『アラビアのロレンス』この世でいちばん美しい映画(映像的に)
デヴィッド・リーン監督が魅せる映像美
シネフィルを気取るほど映画は見ちゃいないが、それでも映画についていくらかの見識は持っているつもり。
この世で最も美しい映画として、『アラビアのロレンス』(1962)を推す。
今から60年前の映画と侮るなかれ。『アラビアのロレンス』の劇中には、現代の映画にはない映像美が満載だ。
なぜなら、この映画の画面には、映画がカラーフィルムになったことへの喜びが満ち溢れているからだ。
だからこそ、この時代のフィルムメーカーたちの持つ色彩感覚は、私たちのもつそれとは何段階か次元が違う。
名場面をいくつかご覧頂こう。
映画評論家の町山智浩は、この映画について「砂漠があって、地平線があって、その画面の中で人物はちっちゃく映り、先を目指して進んでいく」、そんな映像ばかりだと語っている。
そして、それが大変迫力があり美しいのだと。
確かにその通りだ。
劇中でロレンスは
「砂漠の何があなたをそんなに惹きつけるのか」と問われて
「清潔だからだ」(It's clean.)と答える。
砂漠は人を遠ざけ、侵入する者を拒む。
それだけに、何者もいない、汚れのない自然が広がっている。
227分!長大な『アラビアのロレンス』
『アラビアのロレンス』は、なにせ【完全版】だと227分ある映画である。本編は前半と後半に分かれている。
前半はアカバ攻略がクライマックスとなり、ロレンスがイギリス軍の司令部があるカイロに一旦帰り着くとインターミッション(休憩)が入る。
後半ではヒジャース鉄道爆破作戦から、中心都市ダマスカス攻略へ。ロレンスの活躍はイギリス本国でも大々的に報道され、背負う役割はどんどん大きくなっていく。
しかしロレンスは戦場の中で段々と憂み疲れ、心は擦り切れてしまい、人の死への感性も鈍り自らが大量虐殺の加担者にもなってしまう。
次第に中東での権益を確保しようとするイギリスの領土的野心も明らかになる中で、アラブの部族間同士の対立も調停することができず、ラストシーンでロレンスは失意のうちにアラビアを去る。
映画後半部でのロレンスは痛々しく、ままならない現実に苛まれた彼の表情は曇っていく。
これが映画の前半と比べ、後半の勢いが衰えてしまう要因だが、理想と現実の狭間で苦悩するロレンスの痛みもしっかりと受け止めたい。
中東での権益を狙うイギリスの「三枚舌外交」。各国と結んだ相互矛盾を引き起こす協定の正体にまで歩を進めれば、第二次大戦後に血で血を洗う世界の火薬庫となった中東世界の混迷の元凶までもが見えてくる。
午前十時の映画祭
長い映画を見るには、映画館へ行くのが一番かもしれない。
せっかくだから「午前十時の映画祭13」に合わせて投稿しようと思ったら、グズグズして大分遅れてしまった。
今回の上映は、7月6日(木)までwww
まあ、いい。
とにかく見てくれ。
映画館でなくてもいい。
私ははじめこの映画をソウル・東大門の安宿のベッドの上で見た。
別に小さなパソコンの画面でだって、『アラビアのロレンス』の素晴らしさは充分に享受できる。
優れた映画は、観る環境を問題にしないのである。
前節で言及したように歴史の複雑な背景のある映画だが、そこまで気を回さなくても華麗な映像美とピーター・オトゥール演じるロレンスの活躍は予備知識なしで充分楽しめる。
もしこの映画の時代背景やイギリス政府の目論見、その後の展開が気になる方には、以下の本を薦める。
本書ではしっかりと一章を割いて『アラビアのロレンス』に言及している。
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