亀野あゆみ

40年にわたる企業人生活を通して考え続けてきた《働くこと》と《個人と組織の葛藤》をSF…

亀野あゆみ

40年にわたる企業人生活を通して考え続けてきた《働くこと》と《個人と組織の葛藤》をSFファンタジーに託して描く #お仕事小説 です。ごひいきのほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

マガジン

  • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第3話 産業医の闘い

    クローン・キャストも人間という強い信念をもつエル・スリナリ医師は、クローン・キャストを道具としかみない「日本昔話再生支援機構」の業務システム、文化と闘い続ける。

  • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち

    地球連邦政府に雇われたスパイたちが「日本昔話再生支援機構」の闇を暴こうと動き始めていた。

  • 日本昔話再生機構ものがたり 第6話 乙女の闘い

    ヘルプデスク担当の乙女は、ラムネリウム鉱山送りの処分を受けたコーイチを弟のように思っていた。『鶴の恩返し』でコーイチに救われた沙知がコーイチと彼女の交信ログのメモリーを持って乙女を訪ねて来たのを機に、乙女はコーイチの処分撤回に向けた闘いに挑む。

  • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第8話 求む、目撃者

    動物しか登場しない『猿の尾はなぜ短い』を演じるケンタとテッタ。人間に目撃され言い伝えられなければ、自分たちの演技は無駄になるのではないかと不安になる。

  • 日本昔話再生機構 第7話 小梅のままならない日々

    クローン・キャスト小梅。『屁こき嫁』で特大オナラでなく特大クシャミをしてしまったところから、ままならない日々が始まる。

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「日本昔話再生機構」ものがたり

#創作大賞2022 応募作品 「日本昔話再生機構」に所属し「むかし、むかし、あるところの日本」に時空ジャンプして日本昔話を再生するクローン・キャストたち。彼女ら/彼らは、昔話再生の道具として扱われる理不尽と過酷な労働環境にもかかわらず、「機構」が強制する道具としての価値とは別なところに自らの存在価値を見出し、日々、昔話再生に務めていた。この物語は、そんなクローン・キャストたちと、彼ら/彼女ら に関わる人間たちの生きざまを描いた #お仕事小説 である。 1.作品の構造=独立

    • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第3話 産業医の闘い 2(最終回)明日へ

      『第4話 スパイたち 6. カウンターパンチ』からつづく  『第6話 乙女の闘い 11(最終回)明日へ!』からつづく  スリナリ医師は、産業医として赴任した新しい組織で従業員の健康管理記録に目を通していた。スリナリ医師が与えられたオフィス兼診療室は厚い防音壁で覆われた窓のない部屋だったが、それでも外の騒音と振動が伝わって来て、テーブルの上のラムネソーダのグラスを揺らした。 「思ったよりひどいな」 スリナリ医師は声に出してつぶやいた。ひどいというのは、この組織の健康管理

      • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 7(最終回)明日へ

         サタリアは、新しいオフィスでニューラルコンピュータを立ち上げた。オフィス移転を期に、新しい機種に交換されたので、作動が格段に速くなっていることをサタリアは喜んだ。  ドアが生体認証が入室者を確認したピーという電子音を発し、「スカウト」が入って来た。「スカウト」は50代の地球人男性で、地球連邦中央情報局のためにラムネ星人の工作員をスカウトしている。サタリアも彼にスカウトされて、ラムネ星浸透チームに加わったのだ。 「スカウト」が室内を見回して、言った。 「前のオフィスよりさ

        • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 11(最終回)明日へ!

           乙女は官舎でカップを手に、時間が来くるのを待っていた。カップの中は地球産のコーヒー。特別なときに飲むため食品庫の奥にしまってあるものを、今日のために出してきた。  時間がきた。 「育成部長、乙女さん、聞こえていますか?」 頭の中でリンの涼やかな声がした。 「聞こえています」 「では、これから実験を始めます」 リンが緊張した声になった。  乙女の頭の中に何かが入ってくる感じがしたが、それは恐怖や不安を感じさせるようなものではなかった。 「乙女はん、わての声が聞こえとるか?」

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        「日本昔話再生機構」ものがたり

        • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第3話 産業医の闘い 2(最終回)明日へ

        • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 7(最終回)明日へ

        • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 11(最終回)明日へ!

        マガジン

        • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第3話 産業医の闘い
          11本
        • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち
          8本
        • 日本昔話再生機構ものがたり 第6話 乙女の闘い
          12本
        • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第8話 求む、目撃者
          4本
        • 日本昔話再生機構 第7話 小梅のままならない日々
          5本
        • 「日本昔話再生機構」ものがたり 第1話 ヘルプデスクの多忙
          13本

        記事

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 6. カウンターパンチ

          『第4話 スパイたち 5. けがれたビジネス』からつづく 『第6話 乙女の闘い 10. 作戦』からつづく  サタリアは、「日本昔話再生機構」が試行目標回数を超えて昔話再生を試行した際に「昔話再生審査会」が成立判定を歪めている可能性が極めて高いことを突き止めた。チーフーは「昔話再生審査会」が「機構」からワイロを受け取っているものと判断した。  ジョモレはラムネ星人の審査員をハニー・トラップにかけ「審査会」の内情を吐かせようと主張したが、チーフはこれを却下した。  彼は連邦

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 6. カウンターパンチ

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 5. 癒着の状況証拠

          『第4話 スパイたち 4. 地球連邦政府の陰謀』からつづく  ミラ・ジョモレとチーフが男女の関係にあり、チーフがジョモレの意を受けてサタリアをオフィスに閉じ込めた。そのショックで、サタリアは床に座りこんだ。  しかし、そのショック以上に、自分たちを守るために情報提供者を見殺しにする諜報活動の冷徹さがサタリアを打ちのめしていた。  サタリアたちは、地球連邦中央情報局がラムネ星でスカウトしたラムネ星人工作員で構成されるラムネ星浸透チームで、「昔話再生審査会」と「日本昔話再生機

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 5. 癒着の状況証拠

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 6. けがれたビジネス

          『第4話 スパイたち 5. 癒着の状況証拠』からつづく  朝8時半、カレリアをオフィスに閉じ込めたチーフが出勤してきた。 「昨夜は済まなかった。私も、君がスリナリのところに駆けつけかねないと思った」 チーフは、自分がジョモレと寝ていたことを悪びれずに認めている。 ――さすが、私以外は海千山千のベテランたちのリーダーを任されているだけのことはある。 「スリナリは、大丈夫だ。ジョモレが言ったとおり、今どきの睡眠薬を、どれだけ飲んでも死にゃしない。奴はヤケクソになっただけだ」

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 6. けがれたビジネス

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 10. 作 戦

          『乙女の闘い 9. 明かされる真相』からつづく 「そういう背景があるのでは、ラムネ星人が運営する『日本昔話再生機構』が『昔話成立審査会』と癒着したことを、地球連邦政府は絶対に許さないでしょうね」 リンが言った。 「普通なら理事長以下、幹部全員がクビのすげ替えになるところです」 とスリナリ医師が言うと、育成部長が否定する。 「いいや、プロジェクト管理部長だけは居残る可能性が高い」 「それは、管理部長が立ち回り上手だからですか?」 乙女の問いに、育成部長が答える。 「それも、

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 10. 作 戦

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 9. 明かされる真相

          『第3話 産業医の闘い 9. 自 白』からつづく 『センセも、わしも、ひどいオンナに会ぉうてしまいましたなぁ」 ミラ・ジョモレの自白を聞き終えた育成部長がため息をついてスリナリ医師を見た。 「まったく」 スリナリ医師がうなずく。  前回の呼吸困難――スリナリ医師に会うための仮病だが――の経過観察という名目で診療室を訪れていた乙女は、自分も性欲抑制の遺伝子操作を受けていなかったら、こういう泥沼にハマる可能性があったのだろうかと思い、背筋が寒くなった。 「お二人とも、ご自分を

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 9. 明かされる真相

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第3話 産業医の闘い 9. 自 白

          『第6話 乙女の闘い 8. セイレーン』からつづく  スリナリ医師は、ジョモレに指定されたリニアモーターカー駅のホームに降り立った。ホームの反対の端にリンの姿を確認してから、エレベーターで改札口に向かう。  指定どおり駅前のロータリーのベンチに腰を下ろしたスリナリ医師は自分の心臓の激しい鼓動に気づいたが、その高鳴りがこれから起こることへの不安だけでなく、ジョモレに会えることへの期待からもきていることに気づき、それを恥じた。  ロータリーに交わる大通りから一台のLVが現れ

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第3話 産業医の闘い 9. 自 白

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 14.(最終回)光 点

          『第5話 浦島太郎の苦悩 13. 心 棒』からつづく  タローの身体は、担当医が処方するいかなる向精神薬も受け付けなかった。どの薬に対しても嘔吐や湿疹など激しい副作用が起こり、医師が苦心惨憺して処方する薬は、すべて3日で投与を打ち切らざるを得なかった。 「彼は治ることを放棄している」 担当医は病室から廊下に出ると、首を横に振りながらつぶやいた。久しく見舞いに訪れないキキョウを呼び出す日がそう遠くないことを彼は感じていた。  いまや身体を動かすことはおろか、口を開く気力も失

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 14.(最終回)光 点

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 13. 心 棒

          『第5話 浦島太郎の苦悩 12. 存在価値』からつづく  目を丸くしているキキョウに茜が言った。 「ごめんなさい。熱く語り過ぎたわね。ラムネ星人や地球人――いえ、それだけでなく仲間のクローン・キャストにだって――私の価値を決めさせないという気持ちは、私の心棒みたいなものだから、つい熱くなってしまった」 「でも、茜さんは誰からも優秀なキャストとして評価されています。私も、私が知っているキャストの中で、一番だと思っています」 「評価は他人が勝手にすること。私は、自分の仕事が楽し

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 13. 心 棒

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 12. 存在価値

          『浦島太郎の苦悩/11. 煩 悶』からつづく 「タロー君は、キキョウさんに『自分は永久の穴で、いないのも同じだ』と言ったのね」 茜がキキョウの言葉を繰り返した。 「タロー君を穴にしてしまったのは、私なんです。タロー君は、『浦島太郎』を始める前から様子が変だった。始めてからは、すごく苦しそうだった。再生途中に私が緊急避難を申請していたら、タロー君はこんなことにならなかったんです」 キキョウの目に涙が浮かんだ。  キキョウは、茜の官舎に来ていた。茜から乙女役を引き継ぎ、茜の丁寧

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 12. 存在価値

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 11. 煩 悶

          『第5話 浦島太郎の苦悩 10. 反省』からつづく  「タロー君、二度とこんなことはしないで」 キキョウが、ベッドわきの椅子からタローにすがるように身を乗り出してきた。 「タロー君が自殺を図ったと聞いて、私は駆けつけてタロー君の手を握って、こちらの世界に連れ戻したかった。でも、それが出来なかった。次の昔話再生があった。でも、皆キツキツで回ってるから私の勝手で穴をあけるわけにいかなかった」 と言い終えて、キキョウは口に手をあてた。しまったと思ったのだ。  タローがベッドに目

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 11. 煩 悶

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 8. セイレーン

          『ヘルプデスク担当・乙女の闘い/7. 思いがけない助っ人』からつづく 「セイレーンいぅんは、人を惑わし、その者が自分でも気づいとらん胸の内を言葉にして吐き出させる巫女どす。ラムネ星巫女連盟に属して統合政府を助けとる巫女たちと区別するため、連盟所属の巫女たちを『白い巫女』、セイレーンを『黒い巫女』いぅて区別しとった時代もありました」 「『ありました』とおっしゃると、今は存在しないように聞こえますが」 スリナリ医師の言葉に、育成部長がしみじみした目になった。 「センセはセイレー

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 8. セイレーン

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 10. 反 省

          『第5話 浦島太郎の苦悩 9. タロー、突然死?』からつづく  白々しい灯りに照らされた措置入院治療所――精神疾患の急性期にあたる患者を人間、クローン・キャストを問わず強制的に収容する施設――の個室で、タローは茫然と壁に寄りかかっていた。  審問室で倒れた以降の記憶は、ほとんどなかった。審問室に誰かが飛び込んできたこと、ストレッチャーに載せられたこと、頭に何かをかぶせられたこと――そういう断片的な記憶が頭をよぎるだけだ。  混乱と無気力との数日の中に、時々、クローン・キャ

          「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 10. 反 省