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記事一覧

わたしとわたしの思考のような異物。

異物でないものがあるのなら退屈な宇宙に浮かぶようなもので
途切れ途切れの声すらも愛おしいほどに僕らは異物で出来ている
ゆっくりと進む流れ星をひとつまみだけ口に投げ込んで味わう
蜂蜜みたいに甘いそれに記憶があるか問いただしてみると
猫のように転がりながら頬の内側を甘噛みされたりする

縞模様でできた街を見下ろしながらあみだくじみたいに世界は動く
蜂の群れが巣を離れたらわたし達はどうすれば良いのだろう

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無題

生真面目な天候が指示を出すせいで
わたしの頭が縛られてゆく
肌を這う蔦に食い荒らされた女を
覚えている者などいない

肥えた雀が空に実った
季節外れの華やかな香りは
擦り合わせた枝の先に
恋い焦がれた高く青い天井

見間違えるほどの瞳に
聞き間違えるほどの声
動けぬ姿のまま主人の帰りを待った
飼われているのはわたしだけではなかった

蔦に付けられたちいさな切り傷が
じわりと涙を滲ませている
生真面

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無題

剥ぎとられた花びらは未だ鮮やかな黄金を保ち
残された身体には発疹のような醜い痕だけが広がる
小さな花びらのスポットライトの上で影になって踊れば
全てを飲み込んだ香りは呆れるほど簡単に終わってしまう

長い髪に染みついた香りをわたしと呼んで愛するべきか
ひと時も休むことなく続く気怠げな移ろいの中で
嘲笑を受ける夜道にわたしの身体を獲物としておき
音がなければ踊れぬか、昨日がなければ生きれぬか

吐き

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夏に捕らえられた街

高温に熱せられた街はいつまでたっても鈍感なままだ
横になった道端に吐き出した情緒というものがへばりつく
大きく振動するように心臓は不規則に疼いている
わたしの穴ぼこに放り込んだ陽炎をこの街は知らない

道徳に反した答えよりも汚らしい汗を舐めとれる
季節の死んだ街に木の葉が舞う幻を共有したい
古ぼけて所々が欠けた現にため息を共有したい
どこからともなく聞こえる怒鳴り声が赤子の泣き声に変わる

まっさ

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眺めの良い小さな部屋

細かな心を混ぜ合わせて
自らの口へ詰めたい
きつく結んだ靴紐を
解くことができないと泣いたから
ここは眺めの良い小さな部屋

消えてしまいそうな幻と
離すまいと泣くわたしは
微睡の中に柔らかな影を見つける
四つ角にある結び目だけを頼りに
曖昧で作られたその部屋が
力のないものだと思い知る

霞んでゆく視界が愛おしいのは
流れる景色をかき消すたびに
渇いた目元が激しく疼くから
どこか遠くで揺れる影が

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太陽は好いているか

太陽は好いているか

収縮する太陽に熱を帯びた頬を晒した
やけに騒がしい昼の街に降り立ち
大まかな見てくれだけを受け入れた
ほころびは彫刻刀で彫ったビルに
退屈な瞳をいくつか飾るだけで
思いがけず今年の夏の海に似ていた

ちょこまかと動く群れに写るのは
半分に千切れた痛々しい双子の女児
足並みを揃えるふりをしながら
汚れた革靴の踵を何度も狙っている
踏み込む度にじわりと滲み出る光が
来年の夏の海になるのか

慣れたもの

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世界にはわたしだけがすべて

「裸婦のような時間を掻い摘んだ生き方をしている」と聡明なふりをした
誰にも愛されない世界に嫌われた頭痛を誘発する光
異様な美しさを「女である」という言葉で片付けた野郎は
手の届くほどの高さから落ちた優しさで消えていった

漲るような揺蕩うようなしぶきを浴びるたびに泣いた
熱いとも冷たいとも言い切れないような外気に触れた時間
猫撫で声で呼んだ夜の群れに二股になった口づけ
並んでいる乳房に荒れた肌は負

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西に向けて滞りなく

狂ったまま思考は進み続ける
僕らが僕らである必要はない
みしみしと軋む幻を見つめながら
足りない酸素を奪い合う
ザラザラとした画質に
ジャジーなBGMを添えて

手足のないマスターベーションが
頭すら切り落としてしまう
泣き声が聞こえる前に熟れた実が落ちる
少しつんとした甘みが
快楽を首元から放出した
全てを生かすほどの酸素は持ち合わせない

乱列した誓いの粗を見透かした日差し
空の見えない窓から

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白い夏

白い夏よりもやつれた頬に手を伸ばした
蝶番を外す、指先にとまるのはひぐらし
いい加減に結った後ろ髪と足元でぬかるんだ芝

その場所よりも不確定な産物を
ちっぽけな全てを大それたものにする
夏の日差しを手に入れて
大それたそれらが崩れ落ちるタイルの壁に
力ない言葉が飛び交い、汗が滴る

鼻先に見境のない刃が見え隠れして
ヒリヒリとする、肌にとまるのはひぐらし
ぬかるみに沈み込む文字列に
わたしへの想

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これも一種の華やぎ

呼吸を繰り返すように君らは嘘をつくでしょう
わたしはわたしで塊を噛み砕くような笑い声を立てるから
力なく散る花にひらひらと手を振るべきでしょう、終わりに

じっとりとした汗を指の先で拭いながら食べ損ねた過去を隠さなくちゃならない
溶け出した日差しに結び目よりも下の方で素敵
輝きです、これは一種の輝きです

手を高く伸ばすと聞こえる心臓の音が耳障りで
ちくちくと刺した君らの心臓から滑らかな刺を摘出す

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海の詩かネオンの詩

海を友と詠む詩を
理解できる人はどれだけいるだろう
眺めのいい明日は見つからず
止めどなく消える彼らに
とどめを刺すのはわたし

夜は日が過ぎるたびに暗くなり
いくつもの塊が身体で弾ける
煌びやかな海底を眺める
水面を滑り落ちるように消えた
その詩を胸に飾り付けた魚のよう

エラがいやらしい動きをして
もっとつまらないものを選んでいる
泳いでいるのか浮かんでいるのか
そんなに違いはないのだし
息を

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強い香り

馬鹿みたいな白いビル群の頭上には長く続くカッコ書きがある
弧を描いて美しいそれは去ってゆき現れるものもまた美しいそれだ
名前はなく、名前もまたそれには寄り添わない

春の風はわたしを包むように傷をつけるのに
捻れた彼らとの繋がりを切り離してはくれない
そんな嘘をつきながら、わたしは強く握った手を離せずにいる

その花の強い香りはあのビルの先端まで届くだろうか
それを知らないわたしが知ってい

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枝切り鋏

さらに風に煽られる身体に
染み付いた甘酸っぱい匂いを抱く
丸みを帯びたあなたを
弱々しいいっぽんの枝で支えた
ぱつんと鳴らしながら
枝切り鋏は仕事をする
騙されやすいわたしは
季節だけは嘘をつかないと知っていた
くだらないものからは
くだらないものしか生まれないと
なんだかんだで知っていて
ぱつんと鳴らしながら
わたし達の弛んだ腹部は
枝切り鋏に真っ二つにされた
仕事をしないことを咎められ続ける

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今日の空

今日の空はみっつの色で作られていて
そうでなかったらわたしは
道端に転がる石ころみたいになっていた
花開く夜と彼の小さな瞳が嫌いだったと
思い知るのはいつになるだろうか
止まった時よりも
消えてしまった感触の方が
惜しいものだと知るのはいつか

わたしはみっつの色で作られていて
そうでなかったらわたしは
やけに長い暖かな日に
間延びした白い光を見た記憶
知る事ができないのは
何を知りたいかを知

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