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種類の多い単生類

前回の記事で、コガタツカミムシの仲間の新種を発見した論文が出版されたことを紹介しました。その時に、コガタツカミムシの仲間は74種もいて、とても多い事も述べましたが、この単生類は種類が多いだけではなく、新種もどんどん見つかっています。なんと、今年だけで4種も見つかっており、2019と2020年にも合わせて8種の新種が報告されています。今回は、そんなコガタツカミムシについてお話しします。

カサゴのエラに寄生していた単生類です。これが新種であったことはのちに気づきました。

単生類って?

寄生虫といえば、アニサキスやサナダムシなどの名前を思い浮かべるのではないでしょうか?それらの寄生虫と比べると単生類はマイナーです。マイナーな理由は、単生類が主に魚類にしか寄生せず、ヒトに害を与えないためだと思われます。
単生類は扁形動物門単生綱に属する寄生性の動物で、魚類の体表やエラにはりついている外部寄生虫です。体の表面にはりついているわけですから、しがみつくための吸盤を持っています。色々と議論がなされていますが、今のところ単生類はこの吸盤の種類で大きく2つに分かれます。体の後端に大きな吸盤と鉤をもつ単後吸盤亜綱小さな把握器と呼ばれる吸盤を複数もつ多後吸盤亜綱で、コガタツカミムシは後者の方に属しています。
ちなみに、単生類に寄生されても宿主の魚に害が及ぶことはまずありません。ただし、養殖場のように閉鎖された空間に大量の魚が押し込まれたことろでは、単生類が水中に放出した卵が別の魚の体表やエラに付着しやすくなるため、単生類が大量発生することがあります。単生類が大量発生すると、養殖場の魚の血液が過剰に吸われたり、皮膚の粘膜を広範囲にわたって食べてしまうことから、魚病の原因となってしまいます。

カサゴに寄生していたマハタハダムシです。体の後ろに大きな吸盤があります。吸盤の中にある2対の鉤は見えますか?

コガタツカミムシって?

コガタツカミムシは、体長が2,3mm(中には2cmくらいのものもいます)くらいの小さな寄生虫です。体の形は紡錘形で、体の後端に小さな把握器が並んだ吸着盤があり、名前の由来になっています。体は半透明で顕微鏡で注意深く観察しないと見つけるのは難しいです。雌雄同体で体の中に卵巣と精巣(精巣が複数個あるのも特徴的です)がありますが、必ず他の個体と交尾をします。エラから宿主の血を吸って生きているため、先述したように養殖場で大量発生して魚病の原因となっている種もいます。
1863年にLabrus bergylta(魚の名前です)のエラからMicrocotyle donaviniが初めて見つかり、これがコガタツカミムシ属の第一号となっています。これ以降は、M. donaviniと同じ特徴を持つ単生類をコガタツカミムシとして分類するようになりました。どうも昔は、体が左右対称の紡錘形で、体の後端に小さな把握器が並んでいたらコガタツカミムシとしていたようで今よりもたくさん種類がいましたが、現在は別の属の単生類に分類されています。

マダイソウチツムシ(Bivagina tai)です。これは最初はMicrocotyle taiというコガタツカミムシの1種として報告されていました。名前にあるように、膣が2つあることからBivagina属になりました。

日本のコガタツカミムシ

生物は発見されると学名と呼ばれる名前がつけられます。これは、国際的なルールに則ってラテン語でつけるのですが、全くなじみがありません。Homo sapiensと言われたらヒトとわかりますが、Pagrus majorと言われてもどんな生物かわかりませんよね。そのため、日本でなじみの深い生き物には和名という日本語の名前がつけられており、Pagrus majorはマダイと言われています。日本で見つかっている単生類(というか寄生虫)のほとんどに和名はついていませんが、クロソイやキツネメバルに寄生しているクロソイコガタツカミムシには唯一和名がつけられています。日本では、北海道や東北の魚からの発見の報告くらいしかありませんが、クロソイを好んで食べている韓国や中国では、日本よりも韓国や中国からクロソイコガタツカミムシの論文が出版されています。

クロソイのエラから出てきたコガタツカミムシです。先述しましたが、半透明なので体の詳しい状態がわかりません。種同定を行う場合は、上の写真のように染色して行います。

幻のコガタツカミムシ

現在のところ、日本には18種のコガタツカミムシがいるとされていますが、かつて19種目のコガタツカミムシがいました。しかも、養殖場で大発生して魚病の原因となるため、魚病学の教科書に「ミクロコチレ症」の病原として紹介されていました。
そのコガタツカミムシは、Microcotyle sebastisciという学名で1958年にカサゴに寄生する単生類として報告されました。ただ、このM. sebastisciにはMicrocotyle caudataというメバル類に寄生するそっくりな単生類がいることが知られていました。両種の違いは精巣の数だけで、メバル類からもM. sebastisciが見つかっていたことから、分類学上の混乱が生じていました。
2020年の論文で、両種に遺伝的な違いがないことが報告され、両種は同種であることされました。そのため、先に発見されたM. caudataの名前が有効とされ、M. sebastisciはシノニムとして使われなくなりました。しかも、この論文でカサゴから新種Microcotyle kasagoが発見されており、カサゴのミクロコチレ症の原因はM. caudataなのかM. kasagoなのかわからない状態になっています。

メバルのエラに寄生するコガタツカミムシです。

日本魚類学会によると、2023年12月7日で日本には4,707種の魚類がいるということですが、これまで日本で報告された単生類は290種しかいません。これは、単生類に寄生されている魚類が少ないのではなく、ほとんど調べられていないためです。先述したコガタツカミムシの新種が次々(といってもここ3年で2種ですが)と見つかっているのもそれが原因だと思われます。身近な魚から新種の寄生虫が見つかるというのはこれからも起こることかもしれません。


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