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アニメスタジオのプロデューサーからみた映画「サマーゴースト」の総括と発表。

あけましておめでとうございます。

昨年11月に公開した「サマーゴースト」。
loundrawの初監督映画作品であり、FLAT STUDIOとしても初めて制作した映画作品でした。このようなご時世のなか、劇場に足を運んで下さった方が居たことがただただ嬉しかったです。
この場をお借りし改めて感謝申し上げます。

この記事の最後に、ささやかながらひとつ「サマーゴースト」に関わる発表をさせて頂きたいのですが、すこしだけ、お付き合い下さいませ。

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「サマーゴースト」

loundrawが描いた1枚のイラスト「Summer Ghost」から始まった作品。
多くの表現者たちと同じく僕らも"想いを伝えたい"と、未経験者特有の周りの見えなさも功を奏してスタートしたプロジェクトでした。


「僕らのような小さなスタジオがゼロから劇場作品を作れたら、きっと何かが変わるはず。自分たちの人生も前に進むに決まってる。」


そんな期待と高揚感、夜明けは近いんだ、と。もちろんアクシデントは起きるだろうと思いつつも、不安よりも未来への手応えの方が大きい、そんな心境でした。
公開からすこし時間が経ってはいますが、このタイミングで「サマーゴースト」とは何だったのか総括しようと思います。
そして、それをするためには自分自身を振り返る必要がありました。

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僕は仕事をするうえで「したい」という感覚よりも「必要がある」という気持ちが、行動する上でのエネルギーになることが多いです。

所属作家がスケールするにはこれをする必要がある。
スタジオが次のステップに進むにはこれをする必要がある。
自分たちにはこれが必要はなずだ。
楽しいから仕事をするのではなく、自分の人生を少しでも良いものをするためにも仕事を愉しむ"必要"があるーー。

結果を出すことに重きを置くからこそ(多少の)結果は出るものの、果たしてその考え方が自分を豊かにしているのだろうか。
そんな問いが立ち上がると僕はしばしば考えることを止めました。正確には思考を止めることはできないので、別のことを考えてやり過ごしていました。

そうやっていったん自分の感情を放置して、次にいくために必要なプロセスをひたすらに進むこと。当然進んだ先で何が見えるかは分かりません。
疲弊していくクリエーター、思い通りにならない制作物、お金も時間も足りずに少しづつズレていった歯車。

泣き、笑い、怒り
出会い、別れ。

約3年をかけて制作した「サマーゴースト」は、当初の期待とは裏腹に、今まで自分自身が前進するために蓋をしてきた存在を見直すきっかけになりました。

作品を企画するとき。
その作品を通して何を伝えたいか、作品の核となるコンセプトは企画当初から定められていることが多く、そのメッセージを伝えるためにゴール(=完成)を目指す作り方がアニメ映画では一般的かもしれません。
ですが、「サマーゴースト」は最初から作品の核となる明確なメッセージがあったわけではなく、余白を多くするという性質上、自分たちですら作品の核(=メッセージ)を説明する言葉を掴みきれずにいました。


「本当は何がしたいの?」


絢音から発せられる友也への問いかけは、そのまま自分たちへの投げかけとなりました。
脚本が完成してから本格的に制作に着手したのは2021年1月末。当初計画していた作り方が予定どおり実現できたかというと、ある意味順調に計画が逸れていったのが実情で、自分が把握してる範囲で、完成を諦めギブアップとなりそうな瞬間は3度ありました。

友也、あおい、涼、絢音

今の現状に苦悩しつつも前を向こうとする姿勢。彼らにそのような姿勢を求めるのであれば、自分たちも同じ枷を背負う必要がある。なにがあっても完成させる必要がある。本音を言えばいっそ投げ出した方が楽で、きっとコアメンバーの誰しもが一度はよぎっただろうと推測します。
自分はこんなときでも"必要"に迫られ、"必要"から逃れられずにいました。

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そして、劇場の決定、告知解禁。
もはや"したい"とか"必要"などと考えている余裕はなく、やりきる以外ない。選択肢はそれしかない。泣き言を言っても始まらないですし、プロとしてステージに立つのであれば、ここだけは外せない。

短編とはいえ多くのクリエーター、スタッフ、関係者が参加しています。
今まで携わってきたプロジェクトが短距離走だとしたら、「サマーゴースト」は長距離走で、結局のところ”走る”という行為は同じなんだから大丈夫、という当初の楽観は、本当に楽観だったと途中で気づくも、気づいた頃には走りを止めることも、走り方を変えることも出来なくなっているのが中長期プロジェクトの難しさ。自分の経験不足を思い知りました。
(毎クール、新たなアニメがローンチされますが本当にすごいことですよ)

そうこうするも公開に向けて作品制作は相も変わらず続いていきます。


「いろいろあるけど一歩踏み出そうか」


僕らのなかで生まれた作品を通して伝えたいこと。
最初から実感を持てた言葉ではなく、作るなかで徐々に輪郭が生まれ、実体を持ちはじめた言葉。アニメーション作品は実写作品と異なり制作が始まるとマジックは起きないと言われていますが、ある種のマジックが生まれた瞬間。

作品を生み出したはずの自分たちが、作品によって自分自身を保つことが出来た。友也、あおい、涼、絢音が発する言葉に背中を押され、劇中に流れる音楽に心洗われ、作ることで前を向くことができた。
なかば自分たちに言い聞かせるために発したこの言葉こそ「サマーゴースト」の核となるメッセージに"なっていき"ました。

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多くの方に心配されながら作ってしまったことで、偉そうなことを言える立場でもなければ、決してプロフェッショナルとは言えない自覚もありますが、作ること、諦めないこと。
これこそが「サマーゴースト」を通して僕ら自身が伝えられることでした。

本来、努力や苦労なんてものはわざわざ言葉にして伝えることでもないわけですが、伝えることで何かが少しでも変わるかもしれない。
"必要"はないけれど"したい"。そう思いました。

「頑張れ」

作中で死者が発する言葉。
ある種の暴力性を帯びてしまう言葉でもあり、この世界を生きるためには自分を大切にすることが大事だとも当然わかってる。
けれど、僕は「頑張れ」と言いたいし、言われたい。
「サマーゴースト」を観たとき、そう思いました。

長らく引っ張ってしまいましたが、お知らせです。既出情報ですみません。
僕らが「サマーゴースト」を作る約1年間に密着したドキュメンタリー映像がBlu-ray完全生産限定版の特典として収録されます。
(詳しくはコチラへ)

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"映画「サマーゴースト」制作ドキュメンタリー「夜明けより前の君へ」"

監督は写真家の鳥居洋介氏が務めています。
最終的に本編よりも長い約80分の映像になってしまいました。

「いろいろあるけど一歩踏み出そう」を純度高く伝えるためにも、この作品パッケージでは、映画作品としての「サマーゴースト」本編と、それを作るloundraw、FLATSTUDIOの制作者たちの姿を映したドキュメンタリー「夜明けより前の君へ」を表裏一体の映像作品として発表しようと決断しました。

「サマーゴースト」を作る過程でどんなことがあったのか。
打ち合わせの模様や収録風景、作品制作の様子。クリエーターたちの苦悩、減っていく体重……笑 

作品は作品で語るべき、という視点も重々承知しつつも、ほんの少しでも、良かれ悪かれ、誰かの何か感情を動かせたら。
是非お楽しみいただけますと幸いです。

最後に。
少しでも「サマーゴースト」に関わってくださった皆様。
本当にありがとうございました。そして、お疲れさまでした。

loundraw、佐野徹夜とFLAT STUDIOを設立してからというもの「伝えることがある」と、ある意味勝手な使命感に駆り立てられ走ってきました。
これまで何かを「与える」ことこそが愛であり、貢献であり、メッセージだと信じてきましたが、「与える」ことではなく「受け取られる」ことこそがその本質なのかもしれない。そういう心境の変化もありました。


石井龍
https://twitter.com/ishii_ryu

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