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ヒシミラクル、奇跡の記憶 宝塚記念予想(2022)

春のG1シリーズを締めくくる宝塚記念。このレースは、年末の有馬記念に比肩するグランプリレースを関西にも、ということで阪神競馬場の改修が完了した1960年に創設された。
八大競走ではない後発のレースだったことから、当初は一流馬を集めることもままならなかったが、G1に指定され、イナリワン、タマモクロス、メジロマックイーンが勝利を挙げるなど次第にレースの格付けも上がっていき、現在では春競馬を締めくくる中距離最強馬決定戦としての地位を得ている。

ヒシミラクル、くる、くる、来た!

宝塚記念と聞いて思い出されるのは、2003年、ヒシミラクル(4・牡)が優勝したときのレースだ。馬群に沈む有力馬たちを尻目に、6番人気だったヒシミラクルは直線外から鮮やかな伸び脚を見せて先頭を駆け抜けた。2着にも人気薄の8番人気ツルマルボーイが飛び込み、馬連配当14,080円の波乱となった。
後から考えれば、菊花賞、天皇賞・春と長距離G1を連勝していたヒシミラクルが、なぜこんな低評価に甘んじていたのかと不思議に思うかもしれないが、そこにはそれなりの理由があった。
まず、ヒシミラクルはG1を二つ勝ってもなお、フロックのように思われていた。
父は内国産種牡馬の雄サッカーボーイとはいえ、母系は小牧場で代々受け継がれてきた地味な血統。デビュー当初の評価は低く、しかもヒシミラクルは未勝利を抜け出すのにじつに十戦を要していた。
それに加えて神戸新聞杯、阪神大賞典などでは惨敗し、勝ったG1二つを除けば、重賞では掲示板に載ったことさえない。
だからヒシミラクルは3000メートル以上でないと力を発揮できない純粋なステイヤー、または京都専用機のように見なされていた。

さらに、この2003年の宝塚記念に集ったメンバーは非常に豪華なものだった。
前年3歳ながら天皇賞・秋、有馬記念を勝ったシンボリクリスエス。有馬記念でそのシンボリクリスエスの2着と健闘し、前哨戦の金鯱賞を楽勝したタップダンスシチー。ダートから芝中距離までこなすオールラウンダーのG1四勝馬アグネスデジタル。それに前年の宝塚記念覇者ダンツフレームもいた。
そしてなんと言ってもこの年の牡馬クラシック二冠馬ネオユニヴァースが参戦し、大きな話題を集めていた。現役最強馬のシンボリクリスエスと、ダービーを勝ったばかりの二冠馬ネオユニヴァースとの頂上決戦というのが、戦前の大方の見方だった。
このようなメンバーの中で、中距離の実績に乏しいムラ馬だったヒシミラクルに人気が集まらなかったのも、考えてみれば当然なのである。

だが、ヒシミラクルの勝利には、前日から伏線があった。
前日土曜日の前売りオッズで、ヒシミラクルは突如として一番人気に躍り出た。その後、結果的に単勝オッズは16.3倍の6番人気に落ち着いたが、ヒシミラクルの単勝に大口投資した者がいる、という情報は発走前から一般のファンの間でも知れ渡っていた。

ファンファーレが響き、七万人を有に超える大観衆が詰めかける中、ゲートから無難なスタートを切ったヒシミラクルは道中集団やや後方につけた。マイソールサウンドが引っ張る澱みのない流れの中を3コーナー手前から徐々に押し上げていき、4コーナーでは先頭集団に取り付いた。
直線、タップダンスシチーとシンボリクリスエスが抜け出し、やはりこの二頭で決まるかと思われたのもつかの間、外からヒシミラクルが末脚を伸ばしてくる。最後まで脚の衰えなかったヒシミラクルは、大外から迫ったツルマルボーイをクビ差で退け、菊花賞、天皇賞・春に続くG1三勝目を手にした。

「またヒシミラクルかよ!」と場内は騒然となった。しかしこれでG1三勝目となったヒシミラクルの実力は、誰の目にも明らかだった。場内の観衆は、ヒシミラクルと鞍上の角田晃一とに賞賛の歓声を上げた。
そして後日、あの”ヒシミラクルおじさん”が2億円近い払い戻しを受けていたことが知れ渡り、衝撃の勝利と、大儲けをしたラッキーな男がいた、という話題の多い宝塚記念となった。

ヒシミラクルはこの宝塚記念を最後に勝利を挙げることは出来なかったが、同年秋の京都大賞典で59キロを背負いながらタップダンスシチーの2着、2005年の京都記念では60キロの酷量で3着と、確かに力のあるところを見せた。
ヒシミラクルのG1勝利は、そのどれもが観るものをアッと言わせる驚きの勝利ばかりだった。”ミラクル”というその名前も相まって、彼の名前は競馬ファンの記憶に深く刻まれることになった。

予想のポイント

さて、今年の予想に移る。
ここまでヒシミラクルが優勝した2003年の宝塚記念を取り上げたが、あれから19年が経過した現在でも、阪神内回り2200メートルのコース形態はほぼ変わっていない。つまり求められる要素も同じということだ。

①中長距離、長く良い脚を使える馬を買う
歴代の宝塚記念のラップを見ると、勝ち馬の上り3ハロンでも、35秒以上を要していることが多い。ここ10年の3着以内馬を見てみても、34秒台の上りを見せたのは2021年の勝ち馬クロノジェネシス、ゴールドシップが大幅に出遅れて極端なスローペースとなった2015年の1~3着馬、2012年の勝ち馬オルフェーヴルとわずか5頭のみ。34秒台前半を出すような切れ味は、ここでは必要ない。東京や京都コースではキレ負けしてしまうようなジリ脚の馬も、ここでは勝負になる。
宝塚記念が行われる阪神内回りコースでは、3コーナーあたりから追い出す馬が多く、ペースが早めに上がり、スタミナ勝負となることで単純な距離以上の持久力が求められる。長く、最後まで良い脚を使える馬であることが、宝塚記念で上位に食い込むための条件となる。

②宝塚記念、有馬記念の活躍馬には要注意
これはヒシミラクルには当てはまらないファクターだが、宝塚記念と有馬記念の両グランプリには、活躍馬に相関性がある。
ここ10年に限っただけでも、クロノジェネシス、リスグラシュー、ゴールドシップ、オルフェーヴルと両グランプリを制した馬が4頭もおり、加えてクロノジェネシスとゴールドシップの二頭は宝塚記念を連覇している。やや古いところでは、グラスワンダーもグランプリ三連覇を達成した。
これは阪神2200mと中山2500mのコースで求められる資質がよく似ているということを示している。G1というレベルの高い舞台で、右回りかつ内回りのコースで力を発揮した馬は、要注目ということだ。

宝塚記念 予想

これら二つのポイントを綜合すると、注目はタイトルホルダー、ディープボンドの天皇賞・春ワンツーの二騎。この二頭が最右翼となる。二頭ともに末脚のキレでは他馬に劣るが、長く良い脚を使え、スタミナも豊富であり、自分から競馬を動かすことができる。それに加えて、この二頭は斤量58キロでもしっかりと結果を残している
ただ、タイトルホルダーの勝利はすべて逃げを打ってのものなので、パンサラッサが強引にでも先手を奪うことが予想されることを考えれば、そこに不安材料が残る。番手の競馬に不安のないディープボンドの方が、人気から言っても妙味がある。
G1での実績からタイトルホルダーを本命としたが、対抗ディープボンドもほぼ同格の扱いとする。

②に挙げた有馬記念との相関性から、前年度有馬記念覇者のエフフォーリアも外せない。前走大阪杯で9着と大敗し、いまだに調教でも復調の気配が伺えないとの情報も出ているが、実績を考慮すると外すわけにはいかない。

持久力があり、長く良い脚が使えないと勝負にならないことから、デアリングタクト、パンサラッサは切るデアリングタクトは復調途上ということに加え、上り34秒台のキレ勝負で力を発揮することから、阪神2200mはベスト舞台ではない。パンサラッサは気になる一頭だが、2200m以上に良績が無くスタミナに不安がある。同じ理由で、ヒシイグアスも馬券からは外す。

一方で、買うべき馬を数頭挙げる。
オーソリティ
まだG1勝利には届いていないが、オーソリティはアルゼンチン共和国杯連覇など確かな実力がある。右回りに良績がないのはマイナスポイントだが、鞍上ルメールであれば、それもうまく捌いてくれそうだ。
ポタジェ
前走の大阪杯で前半1000m58.8とタフな競馬になった中で勝ち切ったポタジェは、さらに厳しい流れになりそうな宝塚記念でも期待できる。
キングオブコージ
穴馬を挙げるならキングオブコージ。目黒記念、AJCCと長い距離で実績を残しており、この馬も最後まで長く脚が使える。ハイペースになり消耗戦になる中で直線最後に突っ込んでくるのはこの馬、ということもあり得る。

タイトルホルダー
○ディープボンド
▲オーソリティ
△エフフォーリア
△ポタジェ
△キングオブコージ

というのが当方の結論。
タイトルホルダーとディープボンドを軸にしながら、オーソリティ、ポタジェ、キングオブコージで高配当を狙う。

おわりに

どうも毎年、宝塚記念の季節になると寂しい気持になる。
夏競馬も悪くはないが、この先三ヶ月も中央競馬のG1が無いなんて、どうやって毎週過ごしていけばいいのだろうと。
春のG1シリーズの締めくくりに、しっかりと馬券を的中させて終わりたいが、どうなることやら。




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