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DJ TECHNORCH『BOSS ON PARADE 〜XXX meets GABBA〜』

自分が日本のハードコア・テクノに出会ってから大体20年位だろうか。

最初に買った日本のハードコア・テクノのCDは、DJ SHARPNEL氏の『S.E.X. -Sound Of EXtreme』。吉祥寺にあったSHOP33でDJ SHARPNEL氏のCDが販売されているのを知り、お店に向かった。SHOP33の店内にはナードコア系のCDからROMZなどのエレクトロニカ系まで幅広く置かれており、普段自分が通っていたレコードショップとは違った品ぞろえと雰囲気であった。
お目当ての『S.E.X. -Sound Of EXtreme』を購入し、すぐさまCDウォークマンで聴いた。その時の衝撃と感動は絶対に一生忘れない。

インターネットを使いだした頃、SHARPNELSOUNDのWebサイトに頻繁にアクセスして、彼等から発信される情報を頼りに国内や海外の様々なアーティストやレーベルを知っていった。そして、渋谷にあったGUHROOVYにも通うようになり、海外ハードコアのレコードや日本のハードコア・テクノのCDを購入していき、世界が広がっていった。

最初はお客さんとして通っていたGUHROOVYであったが、自分がイベントを始めるようになってからはフライヤーをお店に置かせていただくようになり、そこから店長のDJ CHUCKY氏には色々な面でお世話になった。DJ CHUCKY氏は初期の頃からMurder Channelを本当に良くサポートしていただいた。心の底から感謝している音楽関係者の一人である。

DJ SHARPNEL - S.E.X. -Sound Of EXtreme

GUHROOVYは自分の知らない音楽と出会えるお店であったが、偶然居合わせたDJやクリエイター達と出会える場所でもあった。自分の人生とMurder Channelにとって欠かせない人物であるDJ TECHNORCHともGUHROOVYで最初に会った。

TECHNORCH君とは少し変わった形で出会っている。2006年にDev/NullとC64の日本ツアーをオーガナイズした時、Dev/Nullから「DJ TECHNORCHって知ってる??彼は最高だよ!!!」と聞かされ、始めて彼の存在を知った。そこからTECHNORCH君の作品を知り、その完成度の高さに衝撃を受けた。

ある日、GUHROOVYに行った時に自分が「DJ TECHNORCHって人はヤバいっすね!マジで凄いっすわ!この感動を本人に伝えたいくらいっすよ!」みたいなことを話してたらCHUCKY氏に「隣にいるじゃん(笑)」といわれ、横を見てみると本人がいた。失礼ながら、静かに佇んでいたTECHNORCH君を一般のお客さんだと自分は思っていたみたいである。これが我々の出会いであった。
その後、Murder Channelのイベントにも遊びに来てくれたのだが、その時のことは本人が『MURDER CHANNEL MIX CD Vol.1』のライナーノーツで語ってくれている。

ちなみに、Dev/Nullは日本のグラインドコアの大ファンであり、ハードコア・テクノとブレイクコアも熱心にチェックしていてBurning Lazy Personsを愛聴していた。『ブレイクコア・ガイドブック 上巻』でのDev/Nullのインタビューでは日本滞在中の面白い話が語られている。
Dev/NullとJason Forrest(DJ Donna Summer)はTECHNORCH君の1stアルバム『Gothic System: Trancecore Meets Gabber』とMPTのコンピレーションに収録されていた「Boss on Parade」に相当な衝撃を受けたらしく、彼等はTECHNORCH君と日本のハードコア(J-Core)をブレイクコア・シーンに情熱を持って布教させていた。

2006年8月にJason ForrestとDrumcorpsの日本ツアーをオーガナイズした際、彼等は自分の家に滞在しており、Jason ForrestはCD-Rに焼いて持ってきた数々のブレイクコアの未発表曲を聴かせてくれた。その時、Duran Duran Duran「Face Blast」を流してくれたのだが、Jason Forrestが「この曲はTECHNORCHのBoss on Paradeにインスパイアされたらしいよ」と言っていて、その影響力にとても驚いた。
他にも、Jason Forrestが大観衆の前で「Gothic System」をプレイしている動画を見たのも鮮明に覚えている。Jason Forrestが『ブレイクコア・ガイドブック 下巻』でのインタビューで話してくれているが、TECHNORCH君やJ-Coreは当時のブレイクコア・シーンにおいてカウンター的な存在であり、大きなインスピレーションの元となっていたのではないだろうか。

2006年8月にMaddest Chick'ndomからリリースされたコンピレーション『Maddest Skillz Vol. 1』の製作に自分も関わらせていただき、TECHNORCH君はガバキックを使ったハード・ミニマルな「Fujiyama Panic」という曲を提供してくれた。今まで聴いたことのなかったガバキックの使い方と、ハード・ミニマルのフィーリングをしっかりと活かした曲調に本当に感動した。

そして、その数か月後に発売前の『BOSS ON PARADE 〜XXX meets GABBA〜』のデモ盤CD-Rを本人から渡され、感想を聞かせて欲しいと言われた。ハード・ミニマル、シュランツ、デトロイト・テクノ、トライブといったジャンルをハードコアとガバキックを通して表現した曲は、当時の国内のハードコア・シーンではかなり異端であったかもしれない。もしかしたら、こういった実験的なアルバムを発表することを本人は危惧していたのかもしれないが、結果的にこのアルバムは日本のハードコア・テクノにそれまでなかった多様性を付け足し、ハードコア・テクノのまま何処までも自由に自身のビジョンを表してもいいことを伝えた。
前途のJason ForrestやDuran Duran Duranのように海外にまでその影響は及び、2000年後半からブレイクコアがRave/ハードコア化していった流れにも、今作は関わっているはずだ。

「Boss On Parade 」「そして時は動き出す ~Time To Move~ 」「復活富士山頂大回転 ~Fujiyama Panic~」といった低速ハードコア・スタイルは今聴いても斬新で刺激的だ。Manu Le Malinなどがインダストリアル・ハードコアやハード・テクノからの文脈で近いトラックは作っていたが、TECHNORCH君の方がより「ハードコア」であり「テクノ」であると感じた。それは今聴いても同じ感想を抱く。
「Schranz X 」はAngelが提示したシュランツコアの先駆けでもあり、Tymonのインダストリアル・ハードコアとシュランツの混合スタイルよりも早かった。
これらの曲は「合体させてみたら最強になるんじゃないか?」というような純粋な発想が根源にあるのか、技量よりも熱量で二つのジャンルを一つに違和感なく合体させている。

国内のハードコア・シーンにおいて、『BOSS ON PARADE 〜XXX meets GABBA〜』以降/以前で区切れる部分が存在しているんじゃないかと個人的には思っており、自分は今も昔も変わらず『BOSS ON PARADE 〜XXX meets GABBA〜』は日本のハードコア・テクノ史における名盤中の名盤であると思っている。

自分は余りにも『BOSS ON PARADE 〜XXX meets GABBA〜』が好きで、この素晴らしさをブレイクコア・ファンを中心に、もっと多くのジャンルのリスナーに伝えたいという想いが沸き、その流れでMurder Channelをレーベルとしてもスタートさせ、『BOSS ON PARADE REMIXES 〜DJ TECHNORCH meets XXX〜』を製作することになった。今作はTECHNORCH君のレーベルとMurder ChannelのWネームでのリリースとなっている。品番はMURCD-003となっているが、Murder Channelとしては初のリリース作品であった。

これは勝手な推測であるが、自分が見た範囲では当時ブレイクコアが好きな人は日本のハードコア系に関して拒否反応を示す人が多いようであった。
元々、ハードコアに対するアンチとして生まれたという背景が一部にあるブレイクコアなので、それはある意味正しいのかもしれない。ストレートな4x4キックを否定する所から始まったブレイクコアであったが、結果的にハードコア化してしまうことになるが、2006年~2007年当時はまだハードコアとブレイクコアは住み分けがされていた印象だ。特に日本ではシビアに客層は分かれていたかもしれない。

そういったこともあって、『BOSS ON PARADE REMIXES 〜DJ TECHNORCH meets XXX〜』を通じて日本のハードコアの面白さ、素晴らしさをMurder Channelに来てくれているお客さんやブレイクコア・ファンに知って貰うキッカケにしたいという想いもあった。それと、正直このままでは国内の一部のシーンは何も変わらないかもしれないという危機感もあり、何か強烈なものを投げかけたいという気持ちもあった。

『BOSS ON PARADE REMIXES 〜DJ TECHNORCH meets XXX〜』の製作前、まず誰にリミックスをして貰うかという話し合いがあり、お互い候補を出し合った。自分とTECHNORCH君の最初の候補がLuna-Cであり、お互いの意見が一発で合致した為、まずはLuna-Cにリミックスの依頼をしてみた。
拙い英文で依頼のメールを送ったのだが、有難いことに引き受けていただけることになり、すぐに素材を送った。実はその時、Luna-Cから「リミックスはどんなタイプのにする?何かリクエストはある?」と聞かれたが、リミックスして貰えるだけで十分なんで特にリクエストはないとすぐに返答した。兎に角急いでいたのである。
後日、その話をTECHNORCH君にしたら「選べるんだったらPiano Progressionみたいな往年の感じが良かったですね。。」と、少し残念がられていて申し訳ないことをしてしまった。だが、到着したLuna-Cのリミックスは文句無しに最高で我々は喜んだ。

残念ながら実現しなかったケースもある。Tim Exileは「Boss on Parade」のリミックスを引き受けてくれたが、PCがクラッシュしてしまった為に断念。他にも締め切りに間に合わず収録出来ない曲などが幾つかあったが、最終的には非常に良いバランスで『BOSS ON PARADE REMIXES 〜DJ TECHNORCH meets XXX〜』は纏まっている。
嬉しかったのが、リミックスを引き受けてくれたリミキサーは元の曲(オリジナル)に対してリスペクトを込めてくれており、とても良い抗体作用を引き起こせた。

Glowstyx(Bong-Ra)にもリミックスを依頼したのだが、彼が途中でツアーに出てしまった為、締め切りに間に合わず収録が出来なくなってしまった。だが、曲自体はその後に届いたので、折角だからMurder Channelのカラーを強くした番外編を作ろうということになり、『BOSS ON PARADE <OUT​-​SIDE> REMIXES』を500枚だけ発表した。現在CDは売り切れており、Bandcampでストリーミングのみ行っている。
実はこの番外編にはShitmatのリミックスも収録予定だったが、1分30秒程のプレビューデモを貰ってからストップしてしまい、未完成のまま終わってしまった。そのプレビューはかなり良い出来であったので残念だ。

『BOSS ON PARADE REMIXES 〜DJ TECHNORCH meets XXX〜』は2007年12月のコミックマーケットで初売りすることになった。

マスタリングが終わり、CDを秋葉原のテックトランスに持って行ってプレスの依頼をする。CDが出来上がる前も、出来てからも正直不安で一杯であった。当時としてはかなり思い切ったラインナップと、シュランツ~ブレイクコア~ブレイクス~レイブコアとバラバラなスタイルのリミックスで、これが何処で受け入れられるのか明確に見えてこず、もしかしたら全然売れない可能性も十分に考えられた。

当時、渋谷や秋葉原のデニーズとかでTECHNORCH君と打ち合わせをしていたが、完成が近づくにつれて「この企画大丈夫っすかね。。。」みたいな重いトーンで自分は会話をしていたのを覚えている。最初は鼻息荒く猛進していたが、まったく無視される可能性も見えてきて不安になっていた。売れないことよりも、これだけの良い作品が受け入れて貰えないことが怖かったのだろう。
我々は22~23歳の若手であり、レーベルを立ち上げてからまだ少ししか経っていなかった。当時は順序立てて(経験と知名度を上げて)海外アーティストのリミックスを収録するみたいな雰囲気も何となくあり、それを無視して動き出していた後ろめたさみたいなのも自分はあった気がする。

そして、迎えたコミックマーケットでの初売りの日。驚いたことに反応はとても良かった。有難いことに初回プレスは一ヶ月程で無くなり、すぐに再プレスした。
『BOSS ON PARADE REMIXES 〜DJ TECHNORCH meets XXX〜』は当時としては珍しく、ハードコア・ファンにもブレイクコア・ファンにも受け入れられていたと思う。自分が想像していたよりも多くの人々がこのCDをサポートしてくれて楽しんでくれていたようだ。

『BOSS ON PARADE REMIXES 〜DJ TECHNORCH meets XXX〜』の発売を記念して、リミキサーとして参加してくれていたFFF、前年にアルバムを出していたOVe-NaXx、そしてTECHNORCH君の3組で東京、金沢、福岡、静岡を回るツアーを企画。特に初日の東京と最終日の静岡は印象深かった。静岡ではTECHNORCH君とFFFが金沢で買ったレコードでb2bを披露。TECHNORCH君がトランスコアをプレイし、FFFが童謡を被せるといったストレンジなセットで最高だった。

その後、TECHNORCH君のリミックス・アルバム『内閣総辞職 〜WATASHITACHI〜』にOVe-NaXxが起用されたり、Murder ChannelからはTECHNORCH君とUNURAMENURAの合作EP『Mind of Mind』や、FFFがリミックスで参加してくれた『変身』シリーズなどの作品を一緒に作らせて貰った。

『BOSS ON PARADE 〜XXX meets GABBA〜』と『BOSS ON PARADE REMIXES 〜DJ TECHNORCH meets XXX〜』を聴くと自分と自分の好きな音楽を信じる気持ちを何度でも思い出せる。チャンスをくれたTECHNORCH君には感謝したい。

OVe-NaXx, FFF, Ume, Technorch ツアー最終日の静岡にて(2008年3月)







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