2021年の夏、日本人選手の大活躍に熱狂した「東京オリンピック」。
灼熱の東京で繰り広げられた筋書きのないドラマに、
たくさんの感動をもらいました。

私は、学生時代に目にした五輪のあるシーンが、
今も脳裏に鮮明に焼き付いています。

それは、1984年ロサンゼルスオリンピック、重量挙げ男子82.5kg級。

私がＴＶのチャンネルを回したときには、既に競技は佳境に入っていました。

そこで優勝争いを展開していたのが、日本の砂岡（いさおか）良治 選手でした。
彼がメダルを争うライバル２人は既に３回の試技を終え、
残るは砂岡選手の最終試技…。
この結果で順位が決まりますが、最終試技を前に、
彼は難しい選択を迫られます。

これまでの大会でクリアしてきた重量を挙げれば暫定２位を上回り、
銀メダルはほぼ確実でした。

しかし、暫定１位を超え金メダルを取るには、
これまで一度も成功したことのない重量を挙げなくてはなりませんでした。

３回目の試技に失敗すれば、銀メダルを逃します。

その時、彼は…

「銀メダルはいらない！」

そう言い残し、未知の重量207.5kgに挑みます。

銀メダルを捨て、自らの限界を超える闘いに果敢に挑んでいく姿に、
4,000人を超す会場は大歓声に包まれ、
観客は床を踏み鳴らしながら大きな拍手を送りました。

気合と共にバーベルを握る砂岡選手。
息をのんで見守る観衆……。

しかし、バーベルを肩まで引き上げたところで、
全ての力を使い果たし、無念の失敗……。

結果は銅メダルに終わりました。

その後に行われた「表彰式」。
そこで私は、驚きの光景を目にしました。

砂岡選手の名前がコールされると、
会場は、ものすごい大歓声と、割れんばかりの大拍手に包まれました。
観衆は、金メダリスト以上の大歓声で彼を讃えました。

そう言わんばかりに…。

どんなに強敵でも、勝てない相手だとしても、
奇跡を……、いや、自分を信じて、全力を尽くして立ち向かった。
相手がどうとか…
状況がどうとか…
可能性がどうとか…
そんなことはどうでもいい。
ただひたすらに、最後まで自分の夢を追い続けた…。

人の生き方、考え方は、様々です。
どの道が正しいかなんて、誰にも分からない。

ただ、頑張った先にしか見えないものがある……。

夢への挑戦に敗れた砂岡選手は、
もしかしたら、
金メダリストですら見られない
最高の景色を見ることができたのかもしれません。

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