶鮫が卵黄に絡められながら、キャビアと共にTKG。

高級食材の探求でなかったのだが、豪華な食事に舌鼓を打った。


実際にフィオッキで提供中の料理はこちら。
蝶鮫の身をムニエルにし、マルサラワインと豚のスープとクリームの古典寄りの仕立て。リコリスのパウダーをアクセントにしている。ピエモンテの山奥のリストランテ・フリッポーでの料理をオマージュしている。


見学と食事を終え、帰りも浜松駅まで送っていただきながらテンション上がりまくったままの大人3人。帰りの新幹線と着いた東京駅でもお酒が切れることはない遠足であったのは言うまでもない。



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